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妻のスマホのロック画面
しおりを挟む最近なんだか妻の様子がちょっと怪しい。
1年ほど前から妻はパートを始めたが、ここ3か月くらいで週3から週5にその回数が増えた。特に生活が苦しいとかではないが妻曰く、人手が足りないらしい。
最近は土日も出勤したうえ帰りが遅くなることもたまにある。メイクも濃くなり派手な服装も増えてないだろうか。ここまで怪しいと疑わない方がどうかしている。
結婚して3年。カレカノの年数を入れれば妻とはもう10年の付き合いになる。まだ子宝には恵まれてはないが夫婦仲はいい方だと自負している。もちろんまだセックスレスではない。
今日は友達と飲みに行ったらしく、日付が変わる直前に帰宅し只今絶賛ソファーで爆睡中だ。おれは床に転がる妻のバッグからスマホを抜き取った。
電源ボタンを押すとそこは言わずもがなロック画面が現れる。4桁の暗証番号を入れるタイプのやつだ。
まずはベタに妻の誕生日を入れてみる。これはもちろんハズレ。きっと妻もおれがいつか覗くだろうと思っていたのだろう。
次に結婚記念日。はいハズレ。まさかとは思うがおれの誕生日。
――ロックが解除された。不覚にもおれは少しニヤついてしまった。
しかし解除したはずの画面に現れたのは次の文章。
Q.好きな食べ物は?
ん? これはパスワードを忘れた時とかによく見るやつじゃないだろうか? もうすでにパスワードは入れたはずなんだけど……
おれは首を傾げながらとりあえず妻の好きな食べ物を入れてみる。
A.揚げ出し豆腐
すると画面には次の質問が現れた。
Q.好きな色は?
A.黄色
Q.嫌いな食べ物は?
A.納豆
ハズレた……。確かに妻はおれと一緒で納豆嫌いだったはずでは? おれは納豆の臭いを嗅いだだけで吐きそうになる。もしかしておれに合わせて嫌いと言ってくれてたのだろうか?
とりあえず妻が他に嫌いな食べ物を入れてみると次の質問へと進んだ。おれはふーっと大きく息をはいた。
Q.好きな映画は?
付き合っていた頃、とある映画を観た時、横で妻は号泣していた。スクリーンの光に照らされたその顔が妙に愛おしかった。その時おれは思わず微笑みながら妻の頭を撫でた。
懐かしい思い出に思わずおれの顔も綻ぶ。そしてその映画のタイトルをスマホに打ち込んだ。
A.アバター
そしてまた次の質問が現れた。
その後も質問は続き、気付けば1時間ほどそれに答えていた。一番大切な人は? という質問の答えがおれだった時は、また顔がにやけてしまった。
Q.あなたは妻を愛してますか?
突然現れたその質問におれは一瞬戸惑った。これはおれに向けられた質問なんだろうか? はいといいえの二択となっていた。
おれはスマホを握ったまま妻の寝顔を見た。
果たしておれは本当に妻を愛しているのだろうか? 今まさに妻の浮気を疑いスマホを覗き見ようとしている。これまでの質問の答えは、妻は今でもおれを愛していると物語っているではないか。そんな妻を信じてやれず一体おれは何をやっているのだろう。思えばここ最近、疑心暗鬼から妻に冷たく当たっていたのはおれの方だったかもしれない。
おれはスマホ画面の「はい」のボタンを押した。するとロックは解除されホーム画面が現れた。だがそれ以上おれは何も見ずにスマホをそっとバッグに仕舞い直した。そして寝室から毛布を持ってくると、スヤスヤと寝息を立てる妻にそっとそれを掛けた。
目が覚めるとソファーの上だった。どうやら昨日は帰ってそのまま寝てしまったみたい。お酒と激しい運動できっと疲れてたんだな。
うふふと笑いながら私は体を起こした。バッグからスマホを取り出し顔認証でロックを解除する。するとL1NEのアイコンには通知を知らせる1のマークがあった。未読のままのそのメッセージを開くと、愛しの彼ピからのものだった。
私はニコニコしながらそのメッセージに「昨日は楽しかったね♪ 私も愛してるよ♡」と返した。
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