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コンニャクと指輪
しおりを挟む私が品出しをしていると女性お客さんがなにやら考え込みながら立っていた。
「お客様、何かお探しですか?」
私が声をかけるとその女性は悩むような仕草で答えた。
「珍しく主人が残業がないみたいで、家で夕飯を食べるって言ってるの。おでんを作ってあげようと思うんだけどコンニャクをどうしようかと思って……」
「……コンニャクですか?」
「ええ、なんでも昔同棲していた彼女がコンニャク大好きで毎日のように食べさせられたんだって。だからうちではコンニャクは滅多に料理に入れないんだけど……おでんのコンニャクって美味しいでしょう? 昔の話だし今なら食べてくれるわよね」
私はなんて答えていいかわからず、とりあえず笑顔を返しておいた。
それから数日後、例の女性のお客さんを見かけたので私は声をかけた。
「いらっしゃいませ。この前は旦那さんコンニャク食べてくれましたか?」
「ああ、あれねぇ。結局主人はコンニャクだけ食べなかったわよ。『今日くらいは勘弁してくれ』だって。言った後にしまった!って顔してたから笑ったわ」
そう言って口元に手を当てて笑う彼女の薬指には指輪の跡だけが残っていた。
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