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南の大陸編

26話 フジャンデラス家の晩餐

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 戦いの翌日、戦果の報告と今後の方針を話し合うため、おれとフジャンデラス家の面々、そしてラウタンはシュラセーナ王城を訪れた。

 今回の王国で起きた東ロンガの謀叛は北ロンガの領主グレッツァ、及び王城の防衛から打って出たラハールによって鎮圧。首謀者とされる東ロンガの領主テガンガは戦死した。

 テガンガの背後には、どうやら東の大陸が絡んでいるようだが詳細は今のところは不明。魔物の襲撃と合わせて今後調査するとの事だった。


 また今回の騒動でバンジールの民が住む辺境の地もかなり混乱しているようだった。大老様が魔神に殺され、それを手引きしたとして族長は捕えられた。これまで王国に併合される事を頑なに拒んできたバンジールの民であったが、場合によっては今後、王国の統治下に置かれる事になるかもしれない。

 終始、不安気な表情のラウタンだったがジェリミス女王の一言でそれも払拭された。

「我がシュラセーナ王国はこれまで諍いは忘れ、バンジールの民と共に歩む事を約束しよう。時代は常に移り変わる。今こそ手を取り合う時だと私は思っている」

 ジェリミス女王はまだ若いが、その政治的手腕はかなりのものだとおれは思っている。きっとバンジールの人達にとってもよりよい国を作ってくれるだろう。


 そして肝心なラウタンについてだが、水魔法術師として王国から認可され、それと同時におれ達のパーティへの加入が正式に決まった。

 


 城を後にしたおれ達はアピの実家でもあるフジャンデラス家の屋敷へと戻った。今後しばらくはここを拠点とし、ダンジョン攻略を進めていく予定だ。

「今回かなり向こうの戦力を削ったはずだから、本当は今すぐにでも邪神討伐に向かいてぇがな」

 とリリアイラはぼやいていたが、ラウタンはまだ加入したばかりだ。その能力も含め色々確認したい事は多い。そう考えながらおれが一人で部屋でくつろいでいると、ノックもしないでアピがやってきた。

「部屋にラウタンがいないんだけど、どっか出掛けてるの?」

「ああ、ラウタンならたぶんトケッタの厩舎にいるはずだ。なんでもこういう部屋は落ち着かないからパンバルと一緒に厩舎で寝泊まりするらしいぞ」

「はぁ? せっかく良い部屋用意してあげたのに。夕食はちゃんと来るのかしら?」

「さすがにそれは来るようおれから言っておく。ところでアピはラウタンの事はどう思う?」

「どう思うって、戦闘能力? それとも人間性?」

「まぁ両方だな」

 おれがそう返すとアピは暫くあごに手を当てなにやら考えていた。やっと考えがまとまったのか、人差し指を立てながら喋り始めた。

「うーん。戦闘に関してはまだ経験が浅いのかぁって思ったよ。まだ精霊の力を上手く引き出せてない感じかな。でも魔力値はかなり高そうね。たぶん私と変わらないくらい。まぁまだ子供なんだし、これからうちのパーティーで経験積めば大丈夫じゃない?」

「けっ! 青二才のガキが偉そうに」

 おれの横で腕組みしながら立っていたリリアイラが吐き捨てるようにそう言った。もちろんその声はアピにも聞こえるわけで、彼女は声のした方を睨みつけた。

「うるっさいわね! 私はもう立派な淑女ですー。ねードゥーカ兄?」

 おれは取り繕うように笑いながら、どっちも子供だなと、思いつつも口には出さずにおいた。



 そして夕食の時間となりおれ達がテーブルにつくと、少し遅れてラウタンがやってきた。きちんとした服装に身を包み、おどおどしながら周りを見渡していた。するとドゥパ様が立ち上がりながら手を叩いて喜んでいた。

「まぁまぁ! やっぱり似合うわねー。そんなに緊張しなくていいのよラウタン。こっちへ座りなさい」

 どうやら彼女は息子も欲しかったらしく、今日は朝からラウタンの服を何着も選んでいたそうだ。初めての晩餐に戸惑っているのか、ラウタンはおずおずと席へとついた。

 料理が運ばれて来ると、両端のドゥパ様とリリンに教わりながら必死な様子で食事をしていた。おれも所詮は平民上がり。ラウタンの気持ちはよくわかる。

「マナーとか気にせず好きに食べていいんだぞ」

 おれがそう言うと、ラウタンは口をもぐもぐしながら頷いた。

「そうよー食事は美味しく食べればいいのよ。あらあら口にソースがついてるわ」

 甲斐甲斐しく世話を焼くドゥパ様を見て、アピが溜息混じりに呟いた。

「母様。そうじっと見られたらラウタンも落ち着いて食事できないわ」

「あら、ごめんなさい。アピにもリリンにもこういう事は出来なくなったからつい」

 おどけたように舌を出す彼女の姿は戦闘の時とは全くの別人だ。よくもまああんな風に切り替えができるもんだとおれは感心していた。

「そういえばドゥパ様は今回の功績で焔魔術師に昇格なさったとか。おめでとうございます」

「まぁそうでした! 今さら昇格なんてどうでもよかったんですけどね」

 オホホと笑いながら彼女がそう言うと、今度はリリンが手を上げながらおれに顔を向けた。

「にさまー! わたくしも火炎魔術師に昇格いたしましたよー」

「おーそうかぁリリン! 一気に二階級昇格とは凄いな!」

「はい! わたくしも母様やねさまのように立派な魔術師になるんです」

「リリンならきっとなれる。いつかうちのパーティーに入ってもらわないとな」

 おれがそう言うや否や、父であるラハール領主がガタっと椅子を鳴らし立ち上がった。

「ドゥーカ殿! さすがに娘二人は渡せんぞ!」

 その剣幕におれがたじろいでいると、ドゥパ様がいつもの調子でそれを宥めてくれた。

「まぁ貴方ったら。ドゥーカ殿のちょっとした冗談ですよ」

「むぅ……これは失礼した」

 彼は咳払いをしながらゆっくりと席に座り直した。思わずほっと胸を撫で下ろしたおれの横ではアピが呆れたように溜息を吐いていた。


 その様子を相変わらず口をもぐもぐさせながらラウタンが不思議そうに見ていた。






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