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1話 世紀の大発明
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僕は発明家だ。
と言っても、それほどたいそうなモノではない。いわゆる便利グッズと呼ばれる商品を考え、自分で制作して特許申請を行う。これまで特許を取得できたのは二つだがどれも正式な販売にまでは至っていない。つまり役に立たない発明品という事だろう。
「いらっしゃいませ~」
特許収入で悠々自適な暮らし。そんな夢を抱きながら僕は今日もコンビニであくせく働いている。
大学では電気工学を学び、院まで進んだ。でもどうしても『発明家』という小さい頃からの憧れを捨てきれず今に至る。
深夜0時を回り家へ帰ると、リビングのソファーで怜奈が爆睡していた。今日は週末。きっと酒を浴びるように飲んできたんだろう。こうなってしまうと何をやっても朝まで起きない。
彼女とは大学の頃から付き合いだして、今年で十年目。五年前から同棲も始めた。
ちらほら結婚の話も出てくるが、いかんせん僕がこんな状態だから後一歩が踏み出せない。女は三十路までには結婚とよく言うが、大企業でバリバリ働く彼女に対し後ろめたさが全開なのだ。
まだ寒い時期ではないが念のため彼女にタオルケット掛け、僕はシャワーを浴びて自室へと籠った。作業台に座りパソコンを起動する。今日は僕のお気に入りの動画配信者、ドイツ人のマテウスさんの新発明を作ってみよう、と二週間前から計画して準備をしていた。
自称「エジソンの転生者」を謳う彼が今回作るのは、スマホを使った物質透過装置、通称『ナクト』。日本語に訳すと『裸』という意味らしいが、すでにその魂胆の方が丸見えである。
でもそんな彼の邪な心意気、僕は嫌いじゃない。むしろロマンがあっていいじゃないか。「エロは科学を発展させる」と、かの偉人の誰それもきっと思っていたに違いない。
翻訳機能を使い、すでに動画は何度か見ていた。結論から言えば、今回の発明は失敗に終わるのだが、僕は最後までワクワクしながら見ていた。途中、装置の名前を「ナクト!」と溜めに溜めて言った時、「裸」と字幕が出てきた時は吹き出してしまったが。
作業台の上に用意しておいた道具や材料を並べる。今回はいっちょまえにも……オホン。今回はちゃんとした電子回路基板を使い、夢の装置『ナクト』を制作していくようだ。一応、工学部で修士課程までは進んだ身だ。設計図の段階で「一体何を作ろうとしてるのだろう?」と小さな疑問は浮かびはしたが、最早そんなことは我々発明家にとっては些事である。彼の真剣な眼差しを見れば、自《おの》ずと僕も触発されてしまう。
「ふぅー、できたー!」
制作時間、およそ一時間。遂に『ナクト』が完成した。僕は早速その性能を試すべく、作業台にスマホのレンズを当ててみた。もし物質透過が成功していれば作業台が透けて、引き出しの中がスマホの画面に映るはずである。
「あれ? そういえば透過範囲はなんも言ってなかったな。もしかして下の階の部屋が見えたり?」
少しドキドキしながらカメラ機能をオンにする。真っ暗な画が数秒映し出された後、パッと画面が切り替わった。
「これは……僕かな?」
そこに映っていたのは下から見上げたような感じで見えている僕の顔だった。例えば作業台に目があって、その目線で見ればおそらくこういう風に見えるだろうという映像だった。
僕は首を傾げながら立ち上がり、今度は壁にスマホを当てた。もし透過できるのならば隣のリビングが見えるはずである。しかし映ったのはまたしても僕の姿で、今度は部屋全体が見えていた。
画面の中の僕はパソコンを見ながらなにやら食べている。思わず作業台に目をやり映像と見比べる。台の上に置かれている物が今の様子とは違っている。
「これは……もしかして昨日の僕?」
服といい、食べてる物といい、たぶんこれは昨日の映像だ。一旦カメラをオフにしてスマホをまじまじと見つめる。この装置を作るために買った中古のスマホ。よく見ると日付と時間が狂っていた。デジタル時計に表示されているのは9月22日の21時。
「今は日付が変わって24日だから……22日の21時は……確かに夕飯食べてた時間かも……」
僕は再びカメラをオンにして、反対側の壁にスマホを当てた。すると映ったのは僕の後ろ姿。まさにこっち側から見た映像だ。
「もしかして物質が見たモノを映してる?」
突拍子もない考えだが、それしか説明のしようがない。これはもしかしたら世紀の大発明かもしれない。
「や、やたーーー!!」
半信半疑ではあるが、まずは喜びを表し両手を上げて部屋を飛び出した。ソファーへ駆け寄り、大の字が半分乗っかった状態で寝ている怜奈を揺り起こす。
「怜奈! すごいことが起きた! おーい! れーいなーーー!」
やはりではあったが、怜奈が起きる様子はない。楽しい夢でも見ているのか、少しにやけた顔で眠っていた。
仕方なく僕はこの『ナクト』をもう少し検証してみようと思い、部屋のあらゆるモノにスマホを当ててみた。ソファーや冷蔵庫、水槽やテレビで試してみたが、昨日の21時頃に家にいたのは僕だけだ。つまり僕の部屋にあるモノ以外はどれも代り映えしない映像ばかりだった。
スマホの日時を変えてやってみようかと思ったその時、ふとテーブルの上に置いてある怜奈のバッグが目に入った。彼女が起きるはずはないのだが、念のためそーっと近づいて『ナクト』をバッグの真ん中辺りに押し当てた。
数秒の黒味の後、パッと現れた映像には裸の男女がベッドで激しく交わっていた。バッグはベッドの傍に置いてあったのだろうか、いわゆる騎乗位でまぐわう男女の顔はフレームから外れている。
僕の心臓は急にドクドクと脈打ち始める。残念ながら『ナクト』は音までは拾ってくれない。だが声は聞こえなくとも、その女が誰なのかはだいたい察しがつく。
二人の動きが激しさを増したのか、画面が大きく揺れバッグの目線がずれた。そこに映ったのは恍惚とした、俗にいうアヘ顔をしながら乳をブルルンと揺らす怜奈の姿があった。
「おぉ……ナクト……」
マテウスさんが命名したその名前は、この装置にぴったりだった。
と言っても、それほどたいそうなモノではない。いわゆる便利グッズと呼ばれる商品を考え、自分で制作して特許申請を行う。これまで特許を取得できたのは二つだがどれも正式な販売にまでは至っていない。つまり役に立たない発明品という事だろう。
「いらっしゃいませ~」
特許収入で悠々自適な暮らし。そんな夢を抱きながら僕は今日もコンビニであくせく働いている。
大学では電気工学を学び、院まで進んだ。でもどうしても『発明家』という小さい頃からの憧れを捨てきれず今に至る。
深夜0時を回り家へ帰ると、リビングのソファーで怜奈が爆睡していた。今日は週末。きっと酒を浴びるように飲んできたんだろう。こうなってしまうと何をやっても朝まで起きない。
彼女とは大学の頃から付き合いだして、今年で十年目。五年前から同棲も始めた。
ちらほら結婚の話も出てくるが、いかんせん僕がこんな状態だから後一歩が踏み出せない。女は三十路までには結婚とよく言うが、大企業でバリバリ働く彼女に対し後ろめたさが全開なのだ。
まだ寒い時期ではないが念のため彼女にタオルケット掛け、僕はシャワーを浴びて自室へと籠った。作業台に座りパソコンを起動する。今日は僕のお気に入りの動画配信者、ドイツ人のマテウスさんの新発明を作ってみよう、と二週間前から計画して準備をしていた。
自称「エジソンの転生者」を謳う彼が今回作るのは、スマホを使った物質透過装置、通称『ナクト』。日本語に訳すと『裸』という意味らしいが、すでにその魂胆の方が丸見えである。
でもそんな彼の邪な心意気、僕は嫌いじゃない。むしろロマンがあっていいじゃないか。「エロは科学を発展させる」と、かの偉人の誰それもきっと思っていたに違いない。
翻訳機能を使い、すでに動画は何度か見ていた。結論から言えば、今回の発明は失敗に終わるのだが、僕は最後までワクワクしながら見ていた。途中、装置の名前を「ナクト!」と溜めに溜めて言った時、「裸」と字幕が出てきた時は吹き出してしまったが。
作業台の上に用意しておいた道具や材料を並べる。今回はいっちょまえにも……オホン。今回はちゃんとした電子回路基板を使い、夢の装置『ナクト』を制作していくようだ。一応、工学部で修士課程までは進んだ身だ。設計図の段階で「一体何を作ろうとしてるのだろう?」と小さな疑問は浮かびはしたが、最早そんなことは我々発明家にとっては些事である。彼の真剣な眼差しを見れば、自《おの》ずと僕も触発されてしまう。
「ふぅー、できたー!」
制作時間、およそ一時間。遂に『ナクト』が完成した。僕は早速その性能を試すべく、作業台にスマホのレンズを当ててみた。もし物質透過が成功していれば作業台が透けて、引き出しの中がスマホの画面に映るはずである。
「あれ? そういえば透過範囲はなんも言ってなかったな。もしかして下の階の部屋が見えたり?」
少しドキドキしながらカメラ機能をオンにする。真っ暗な画が数秒映し出された後、パッと画面が切り替わった。
「これは……僕かな?」
そこに映っていたのは下から見上げたような感じで見えている僕の顔だった。例えば作業台に目があって、その目線で見ればおそらくこういう風に見えるだろうという映像だった。
僕は首を傾げながら立ち上がり、今度は壁にスマホを当てた。もし透過できるのならば隣のリビングが見えるはずである。しかし映ったのはまたしても僕の姿で、今度は部屋全体が見えていた。
画面の中の僕はパソコンを見ながらなにやら食べている。思わず作業台に目をやり映像と見比べる。台の上に置かれている物が今の様子とは違っている。
「これは……もしかして昨日の僕?」
服といい、食べてる物といい、たぶんこれは昨日の映像だ。一旦カメラをオフにしてスマホをまじまじと見つめる。この装置を作るために買った中古のスマホ。よく見ると日付と時間が狂っていた。デジタル時計に表示されているのは9月22日の21時。
「今は日付が変わって24日だから……22日の21時は……確かに夕飯食べてた時間かも……」
僕は再びカメラをオンにして、反対側の壁にスマホを当てた。すると映ったのは僕の後ろ姿。まさにこっち側から見た映像だ。
「もしかして物質が見たモノを映してる?」
突拍子もない考えだが、それしか説明のしようがない。これはもしかしたら世紀の大発明かもしれない。
「や、やたーーー!!」
半信半疑ではあるが、まずは喜びを表し両手を上げて部屋を飛び出した。ソファーへ駆け寄り、大の字が半分乗っかった状態で寝ている怜奈を揺り起こす。
「怜奈! すごいことが起きた! おーい! れーいなーーー!」
やはりではあったが、怜奈が起きる様子はない。楽しい夢でも見ているのか、少しにやけた顔で眠っていた。
仕方なく僕はこの『ナクト』をもう少し検証してみようと思い、部屋のあらゆるモノにスマホを当ててみた。ソファーや冷蔵庫、水槽やテレビで試してみたが、昨日の21時頃に家にいたのは僕だけだ。つまり僕の部屋にあるモノ以外はどれも代り映えしない映像ばかりだった。
スマホの日時を変えてやってみようかと思ったその時、ふとテーブルの上に置いてある怜奈のバッグが目に入った。彼女が起きるはずはないのだが、念のためそーっと近づいて『ナクト』をバッグの真ん中辺りに押し当てた。
数秒の黒味の後、パッと現れた映像には裸の男女がベッドで激しく交わっていた。バッグはベッドの傍に置いてあったのだろうか、いわゆる騎乗位でまぐわう男女の顔はフレームから外れている。
僕の心臓は急にドクドクと脈打ち始める。残念ながら『ナクト』は音までは拾ってくれない。だが声は聞こえなくとも、その女が誰なのかはだいたい察しがつく。
二人の動きが激しさを増したのか、画面が大きく揺れバッグの目線がずれた。そこに映ったのは恍惚とした、俗にいうアヘ顔をしながら乳をブルルンと揺らす怜奈の姿があった。
「おぉ……ナクト……」
マテウスさんが命名したその名前は、この装置にぴったりだった。
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