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南の大陸編

13話 恋に落ちたら

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両断マンドゥア!」

 魔神カーリヤの丁度腕の付け根辺りにすっと線が入る。まるでくっついていたものが離れるように、赤い蛇がスパッと切り落とされ地面に落ちた。それと同時に大量の血飛沫をあげカーリヤが叫んだ。

「グガァァァァー!!!」

 地に落ちた蛇は、シューシューと音を立て白煙をを上げていた。やがて干からびて色を失うと、ボロボロと崩れ灰と化した。


 おれはすぐさま女王の元へと瞬時に移動した。地面に仰向けに倒れてはいたが顔には生気が戻り、体中にあった術式は既に消えていた。顔に手を当てると体温はあり、ちゃんと息もしていた。
 
「ジェリミス女王! 大丈夫か!?」

 彼女はゆっくりと目を開いた。きょろきょろと辺りを見渡しながら上半身を起こした。

「あなたはドゥーカさん? ここは……?」

「説明は後だ。どこか体におかしなとこはないか?」

「え、ええ……。きゃあっ! 後ろ!」

 突然、彼女はおれの後方に目をやり、叫び声をあげた。振り返るとカーリヤが水弾をこちらへ放っていた。おれはその場で自分達を囲むように魔法を展開した。

密閉ケダプダラ

 光の壁が現れ、四辺を取り囲むように密閉される。直後に水弾が目の前で弾けあたりに毒を撒き散らした。

「ここから動かないでくれ」

 おれは彼女にそう告げると瞬間移動でカーリヤの前方へと飛び、すぐさま魔法を放った。

切り裂けレータルカント!」

 バリバリと音を立て空間の亀裂が一直線にカーリヤへと伸びていく。

geyserゲイザ

 魔神カーリヤが獣が唸るような声で呪文を詠唱した。地面から壁を作るように水が勢いよく噴き出す。空間の亀裂が水の壁に阻まれ相殺され消えた。すぐに二発目三発目を放つが同じように防がれる。

「慌てるなドゥーカ。やつは動きは遅い。ゼロ距離攻撃でいいんだよ」

 見かねたようにリリアイラの声が聞こえた。おれは軽く頷き詠唱する。

弾けろマラトス

 透明な球体がカーリヤの周囲に浮かび上がり連鎖爆発を起こす。直撃を喰らったカーリヤが怯んだところで後ろへ回り込むように瞬間移動した。

両断マンドゥア!」

 頭からすーっと縦に線が入りカーリヤを真っ二つにした。左右に二等分された体がゆっくりと地面へと倒れていった。頭の中でリリアイラの声が聞こえる。

「まだまだ状況判断が遅えな」

「すまん。反省は後でする」


 おれが女王の元へと戻ると光の箱はすでに消えていた。恐怖がぶり返していたのだろうか、彼女は僅かに震えていた。声を掛けようとしたその時、突然背後から呪文の詠唱が聞こえた。

雷黒グラグル

 それまで戦いを静観していた魔神ドゥルバザが雷魔法を放った。振りかざした杖の先から黒い稲妻が飛んでくる。おれは急いで女王を抱きかかえると転移魔法を発動した。

転移テレポルタ!」

「きゃあっ!」

 彼女の悲鳴をその場に残し、ドゥルバザから離れた場所へ瞬間移動した。おれにギュッとしがみ付き目をつぶっていた女王が恐る恐る片目を開けた。そしてきょろきょろと辺りを見渡すと驚いた表情を見せた。

「今のは?」

「転移魔法だ。これくらいの距離なら二人でも可能だ」

「ほぇ?」と変な声を出しながら彼女は目をぱちくりさせた。

「安心するなよ。また来るぞ」

 リリアイラの言葉と同時に黒い稲妻が飛んでくる。おれは女王を抱えたまま再び短い転移で瞬間移動を繰り返す。

「なんであいつが雷魔法を撃てるんだ!?」

「あいつは人の言葉を話せるからな。人間の魔法も使いこなせる」

 リリアイラがそう答えた時、ドゥルバザの声が聞こえた。

「その女を妻に娶れんのは残念じゃ。せめて儂が葬ってやるぞ」

 ドゥルバザのその言葉に女王が再び目を丸くしていた。

「つ、妻!? どういう事なの!?」

「あんたを魔人に変えて妻にする気だったそうだ。危ないとこだったな」

 おれは彼女に苦笑いしながら言葉を返した。しかしこのまま彼女を抱きかかえたままだと分が悪い。そう思っているとドゥルバザが杖を構え特大魔法の詠唱を始めた。 

超放電クアデビタルス

 眩い光を放ちながら巨大な電気の塊がバチバチと音を立てながらドゥルバザの目の前に現れた。

「仕方ない。外に出るぞ」

 リリアイラはそう言うと真っ黒な影となりおれの体からするりと抜け出た。影体《えいたい》状態になったリリアイラが黒い剣を構え前方に飛び出す。

Nirgunaニルグナ

 巨大な雷の球体に剣を突き刺すとみるみるうちに吸収していった。ドゥルバザの魔法を消し去るとそのまま切り掛かって行った。

「こりゃまずい。退散するしかないのぉ」

 そう言い残し魔神ドゥルバザは地面へとすぅーっと消えていく。リリアイラが振り下ろした剣が空を切った。

「ちっ、逃げやがった」

 辺りに静寂が訪れるとリリアイラは影体を解き、いつもの仮初の姿へと戻った。


 おれはジェリミス女王が落ち着くのを待ち、ここまでの経緯を全て彼女に伝えた。魔神に連れ去られ、呪術で魔人に変えられそうになった事。ジェリミスの母親はさっきの魔神に殺されたかもしれない事。母親の話になった途端、女王の目に涙が浮かんできた。

「……お母様は不慮の事故で死んだ事になってるけど、本当は魔神の襲撃にあったの」

「アルザイラ前女王の事だな? 事故で亡くなったんじゃなかったのか……」

「私達の一族は特殊な魔法が使える。それは邪神クリシャンダラの力を弱体化させると言われてて、それが理由で女王は常に命を狙われている……」

「今回のダンジョン視察も誰かの陰謀だろうな。ところでそれはどんな魔法なんだ?」

「満月の夜、月が空の一番高い所に昇った時にだけ使える魔法『地母神の祈りシャクティ』。女王となった者は代々この魔法を受け継ぎ、昔から絶やすことなく儀式として行ってきた」

「陽光魔法だな。それがクリシャンダラの力を抑えていたのか」

 リリアイラがおれの傍らでそう呟いた。

「人間が陽光魔法を使えるのか?」

「ああ。大昔その女の祖先に宿った守護精霊が陽光魔法を操る奴でな。名はラクシュマイア。今精霊世界を治めている口煩くちうるせえババアだよ。おそらくその時の精霊の護りが僅かに残ってるんだろう」


 おれが独り言を喋っているように見えたのか、女王が首を傾けながら不思議そうに見ていた。おれは何もない空間を親指で指差しながら言った。

「おれの守護精霊と話しててな。こいつが言うには、その力はあんたのご先祖様の精霊の護りの名残りらしい」

「精霊の護り……私に?」

 彼女の問いに答えたのはリリアイラだった。

「今ババアに話は聞いた。どうやら一つだけ陽光魔法を使えるようにしたらしい。だがこの女はまだそれが使えないんじゃないのか?」

 リリアイラの言葉を聞いておれは女王に問い掛けた。

「もしかしてジェリミス女王はまだその魔法が使えないのか?」

 彼女は恥ずかしそうにしながら頷き答えた。

「実は魔法が使えるようになるにはある条件があって……それは――」

 おれが何も言わず次の言葉を待っていると、彼女はもじもじしながら小さな声で言った。

「……誰かに恋をすること」

 それを聞きおれがぽかんと口を開けていると、隣でリリアイラが舌打ちしながら吐き捨てた。

「ったく、あのクソババア……」






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