8 / 23
8話 黒幕
しおりを挟む地下牢には底知れぬ静けさが漂っていた。
おそらくモーファは離れた別の牢に入れられたのだろう。たまに聞こえる看守の欠伸くらいしか人の気配はしなかった。
今後は審問会議、もしくは姦通裁判に掛けられることになるだろう。王女の婿を寝取ってしまったのだ、よくて幽閉、最悪は処刑となるだろうか。何度か魔法を使い脱け出そうと試みたが、首にはめられた魔法封じの輪が光り魔力が吸い取られてしまった。
ただぼんやりと蝋燭の炎を眺めていると牢の中にすうっと人の影が射した。私は顔を上げる事無く地面にひれ伏した。
「申し訳ございません……」
「なぜモーファとの関係が明るみになった?」
感情を向ける様子もなく彼は抑揚のない声でそう言った。
「ヴァレントがネクロマンサーの子供を連れておりました。その者により、私とモーファに憑いていた死霊の記憶を読み取られたようです」
「聖女に死霊が憑いていたのか? 随分と滑稽な話だな」
「つい最近憑りつかれたのかと……迂闊でした。弁解のしようもありません」
彼が小さく溜息をこぼした。私はずっと下を向き彼の言葉を待った。
「私との関係は知られたのか?」
「それは大丈夫でございます。貴方様との痕跡は何も残しておりません」
「いいだろう。では罪はモーファひとりに被ってもらう事にしよう。もう少し利用していたかったが」
「仰せのままに……」
「レベリオ、おいで」
薄明りの中から彼が手を差し伸べた。私はゆっくりと立ち上がると、彼の手を取り身を寄せた。彼は私の顎先をそっと掴み、顔を引き寄せながら耳元でささやいた。
「私への愛を誓えるか? レベリオ」
「はい。私はロディ様へ心からの愛と忠誠を誓います」
彼は満足そうに笑うと唇を重ねた。そして口づけを交わしながら私の首元へちらりと視線を落とした。首にはめられた魔法封じの輪はなんの変化もなかった。それを確認し、彼は再び口元を緩めた。
「どうやら呪術契約はもう必要ないようだな。嬉しいよレベリオ」
「身も心も全て、貴方様へ捧げております」
私は恍惚とした表情を浮かべ彼を見つめた。
「事が落ち着いたら契約を解いてやろう。そして私の子種を授けてやろう」
「ありがとうございます。ロディ様」
彼は私からすっとその身を離すと闇の中へと姿を消した。
「それでは続いて聖女レベリオ! そなたに弁明の機会を与えよう」
姦通裁判が開かれている議事堂内に宰相の声が響き渡った。モーファはすでに諦めたのか、反論する事無く罪を認めた。彼は項垂れながら座り込み手に掛けられた枷《かせ》を見つめていた。
レベリオが中央の証言台へと上る。少しやつれたのか、彼女にいつものような輝きはなかった。しばらくの沈黙の後、彼女は語りだした。
「私はモーファ殿に脅されてました!」
議事堂内にどよめきが起こる。「ご静粛に!」と宰相が声を張り上げレベリオに続けるよう促した。
「最初の頃は影でこそこそと体の関係を迫るだけでした。もちろん私は断っておりました。けれどその内彼の言動は度を越してきました。私が従わなければ我が夫、ヴァレントを事故に見せかけ殺すと脅してきました」
再びどよめきが起こると、堪らずモーファが立ち上がり叫んだ。
「何言ってやがる! 誘ってきたのはおまえだろっ!!」
両脇にいた兵士がモーファを抑え込む。騒然とした中、宰相がレベリオに問いかけた。
「そのような事、我々に報告すればよかったのではないか?」
「そのつもりでした。しかしある日、不意をつかれ服従の契約を結ばされたたのです! これがその証拠でございます!」
彼女が耳元の髪を掻き揚げた。するとそこにはなにか文字のような印があった。横に座っていたプルジャが目を細めながらそれを見ていた。
「確かにあれは呪術印。モーファは呪術師なの?」
「いや、奴は魔法剣士だ。呪術など使えるわけが――」
おれの言葉を遮るようにレベリオが再び声を荒げた。
「彼は見た事もないような呪具を使ってました! きっとどこかに隠しているはず!」
「おのれぇ! ふざけた事を!!」
モーファが横にいた兵士の剣を奪いレベリオへと飛び掛かった。一線を退いたとはいえ元騎士団長。一瞬でレベリオへと肉薄する。すぐさまおれも剣を抜きモーファの急襲を防ごうとしたその時だった。
剣を握ったモーファの腕が宙を舞い、その首が床へとぼとりと落ちた。
突然放たれたその風魔法をおれは剣で封殺した。そして魔法を放った張本人を睨みつけた。
元勇者パーティーの賢者である宰相ロディの顔を――
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。
のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。
俺は先輩に恋人を寝取られた。
ラブラブな二人。
小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。
そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。
前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。
前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。
その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。
春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。
俺は彼女のことが好きになる。
しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。
つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。
今世ではこのようなことは繰り返したくない。
今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。
既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。
しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。
俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。
一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。
その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。
俺の新しい人生が始まろうとしている。
この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。
「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。
[完結:1話 1分読書]幼馴染を勇者に寝取られた不遇職の躍進
無責任
ファンタジー
<毎日更新 1分読書> 愛する幼馴染を失った不遇職の少年の物語
ユキムラは神託により不遇職となってしまう。
愛するエリスは、聖女となり、勇者のもとに行く事に・・・。
引き裂かれた関係をもがき苦しむ少年、少女の物語である。
アルファポリス版は、各ページに人物紹介などはありません。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
この物語の世界は、15歳が成年となる世界観の為、現実の日本社会とは異なる部分もあります。
【破天荒注意】陰キャの俺、異世界の女神の力を借り俺を裏切った幼なじみと寝取った陽キャ男子に復讐する
花町ぴろん
ファンタジー
陰キャの俺にはアヤネという大切な幼なじみがいた。
俺たち二人は高校入学と同時に恋人同士となった。
だがしかし、そんな幸福な時間は長くは続かなかった。
アヤネはあっさりと俺を捨て、イケメンの陽キャ男子に寝取られてしまったのだ。
絶望に打ちひしがれる俺。夢も希望も無い毎日。
そんな俺に一筋の光明が差し込む。
夢の中で出会った女神エリステア。俺は女神の加護を受け辛く険しい修行に耐え抜き、他人を自由自在に操る力を手に入れる。
今こそ復讐のときだ!俺は俺を裏切った幼なじみと俺の心を踏みにじった陽キャイケメン野郎を絶対に許さない!!
★寝取られ→ざまぁのカタルシスをお楽しみください。
※この小説は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。
親友に彼女を寝取られて死のうとしてたら、異世界の森に飛ばされました。~集団転移からはぐれたけど、最高のエルフ嫁が出来たので平気です~
くろの
ファンタジー
毎日更新!
葛西鷗外(かさい おうがい)20歳。
職業 : 引きこもりニート。
親友に彼女を寝取られ、絶賛死に場所探し中の彼は突然深い森の中で目覚める。
異常な状況過ぎて、なんだ夢かと意気揚々とサバイバルを満喫する主人公。
しかもそこは魔法のある異世界で、更に大興奮で魔法を使いまくる。
だが、段々と本当に異世界に来てしまった事を自覚し青ざめる。
そんな時、突然全裸エルフの美少女と出会い――
果たして死にたがりの彼は救われるのか。森に転移してしまったのは彼だけなのか。
サバイバル、魔法無双、復讐、甘々のヒロインと、要素だけはてんこ盛りの作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる