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勇者に倒された魔王が勇者の子に自ら転生したら
しおりを挟む激しい炎が渦巻く業火の中に私はいた。
すでに四肢は切り落とされもはや首だけとなった体。傍らには私をここまで追い込んだ勇者の亡骸があった。最後の最後に命を懸けて放った攻撃。敵ながら見事だった。遠くの方では奴の仲間だろうか、女が一人叫びながら泣いていた。
次第に勇者の体も燃え尽きようとしていた。奴の死に顔はとても穏やかで満足そうだった。おそらく私を倒した事を確信していたのだろう。
だが奴は知らなかった。魔王は体が朽ちるとも魂さえあれば復活できる。やがて我が首は灰となり魂だけの存在となった。ふわりと宙に浮かびながら、さて次の依り代はどうしようかと考えた。なるべくなら魔力が多い魔族が良い。
その時、強い魔力を近くに感じた。そこには勇者の仲間が泣き崩れながら地に伏している。私は彼女の体内からとてつもない魔力を感じ取った。彼女は勇者との子を宿していた。
たまには人間に転生するのも一興か、と私は勇者が残したその命を新たな依り代にすることにした。
やがて私は産声と共にこの世に生れ落ちた。名前はリネオスと名付けられた。
愛した人が残した忘れ形見である私を、母親はたいそう可愛がった。深い愛情を受け、私はすくすくと育った。勇者の子であるということもあり、周りからも常に感謝された。人間世界で過ごすうちに、いつしか私は魔王であることを忘れ始めていた。
魔王が消え、魔物の数もどんどんと減っていった。それでも時折現れる魔物を退治するため私は戦った。勇者の血がそうさせるのか、人々を助ける使命感というものが常に私の中に生まれる。流石は勇者の子、と褒め称えられ勲章も授かった。王女と結婚という話も受けたが私は断った。
私にはすでにアンネという恋人がいた。彼女とは幼い頃から常に一緒だった。共に野を駆け回り、狩りをした。やがてお転婆だったアンネは美しく成長し私は恋に落ちた。
彼女と過ごす日々はとても平穏で心が安らいだ。母とアンネと食卓を囲む。そんな何気ない幸せがずっと続くと信じていた。
ある時王の命を受け、私は僻地の魔物討伐へと向かった。十日程が経ち、討伐を終え帰還するとなにやら自分の屋敷の周りが騒がしかった。聞けば私の留守中、盗賊の襲撃を受けたのだという。
荒らされた屋敷の中には冷たくなった母とアンネの亡骸が横たえてあった。無残に変わり果てたその姿に私は呆然自失となった。私は泣きながら二人を抱きしめた。いくら名前を呼んでも、もう彼女たちの声を聞くことはできなかった。
私は血眼になって盗賊達を探した。ようやく見つけた拠点に乗り込むと容赦なく皆殺しにした。最後に残った男が命乞いをしながら全てを白状した。屋敷を襲ったのは王に頼まれたからだと。王女と私を結婚させるためにアンネを始末したと。
命だけはと懇願する男の首を私は無言で刎ねた。
静まり返る月夜の下で私の中のなにかが弾けた。
人間とはなんと愚かな生き物よ。
自らの欲の為に他者を傷つけほくそ笑む。
人を信じるのはなんと虚しき事よ。
私の中の人の心は夜の帳へと消えていった。魔王の魂が再び目覚め力が溢れ出した。
それでは始めるとしよう。魔王による恐怖と蹂躙の世界を――
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