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東の大陸編

54話 邪神と精霊

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 魔人の上位種が魔神。さらにその上が邪神と呼ばれているように、魔物の上位種は魔獣、そして最高位に位置するのが獣王である。開いた口を塞ぎながらヒジャウが一度ヴリトラナの姿を見た。

「あれが獣王ヴリトラナ……確か東の際涯さいがいに封印されていたのでは?」

「そうそう。大昔にラクシュマイアっていう精霊が封じたんだけど~封印解くのが流行りなのかね」

 そう言ってボラタナはけらけらと笑った。すると今度はアピがヒジャウの言葉に反応した。

「獣王って確か邪神と凄く仲が悪いんじゃなかった?」

「ええ……ヴリトラナはその昔、この大陸の邪神ヴァイシャと長きに渡って争っていたと聞いたことがあります。その戦いのあまりの激しさに大陸の半分近くが海に沈んだと。しかしなぜ今頃になって封印が解かれたのか……」

 いつの間にか戻ってきていたドゥーカとラウタンもヒジャウの話に意識を向けていた。遠くの方ではヴリトラナが度々宙に浮きあがり、その豪快な食事を続けていた。

「けっ! せっかくババアが封じてたってのに。誰だぁ? あの化け物を復活させたのは」

 リリアイラのその声が聞こえたのはマジャラ・クジャハの三人だった。ドゥーカは思わずリリアイラに問うた。

「ババアってラクシュマイアというあの精霊か?」

「ああ。あの化け物とここの邪神ヴァイシャは昔からやり合っててなぁ。ババアが加勢に入って二人掛かりで化け物を封印したってわけだ。しかしまた面倒事が増えたな」

「ちょっと待ってくれ! なぜ精霊が邪神に協力する?」

「ヴァイシャは昔は精霊だったんだよ。ババアは奴のつがいだったのさ」

 それまで静かに聞き耳を立てていたアピが二人の会話に割って入った。

「邪神が精霊だったってどういう事!? しかもラクシュマイアって精霊界で一番偉い人よね? その精霊と邪神が結婚してたって事なの?」

「まあ待て。順を追って説明してやる。まずババアの前に精霊界を統治してたのはヴァイシャだった。その番がババアだったのさ。人間界で言えば妃みたいなもんだな」

 いつしかヒジャウもドゥーカ達の輪の中に入ってきていた。彼にはリリアイラの声が聞こえなかったが、その代わりにボラタナが横でリリアイラの言葉を彼に伝えていた。

「ある時、この東の大陸であの化け物が大暴れしていると知ったヴァイシャは、一人で退治しようとこの地に乗り込んだ。だがその力は拮抗していてなかなか倒せない。そこで加勢にやってきたのがババアだ。お得意の陽光魔法でどうにかあの化け物を封じ込めたのさ」

 ここでリリアイラはちらりと砂海の方を見た。食事が終わったのかそこにはヴリトラナの姿はすでになかった。

「無事封印は出来た。だがヴァイシャは運の悪い事に化け物の強力な毒に冒されちまった。これがかなり特殊な毒でな、ババアにも治す事が出来なかったんだ。そこに現れたのがシャルヴァだった」

「シャルヴァって、北の大陸の邪神シャルヴァか?」

 ドゥーカがそう訊くとリリアイラは一度だけ頷いた。

「ああ……その毒は暗黒魔法を使わないと治せなかった。ババアは仕方なく毒の治療をシャルヴァに懇願したのさ。それでヴァイシャは命を救われた。邪神の力を借りてな」

「どうしてヴァイシャは邪神になり果ててしまったのですか?」

 ラウタンが少し悲し気な表情を浮かべそう尋ねた。

「命を救われた事でヴァイシャはシャルヴァに陶酔しちまったのさ。知っての通りおれ達精霊は人間と違って雌雄の区別がない。それは邪神も同様だ。つまり平たく言えばババアは旦那に浮気されて捨てられちまったってとこだな」

「リリアイラ、それは言い過ぎです。ラクシュマイア様に怒られますよ」

 珍しくジャイランが語気を強めてそう言った。

「やべえ! 聞かれちまったかな?」

 リリアイラがひゅっと首をすぼめると、それを見たボルタナとラダカンが苦笑いを浮かべていた。そんな精霊達のやりとりの後、ドゥーカがリリアイラに向かって尋ねた。

「そんなに強い魔物を果たしておれ達で倒せるのか? どう見てもあれじゃダンジョンの入り口に辿り着けないぞ」

「確かに四人束になってかかっても厳しいかもしれんな。だがおれにいい考えがある」

 不安そうなドゥーカを余所に、リリアイラが腕組みしながら僅かにほくそ笑んだ。



 丁度時を同じくして、赤の宮殿では一人の男がメラー王女に謁見していた。

「メラー様。先程報告が入りまして遂に獣王ヴリトラナが復活したとの事です!」

「おお! それは真かルバン! してその様子はどうじゃ? ちゃんと掌握できておるのか!?」

「はいそれはもう問題なく。現在ヴリトラナは砂海へと移動し腹ごしらえをしているとの事。機を見てダンジョンへと突入させる手筈でございます」

「ようやくこの時がやってきたか! 邪神を倒しこの国を手にするのはこの私だ!」


 メラー王女の高らかな笑い声が赤の宮殿に響き渡った。





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