17 / 23
17話 闇の力
しおりを挟む大小様々な魔物が咆哮を上げながら王都へと侵入する。激しく地響きを立て街全体が揺れているようだった。王国民のみならず兵士達までもが逃げ惑っていた。
「こりゃ数が多過ぎる! 食い止めらんねぇぞっ!!」
アンクバートが次々に矢を放つがまさに焼け石に水。スタンピートによる魔物の進軍は益々勢いを増していた。
エンシェントドラゴンにはまだ止めを刺せていない。だがここは一旦スタンピートを止めるのが先決か、とおれが逡巡している時だった。迫り来る魔物達に微動だにせず、プルジャは両手を目の前に掲げた。
「百鬼夜行」
プルジャの目の前に大きな光の輪が現れ、そこから何十体もの巨大な死霊が飛び出してきた。
「ボストロールの死霊か!? にしてもなんちゅう数だよ!」
アンクバートが驚愕の声を上げるもプルジャがそちらを見る事はない。
「こつこつ集めた。もったいないけど出し惜しみはしない」
ボストロールの軍隊とでも言うべきであろうか、巨大な死霊達が魔物の大群を次々に薙ぎ払っていく。中には怯えて逃げ出す魔物まで現れ始めた。
その様子を見ておれは改めてドラゴンに意識を向けた。予期せぬ攻撃を喰らった事でドラゴンの雰囲気も一変していた。確実におれを敵認定している。だがそれは却って好都合だ。激昂状態を長く続けると思考が完全に失われかねない。
ドラゴンが体を回転させ頭をこちらへ向けた。首をわずかに縮めながら大きく口を開いた。おそらくまたブレスを放つ気だろう。
「突っ込むぞ!」
おれの言葉が届いたのか、それとも死を恐れぬ死霊だからなのか。ワイバーンはその翼で空を叩くかのように前へと突き進んだ。大口を開けたドラゴンの頭がぐんぐんと近づく。その喉の奥には真っ赤に燃え上がる炎が膨れ上がるように大きくなっていた。
おれは剣を一本鞘に納めると右手に握った剣に魔力を集中させた。顔に吹き付ける風が猛烈に熱くなる。眩い光が一瞬で目の前に広がった。炎に巻かれワイバーンは焼失する。おれは炎を切り裂きながらドラゴンの口の中へと飛び込んで行った。
「刺突!」
魔力を込めた剣先がドラゴンの肉を骨を貫いていく。
「うおぉぉぉぉーー!!」
更に魔力を絞り出し一気に放出させた。パリーンと鱗が砕ける音が響き渡った。全身を真っ赤な血で染めたおれの目の前には突き抜けるような青空が広がっていた。
足元から這いずるように湧き出した影が私の全身を包んでいく。冥界の悪魔の吐息が、冷笑が耳元で微かに聞こえた。まだ完全に乗っ取られるわけにはいかない。自我をわずかに残すように顔の半分だけは影に飲み込まれずに済んだ。
「まさか悪魔を憑依させるとはな! 狂乱勇者の妻に相応しいじゃないか!」
ロディは目を見開きながら嘲笑を浮かべていた。そして瞬時に構え魔法を放った。
「風切り!」
迫り来る風の刃に向け私は手をかざした。闇の魔力によってロディの魔法はあっさりと消え失せた。
「くっ! 雷光の槍!!」
アジュダに放った時よりも強力な稲妻が伸びてくる。私はそれを片手で払い除けながらロディへと歩を進めた。
「闇夜の蝶」
私の指先から現れた真っ黒な蝶が、まるで花びらが舞うようにひらひらとロディに向かって飛んでいく。
「氷壁《ムルデゲル》っ!」
分厚く張られた氷の壁も蝶が軽く触れただけで崩れ落ちた。慌てて蝶を払い落とそうとしたロディの手が一瞬で黒く染まった。
「ぎゃああああーーー!!」
腕を押さえながらロディが叫び声を上げた。ボタボタと血が流れ出し、そして皮膚が壊死したかのように紫色へと変わっていった。私は歩みを止める事無くロディへと一歩一歩と近づいていく。
「く、来るなっ来るなーー!」
もはや戦意を失ったかのようにロディは後退る。恐怖に慄《おのの》く彼に私が手をかざした時だった。
「閃光!」
まぶしい程の光で私は目を閉じた。そして次の瞬間、目の前にいたロディは姿を消していた。思わず私は後ろを振り返る。
そこにはアジュダを抱きかかえたロディが下卑た笑いを浮かべながら立っていた。
0
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

勇者、追放される ~仲間がクズばかりだったので、魔王とお茶してのんびり過ごす。戻ってこいと言われても断固拒否。~
秋鷺 照
ファンタジー
強すぎて勇者になってしまったレッグは、パーティーを追放され、一人で魔王城へ行く。美味しいと噂の、魔族領の茶を飲むために!(ちゃんと人類も守る)
護国の聖女、婚約破棄の上、国外追放される。〜もう護らなくていいんですね〜
ココちゃん
恋愛
平民出身と蔑まれつつも、聖女として10年間一人で護国の大結界を維持してきたジルヴァラは、学園の卒業式で、冤罪を理由に第一王子に婚約を破棄され、国外追放されてしまう。
護国の大結界は、聖女が結界の外に出た瞬間、消滅してしまうけれど、王子の新しい婚約者さんが次の聖女だっていうし大丈夫だよね。
がんばれ。
…テンプレ聖女モノです。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる