上 下
17 / 23

コンニャクと指輪

しおりを挟む

 私が品出しをしていると女性お客さんがなにやら考え込みながら立っていた。

「お客様、何かお探しですか?」

 私が声をかけるとその女性は悩むような仕草で答えた。

「珍しく主人が残業がないみたいで、家で夕飯を食べるって言ってるの。おでんを作ってあげようと思うんだけどコンニャクをどうしようかと思って……」

「……コンニャクですか?」

「ええ、なんでも昔同棲していた彼女がコンニャク大好きで毎日のように食べさせられたんだって。だからうちではコンニャクは滅多に料理に入れないんだけど……おでんのコンニャクって美味しいでしょう? 昔の話だし今なら食べてくれるわよね」

 私はなんて答えていいかわからず、とりあえず笑顔を返しておいた。



 それから数日後、例の女性のお客さんを見かけたので私は声をかけた。

「いらっしゃいませ。この前は旦那さんコンニャク食べてくれましたか?」

「ああ、あれねぇ。結局主人はコンニャクだけ食べなかったわよ。『は勘弁してくれ』だって。言った後にしまった!って顔してたから笑ったわ」


 そう言って口元に手を当てて笑う彼女の薬指には指輪の跡だけが残っていた。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

パート先の店長に

Rollman
恋愛
パート先の店長に。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

偶然PTAのママと

Rollman
恋愛
偶然PTAのママ友を見てしまった。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...