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最終話 花は爛漫咲き誇り
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春の訪れを誇示するかのように桜の花は爛漫と咲いていた。
校門を出るとブレザー姿の生徒達が行き交う中で、学ラン姿の冬至がぽつん立っていた。他校のイケメン男子が一人で佇んでいるものだから周りの女子生徒達がちらちらと彼を見ていた。
「お待たせ! フユキ」
手を振りながら駆け寄る私を見つけ、冬至はにこやかな笑顔を見せた。
「卒業おめでとう。ナチカ」
「ありがとう。フユキも卒業おめでとう」
差し出された手を取り私達は駅へと歩き出した。途中、数人の女子生徒達の中に白露くんがいた。彼は私達に気がつくと笑顔で手を振った。それに応えるように冬至は手を上げ、私は小さく手を振った。
白露くんを見たからだろうか、桜並木の下を歩きながら私はあの日の事を思い出していた。
「えっ!? フユキ!? なんでこんなとこにいるの!?」
クローゼットの中にいた冬至は下を向いたまま黙り込んでいた。肩をぽんと叩かれ振り返ると、少し困ったような表情を浮かべた白露くんが立っていた。
「ちょっと僕から説明させてもらっていいかな?」
白露くんによれば冬至は『寝取られ性癖』の持ち主だと言う。世の中には妻や恋人が自分とは別の人物と行為をしていることに性的興奮を覚える人がいるのだという。それは相手が嫌いになったからとかではなく、むしろ愛情表現のひとつだと白露くんは言った。私はそんな言葉自体聞くのも初めてだし、到底理解するのが難しかった。
「ほんとなの? フユキ……」
私が涙混じりでそう訊くと冬至は小さく頷いた。そして今回の事も、清明くんや雨水の事も全て冬至が仕向けたと聞かされた。
「なんで……なんでそんな事したの? 私すごい悩んでたんだよ? なのにどうして……」
「ごめんナチカ。おれはナチカが汚れていくのを見ると、とてつもなく興奮したんだ。純粋無垢なナチカが快楽に溺れ堕ちていく姿が見たかった」
真っすぐな目でそう言われ私は言葉を失った。今目の前にいる冬至が、まるで知らない誰かに見えた。
「きっかけは中学の時の体育祭だった。ナチカがおれじゃない男子と二人三脚をして楽しそうに肩を抱き合っていた。おれはそれを見て嫉妬したと同時に凄くドキドキしたんだ」
「フユキは私に嫌いになって欲しいの? 私が他の誰かを好きなればそれでいいの?」
「違う! ナチカにはおれを好きでいて欲しいし、おれはナチカを愛している。ただ穢れた君も見てみたいんだ!」
もうそれ以上は、私には何も考えられなかった。冬至の気持ちをどう受け止めればいいのか分からなかった。
「……少し考えさて」
「ごめんナチカ。おかしな事を言ってるのはわかってる。でもおれはナチカの事を本当に愛してる。これから先もずっと……」
そう言って冬至は私を抱きしめた。その温もりに包まれながら私は訳も分からず泣いていた。
繋いでいた冬至の手をぎゅっと握りしめた。彼は私に視線を移し優しく微笑んだ。
駅へと着くと私達は立ち止まり、繋いだ手をそっと離した。
「じゃあ行ってくるね。今日は音声だけ? それともカメラで撮った方がいい?」
「ん~今日もカメラがいいかな。隠し撮りっぽいのがいいかも」
「りょーかい。じゃあねフユキ」
「いってらっしゃいナチカ」
私は冬至に背を向け歩き出す。人込みの向こうには待ち合わせしていた男の子がすでに待っていた。私は手を振り彼に声を掛けた。
「ごめーん! 待った?」
私は飛びつくようにして彼に抱きついた。そして肩を寄せ合いながら街へと歩き出す。
振り返ると冬至が愛おしそうに微笑みながら私を見つめていた。
―― 完 ――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アタオカな冬至に最後までお付き合い頂き大変ありがとうございました。
またお気に入り、いいね♡等を頂いた皆様。これから評価して頂く皆様。このような作品への寛大な心意気、誠に痛み入ります。ありがとうございました。
校門を出るとブレザー姿の生徒達が行き交う中で、学ラン姿の冬至がぽつん立っていた。他校のイケメン男子が一人で佇んでいるものだから周りの女子生徒達がちらちらと彼を見ていた。
「お待たせ! フユキ」
手を振りながら駆け寄る私を見つけ、冬至はにこやかな笑顔を見せた。
「卒業おめでとう。ナチカ」
「ありがとう。フユキも卒業おめでとう」
差し出された手を取り私達は駅へと歩き出した。途中、数人の女子生徒達の中に白露くんがいた。彼は私達に気がつくと笑顔で手を振った。それに応えるように冬至は手を上げ、私は小さく手を振った。
白露くんを見たからだろうか、桜並木の下を歩きながら私はあの日の事を思い出していた。
「えっ!? フユキ!? なんでこんなとこにいるの!?」
クローゼットの中にいた冬至は下を向いたまま黙り込んでいた。肩をぽんと叩かれ振り返ると、少し困ったような表情を浮かべた白露くんが立っていた。
「ちょっと僕から説明させてもらっていいかな?」
白露くんによれば冬至は『寝取られ性癖』の持ち主だと言う。世の中には妻や恋人が自分とは別の人物と行為をしていることに性的興奮を覚える人がいるのだという。それは相手が嫌いになったからとかではなく、むしろ愛情表現のひとつだと白露くんは言った。私はそんな言葉自体聞くのも初めてだし、到底理解するのが難しかった。
「ほんとなの? フユキ……」
私が涙混じりでそう訊くと冬至は小さく頷いた。そして今回の事も、清明くんや雨水の事も全て冬至が仕向けたと聞かされた。
「なんで……なんでそんな事したの? 私すごい悩んでたんだよ? なのにどうして……」
「ごめんナチカ。おれはナチカが汚れていくのを見ると、とてつもなく興奮したんだ。純粋無垢なナチカが快楽に溺れ堕ちていく姿が見たかった」
真っすぐな目でそう言われ私は言葉を失った。今目の前にいる冬至が、まるで知らない誰かに見えた。
「きっかけは中学の時の体育祭だった。ナチカがおれじゃない男子と二人三脚をして楽しそうに肩を抱き合っていた。おれはそれを見て嫉妬したと同時に凄くドキドキしたんだ」
「フユキは私に嫌いになって欲しいの? 私が他の誰かを好きなればそれでいいの?」
「違う! ナチカにはおれを好きでいて欲しいし、おれはナチカを愛している。ただ穢れた君も見てみたいんだ!」
もうそれ以上は、私には何も考えられなかった。冬至の気持ちをどう受け止めればいいのか分からなかった。
「……少し考えさて」
「ごめんナチカ。おかしな事を言ってるのはわかってる。でもおれはナチカの事を本当に愛してる。これから先もずっと……」
そう言って冬至は私を抱きしめた。その温もりに包まれながら私は訳も分からず泣いていた。
繋いでいた冬至の手をぎゅっと握りしめた。彼は私に視線を移し優しく微笑んだ。
駅へと着くと私達は立ち止まり、繋いだ手をそっと離した。
「じゃあ行ってくるね。今日は音声だけ? それともカメラで撮った方がいい?」
「ん~今日もカメラがいいかな。隠し撮りっぽいのがいいかも」
「りょーかい。じゃあねフユキ」
「いってらっしゃいナチカ」
私は冬至に背を向け歩き出す。人込みの向こうには待ち合わせしていた男の子がすでに待っていた。私は手を振り彼に声を掛けた。
「ごめーん! 待った?」
私は飛びつくようにして彼に抱きついた。そして肩を寄せ合いながら街へと歩き出す。
振り返ると冬至が愛おしそうに微笑みながら私を見つめていた。
―― 完 ――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アタオカな冬至に最後までお付き合い頂き大変ありがとうございました。
またお気に入り、いいね♡等を頂いた皆様。これから評価して頂く皆様。このような作品への寛大な心意気、誠に痛み入ります。ありがとうございました。
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