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秘密の無い世界
しおりを挟む全ての人間の思考や思想はAIによって管理されていた。
管理といっても操作されているわけではない。人々は学校や仕事、恋愛に趣味にとそれぞれが好きなように生活を送っている。
ただこれまでと違っていたのは、テロや犯罪など事件性があるような行動を起こそうと考えた時、AIにより警告を与えられ、場合によっては警察による拘束も認められていた。もちろん突発的、衝動的な事件に関しては効果を発揮しなかったが、それでも犯罪の発生率は格段に減少した。
このAIによる犯罪抑止は年々精度を高め、今では軽い犯罪に結びつく思考もその対象となっていた。例えば生徒Aが生徒Bをいじめてやろうと考えただけで、本人のみならず対象の生徒、そして教師の脳に埋め込まれたチップに警告が送られる。つまりは事を起こす前になんらかの処置や対応が取られるということになる。
ここにとある一組の夫婦がいた。ある日妻は夫にこう言った。
「私、佐々木さんとこの旦那さんに口説かれて浮気しようとしているの。もう知ってるわよね?」
「ああ、おととい警告が届いたからな。それで? 浮気するつもりか?」
「それが……向こうはなんか奥さんと揉めてるらしくて。どうなるかわからないわ」
「するなら早めに言ってくれ。弁護士を雇わないといけないからな」
「あら、離婚する気?」
「ああ、そこまで人が出来てるわけじゃないんでな」
「自分は浮気したのに?」
男の肩がビクッと跳ね額に汗が滲み始めた。慌てたようにして男は弁解をした。
「あ、あれはおまえが妊娠中で! 衝動的にああなってしまったんだ! おまえも許してくれたじゃないか!?」
「あの時は産まれてくる赤ちゃんのことを考えてたから、仕方なしによ」
その時、夫婦二人の脳内チップに警告が届いた。夫は青褪め妻はケラケラと笑った。
「あらごめんなさい。思い出したら殺意が湧いちゃったわ」
夫は怯え口をつぐむ。いつしか警告メッセージは取り消されていた。
「それで? 弁護士がどうのっていう話だったわね?」
「ああ……そんなことはしないよ。おまえの好きにしたらいい」
「ありがとう。これからも良い夫婦でいましょうね」
「……ああ」
秘密が無くなった世界でも、どうやら男女の諍いというのは無くならないようだ。
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