森の愛し子〜治癒魔法で世界を救う〜

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【第三章】王都国立学園へ

ただいま

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 セレイム王国を出発して、数時間。
 道中、コハクとフェンリルの姿に戻ったレオン、もといフェンに乗せてもらい、太陽が真上に上り昼となった頃、レイたちは暗闇の森に戻ってきた。

 家に帰ってくると、庭で彼女たちの帰りを待っている、森の生き物たちがいた。
 ルビーラビットや、セレリス、黒ヒョウだ。
 ルビーラビットは、白い体毛で額にルビーのような魔石を持つウサギに似た下位魔獣。
 セレリスは、二本の短い角を持つ小型の黒い馬のような下位魔獣。
 コハク以外の黒ヒョウもレイとは顔見知りの関係だ。たまに、レイたち一緒にご飯を食べる。
 彼らはレイの帰宅に気付くと、一斉に彼女のもとへ飛んで来た。
「わっ。皆、ちょっと待って」
 彼らのあまりの勢いに、姿勢を崩し、尻餅をついたレイ。
 そんなことは顧みず、彼らは彼女の傍から離れない。
「ただいま。昨日は、急に家を空けてごめんなさい。びっくりしたわよね」
 そう彼らに声を掛けると、彼らは彼女から離れ、彼女の話を聞く体制を取った。
 レイが座った状態で姿勢を正すと、一匹のルビーラビットが彼女の膝に乗ってきた。
「どこに行ってたの?レイが居なくなって寂しかったよ」
 彼は後ろ足で立ち、レイに訴える。
「ごめんね。セレイム王国ってところに行ってたの」
 レイは、彼に対し子供に話しかけるように穏やかな口調で話かける。
「怖いところ?」
「ううん。賑やかなところだった。……皆に先に伝えておくわ」
 そう切り出したレイ。
 彼らの間に不安げな空気が漂う。

「私とフェンは、明日からしばらく森を空ける」
「やだ!」
 間髪入れずに、ルビーラビットがレイの膝の上で飛び跳ねて抗議する。
「この森を出ていくってことじゃないから、安心して。時間を見つけたら、時々戻ってくるから」
 レイは、抗議している彼を掬い上げて彼を諭す。
「やだやだ!」
 しかし、聞きたくないと長い耳を折り曲げて、彼女の手の中でうずくまってしまった。
「レイ、本当に?」
 セレリスも信じられないとレイに問う。
「ええ。でも、ちゃんとここに帰ってくる。嘘はつかない」
 レイは、セレリスの目をまっすぐ見て伝えた。
「……うん。分かった約束ね」
 彼女の言葉に嘘はないと確信したセレリスは、レイの額に自分の額を合わせてそう言った。
「ええ。約束」
 二人の会話を聞いていたルビーラビットが、レイの手の中から飛び降り、四つ足でセレリスの足元に行く。
「セレはなんで受け入れられるの!悲しくないの?」
 彼女の物分かりの良さが気に食わなかったのか、きつく当たる。
 セレリスは、頭を下げ彼と同じ目線になる。
「あたしだって寂しい。でも、わがままを言って、レイの迷惑になる方が嫌だもの」
 レイは、二人のやり取りを静かに見守っている。
「レイの迷惑になるのは、やだ」
 セレリスの言葉が刺さったのか、ルビーラビットはしゅんと耳を垂れ下げた。
「……だったら、出来ることは一つだよね」
「うん」

「レイ」
 彼はセレリスのもとから、レイのところへ戻る。
「なに?」
 レイは、優しく声を掛ける。
「ぼく、もう、わがまま言わない。レイが帰ってくるの、ちゃんと待つ」
 彼は目に涙を溜めながらも、彼女の目を見つめて言い切った。
「分かってくれて、ありがとう」
 レイは、また泣き出しそうな彼の頭を優しく撫でた。

 すぐに彼女は機転を利かせ、ある提案を出した。
「今日はみんなで、庭で夜ご飯食べない?」
 彼女の提案を聞いて、庭にいた者たちが声を上げた。
 今日は、宴並みに賑やかになりそうだ。
「ふぁ~。ん?今夜は賑やかになるな」
 庭の端でうたた寝をしていたフェンが起きてきた。
「おはよう。ねぇ、一緒に今日の夜ご飯の材料、取りに行かない?」
 レイは、フェンとセレリス、ルビーラビットに声を掛けた。
「うん!行く!」
「あたしも」
「ああ、そうだな。美味い肉を狩りに行くか」
「じゃあ、着替えてくるから。待ってて」
 彼女は、セシルから貰ったドレスから軽装に着替えるために一度家の中へ戻った。

 しばらくして着替えを終え、庭に出てきた彼女は、着古した白の長袖のブラウスに、茶色の皮ベストを羽織り、ゆったりとしているが裾が絞られた深緑のズボンを穿いていた。
 この服装は、彼女が食材調達に行くときのお決まりの格好だ。
 またレイは、採集用のウィーテと呼ばれる穀物の茎を編んだ筒型のかごも用意した。
「コハクと他の皆は、留守番お願い」
 レイは動きやすくするため、長い髪を後ろで束ねながらコハクたちに指示をする。
「わかった!美味しいお肉、とってきてね~」
 コハクは同じ黒ヒョウたちと戯れながら、返事をした。
 留守番を頼まれた他の者たちも、それぞれくつろいでいた。
「楽しみに待っておれ。今日は宴だ」
 コハクの返事に対し、フェンが笑みを浮かべながら応えた。
「やった~!」
 彼の言葉を聞き、コハクは尻尾をこれでもかというくらい振った。
 その姿はヒョウではなく、まるで大型犬だ。
「そうと決まれば、今日はいつもより、狩らねばな」
 フェンは、鼻高々に言った。
「あまり暴れすぎないようにね」
 レイに注意を受けたフェン。
「ああ。手加減はする」
 彼女に釘を刺され、眉をハの字にした。

「フェンは、お肉の調達を任せるわ。私はこの子たちと、木の実とかキノコを採ってくるわ。日が暮れる前に湖の前で合流しましょう」
「ああ。分かった。では、私は先に行っておるぞ」
 彼は言い終わると、颯爽と駆けていった。
「よし。じゃあ私たちも行こう」
 フェンが狩りに出たのを見送ると、レイも編かごを背負い、セレリスたちに声を掛けた。
「うん!」
 そうして彼女たちも今晩の食材の採取のため家を出た。
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