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南の大陸編
9話 南の大陸へ
しおりを挟むシェラセーナ王国が治める南の大陸は別名「雨と水の大地」と呼ばれている。
年中雨が降り頻り、太陽が顔を出す事は一日とてない。この大陸のほとんどが湿地帯、もしくは硬い岩肌が剥き出しの土地だ。
この国に住む大多数の人々は「ロンガ」と呼ばれる地下空洞で暮らしている。大陸には三つの巨大なロンガがあり、おれたちはアピの故郷でもある西のロンガへ来ていた。
ロンガの中は日照石という鉱石があちこちに埋め込まれており、この石に魔力を込めると太陽光に近い光を発する。この日照石のお陰でロンガの中でも人々は快適に暮らしている。
「そういえばアピ、屋敷には連絡したのか?」
「うん。港に着いてすぐチェリタで連絡したよー」
チェリタとは水の管を使って声を届ける魔道具の一つだ。一般家庭には普及してないが主要な場所にはチェリタが引いてある。
「けっ! さすがお金持ちは立派な魔道具持ってるねぇ」
「おーほっほっほ。お嬢様って呼んでもよろしくってよ、リリアイラ」
「相変わらず口の減らねぇガキだ……」
おれは二人のやり取りを苦笑いしながら見ていた。アピの生家でもあるフジャンデラス家は西のロンガを治めている領主だ。その主な役割は日照石の維持管理。魔力持ちの人間を多く雇い、毎日決められた日照石に魔力を込める。
加えてフジャンデラスの家系は高魔力を持った者が多い。ロンガ内には人工的に作られた広大な農地があり、その農地を照らす巨大な日照石には大量の魔力が必要だ。その日照石にはフジャンデラス家の者が魔力を込める。以前はアピがそれを行っていた。
「姉さまー!」
フジャンデラス家の屋敷を目指して歩いていると一人の少女が駆け寄ってアピに抱きついた。
「リリン! 元気してた?」
「はい! ねさまが帰って来たと聞いておうちを飛び出してきましたっ!」
アピをそのまま小さくしたかのようなこの可愛らしい少女はアピの妹のリリンだ。彼女には精霊の護りは宿ってはないが立派な火魔術師である。現在、アピの跡を継いで巨大な日照石に魔力を込めているのがこの少女だ。おれはニコニコとアピに抱きつくリリンの頭を撫でる。
「大きくなったなーリリン。今日はもうお仕事終わったのか?」
「はい! 兄さまも大きくなられて。今日もさくっと終わらせてきました」
ほっぺを紅く染め、きらきらとした瞳でリリンは答えた。アピと会えたことがよっぽど嬉しいのだろう。
「父様と母様は屋敷にいる?」
「はい。お二人共、ねさまの帰りをそわそわ待っています」
「恥ずかしいわね、まったく……」
「無理もないだろ。アピに会うのは久し振りなんだから」
照れながら頬を膨らませるアピをおれが宥める。彼女が里帰りするのは三年振りだ。
おれがこの地でアピに出会ったのは三年前。当時セナンと二人で冒険者として各地を旅していた時、リリアイラの指示でアピをパーティに誘った。生まれてすぐに精霊の護りを宿していたという彼女は破格の強さだった。わずか十一歳にして火魔術師の準最高位、焔魔術師としてシュラセーナ王国から認定を受けていた。
当然、アピが王国から出る事は断固拒否された。だが彼女を火魔術最高位の爆炎魔術師として育て上げる事。十年以内に南の大陸のダンジョンを攻略する事を条件に出国の許可を得た。
実はもう一つ別の交換条件もあったのだが……
〈ラダカン。顔が気持ち悪い事になってるぞ》
《仕方あるまい。久し振りにリリンに会ったんじゃ。アピもこれくら素直で可愛かったらのぉ〉
〈まあな。おまえもリリンが生まれるまで待てばよかったんじゃねか?》
《今から宿主は変えれんもんかのぉ……〉
「ラダカン! なんかこそこそ話してる?」
突然微笑みながら怒り出したアピにリリアイラが驚いて言った。
「なんで対の線で喋ってんのにわかるんだよ!?」
「どうせラダカンがリリンの守護精霊になりたいとか言ってるんでしょ?」
おれはラダカンの姿は見えないが、おそらくアピに睨まれ縮こまっているのだろう。リリアイラはそそくさとおれの影の中に潜っていった。
「ねさまは何を怒ってるんでしょう?」
おれはきょとんと首を傾げるリリンの頭を優しく撫でた。
アピは誰もいない壁に向かってガミガミと文句を言い続けていた。
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第9話を読んで頂きありがとうございます。
少しわかりづらいですが、宿主は自分の守護精霊以外は認識できません。アピはなぜかリリアイラの声を聞くことができます。姿は見れません。
守護精霊同士は対の線を繋がないと会話できません。姿も見れません。(6話でヴァダイとラダカンは直接会話できませんでした)対の線も一人の守護精霊としか繋げません。
ただしリリアイラは全ての守護精霊と普通に会話もでき、姿も見る事ができます。対の線も全員と繋げれます。今回はアピに聞こえないように対の線でラダカンと会話していました。
ややこしくてすみません……
応援ありがとうございます!
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