上 下
3 / 6

第3話 第二の刺客

しおりを挟む

 結局昨日は冬至からの返事はなかった。失意の中、私はひとりで学校に向かった。きっと冬至は今日も朝練だろう。

「どったの? ナチカ。顔色悪いよ」

 席に着くと立夏りっかに声を掛けられた。はち切れんばかりの胸をゆさゆさと揺らしているが、彼女は男子みたいにさばさばとした性格の持ち主である。

「ちょっとフユキとケンカしちゃって……うちら別れるかも……」

「えー! 一大事じゃんそれ! 詳しく聞かせなよ」

 さすがに教室のど真ん中でそんな話が出来るはずもなく、話をするのはお昼休みということになった。 



 お弁当片手に屋上へと向かう。ぽかぽか陽気で絶好の日向ぼっこ日和だけど、私の気持ちはどんよりとしていた。

「弁当食えないならおれが食べてやろうか?」

 立夏と一緒について来た雨水うすいが茶化すようにそう言った。この二人も冬至と同じで幼稚園からの同級生。昔からよく四人で遊んでいた。

「大丈夫。胸いっぱいだけどお弁当は別腹」

「それ別腹の使い方おかしいだろ」

 雨水がケラケラと笑っていると立夏が彼の背中をバシッと叩いた。

「ちょっとウスイふざけない! ナチカは今危機的状況なんだかんね!」

「バーロぉ。ここは笑ってやんないとナチカが可哀想じゃん」

 やいのやいのと言い争う二人を余所に、私は早速卵焼きを一口頬張った。こうやって賑やかにしてくれていた方が今の私には正直ありがたい。昨日の夜から何も食べれてなかったけど二人のお陰で少し元気が湧いてきた。


 それからたわいのない話をしながらお昼を食べ終えると、私は二人に一連の出来事を全て話した。立夏は軽々しくラブホに行った私に怒り、雨水は清明くんに対し腹を立てていた。

「それにしても小雪の動きが怪しいわね。小雪とは話したの?」

 立夏に怒られしゅんとした私は小さく首を横に振った。

「まだ時間あるよね。よし! じゃあ私が聞いてくる!」

 彼女は昔から思い立ったらすぐ行動のタイプだ。スカートをひらひらさせながら屋上から走り去っていった。残された私と雨水は、二人でしばらくぼーっと空を眺めていた。

「簡単に別れるなんて……フユキも冷たいよな」

 いつもよりも穏やかな声で雨水がぽつりと呟いた。普段彼はムードメーカーでよくお茶らけてはいるけど、本当は誰よりも周囲に気を配り相手の気持ちをよく考えている。優しいとこは昔からちっとも変ってないな、と私は思わずくすりと笑った。

「私が悪いんだからしょうがないよ」

「ナチカは悪くねーよ。悪いのは強引に誘ったキヨアキだろ」

「でも――」

「やっぱりフユキとは別れたくないのか?」

 突然、雨水が私の肩を掴み真顔でそう言った。彼の大きな手のぬくもりが肌へと伝わる。

「うん……私はまだ好きだから」

「ナチカ――」

 名前を呼ばれた瞬間、雨水が私をぎゅっと抱きしめた。驚きのあまり私は体を強張らせた。でも彼の腕の中にすっぽりと包まれ、次第に私は肩の力を抜いた。

「おれはナチカのことが好きだ。小さい頃からずっと……」

「えっ……」

「おれはおまえを悲しませたりしない。おれと付き合わないか? ナチカ」

 
 さらに強く抱きしめられ、私は彼の胸の中へと顔を埋めていく。陽だまりの匂いが私の鼻をくすぐった。



 少しだけ開いた扉から雨水の声が聞こえていた。どうやら夏至に告白したようだ。彼が昔から夏至を好きなことは知っていた。だからあえてこうして二人っきりにしたのだ。

 私は足音を立てないよう階段を下りた。そしてスマホを開き冬至にL1NEを送った。

〈ウスイがナチカに告ったよ~うまく行きそう♪〉



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に大切な人達を寝取られた結果、邪神が目覚めて人類が滅亡しました。

レオナール D
ファンタジー
大切な姉と妹、幼なじみが勇者の従者に選ばれた。その時から悪い予感はしていたのだ。 田舎の村に生まれ育った主人公には大切な女性達がいた。いつまでも一緒に暮らしていくのだと思っていた彼女らは、神託によって勇者の従者に選ばれて魔王討伐のために旅立っていった。 旅立っていった彼女達の無事を祈り続ける主人公だったが……魔王を倒して帰ってきた彼女達はすっかり変わっており、勇者に抱きついて媚びた笑みを浮かべていた。 青年が大切な人を勇者に奪われたとき、世界の破滅が幕を開く。 恐怖と狂気の怪物は絶望の底から生まれ落ちたのだった……!? ※カクヨムにも投稿しています。

悲しいことがあった。そんなときに3年間続いていた彼女を寝取られた。僕はもう何を信じたらいいのか分からなくなってしまいそうだ。

ねんごろ
恋愛
大学生の主人公の両親と兄弟が交通事故で亡くなった。電話で死を知らされても、主人公には実感がわかない。3日が過ぎ、やっと現実を受け入れ始める。家族の追悼や手続きに追われる中で、日常生活にも少しずつ戻っていく。大切な家族を失った主人公は、今までの大学生活を後悔し、人生の有限性と無常性を自覚するようになる。そんな折、久しぶりに連絡をとった恋人の部屋を心配して訪ねてみると、そこには予期せぬ光景が待っていた。家族の死に直面し、人生の意味を問い直す青年の姿が描かれる。

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い

うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。 浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。 裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。 ■一行あらすじ 浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ

俺の彼女が『寝取られてきました!!』と満面の笑みで言った件について

ねんごろ
恋愛
佐伯梨太郎(さえきなしたろう)は困っている。 何に困っているって? それは…… もう、たった一人の愛する彼女にだよ。 青木ヒナにだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

彼女は処女じゃなかった

かめのこたろう
現代文学
ああああ

処理中です...