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【第三章】王都国立学園へ
挨拶に
しおりを挟む「レイさん。森の話はとても興味深かった。聞かせてくれてありがとう」
そう言ったルーカスに、彼女を怪しむ様子はもう無い。
「私も楽しかったです」
「ならよかったよ。帰るまでゆっくりしていきなさい」
「ありがとうございます」
ダイニングルームを後にして、各々時間を過ごす。
レイとレオンは客室に戻り、レイは客室の窓や壁、レオンは床掃除を始めた。
二人が掃除をしていると、客室がノックされた。
「はい」
レイは、掃除していた手を止め、ノックをした人に返事をした。
「失礼する」
客室にはカインが入ってきた。
「掃除してくれているのか。使用人たちに任せて構わないのに」
「使わせてもらったから、少しでも綺麗にしておきたくて」
「そうだったのか、ありがとう。レイ殿は、この後は森へ?」
「ええ」
「私とリリィが森まで送ろうか?」
「コハクたちに乗せてもらうから大丈夫」
「そうか」
すぐに引き下がったカインだが、どこか少し寂しそうだ。
「団長さんも仕事があるでしょう?今日も休んだら、副団長さんに怒られるわ」
「そうだな、あいつを怒らせると怖いからな」
「ええ」
二人は、お互いレヴィンの怒った様子を思い浮かべ、くすくすと笑い合った。
「じゃあ、また後で」
カインはそう言い終えると、すぐに客室を出た。
彼が出て行った後、レイたちはまた掃除に戻る。
「ここの人たちは、とても優しい人たちばかりね」
レイは窓を拭きながら、床の掃き掃除をしているレオンに話しかけた。
「ああ、そうだな。この家の人間は好きか?」
「うん。温かい」
彼女は少し微笑む。
「ふっ。そうか」
アルバート邸の者たちを温かい人だと答えた彼女を、レオンはとても愛しそうな表情で見つめた。
掃除を開始して約数三十分、レイたちは掃除を終えた。
綺麗になった客室は、外から差し込む太陽の光が入り、より明るく輝いて見える。
「掃除も終わったし、森へ戻ろうか」
「そうだな。王都には、明日戻る予定か?」
「そうね。片道で数時間かかるし、荷造りと、森の皆にも報告しておきたいから今日の夜は森で過ごすわ。だけど、明日のお昼前には王都に戻ろうと思う」
「分かった。レイの料理は、今日の晩飯を終えたらお預けだな」
「王都にもきっと貴方の口に合う美味しい料理があるわよ」
「だが、たまには何か作ってくれ」
レオンは、レイのすぐ傍にまで来て彼女の手料理を所望した。
「ええ、分かったわ」
レイは、そんな彼にやさしい目を向けた。
「約束だからな」
レオンは、その確約に満足そうな顔をした。
彼女は、荷物を魔法収納の中へしまい、二人は客室を出た。
客室の扉の前で待機していたエイミーに声を掛ける。
「エイミーさん」
「はい」
「私たちこれから、森に戻るので、ルーカスさんたちに挨拶したいのだけど、どこにいるか分かりますか?」
「この時間ですと、書斎に居られると思います。案内致します」
「ありがとうございます」
エイミーの案内のもと書斎に向かったレイたち。
書斎は最上階にあたる三階にある。
書斎の前に着くと、エイミーが扉をノックする。
「旦那様、奥様、エイミーにございます。レイ様がご挨拶にと」
「ああ。入ってくれ」
扉の奥で、ルーカスが返事をした。
「失礼致します。レイ様たちはどうぞ中へ」
彼女は、扉を開けレイたちを中に誘導した。
「失礼します」
レイは一礼して中に入る。
それに続き、レオンも入っていく。
エイミーは書斎の前で待機する。
「ああ。そこのソファーに掛けて」
書斎は中央に四人用のテーブルが一台置かれ、その両脇には二人掛けのソファーが二脚ある。
片側のソファーで、セシルが本を読んでいる。
そしてそのテーブルの奥、つまり書斎の入り口の反対側には、一台の作業机がある。
そこはルーカスの作業用スペースで、彼は今そこに座っている。
「ありがとうございます。挨拶だけなので、お構いなく」
「そうか。もう森へ戻るのかい?」
「はい。明日には、また王都に戻ってきます。学園に通う日も近いので」
「そうか、二人はセレイム学園に通うのだったね」
「はい」
「学園では、様々なことが学べる。存分に学園生活を謳歌しなさい。学園が長期休暇に入ったら、ここへ遊びにおいで。私たちは、いつでも歓迎するよ」
「そうよ、長期休みに限らずここへ来るといいわ」
ルーカスとセシルは、二人を自分の子のように気遣う。
「私たちの事を気に掛けて下さり、感謝します」
「ふふ。そんなに畏まらなくていいのよ、レイさん。ここをあなたたちの家と思ってくれると嬉しいわ」
セシルはころころと笑った。
「ありがとうございます」
レイは、心なしか嬉しそうな声のトーンに聞こえる。
「また、森の事や学園の話を聞かせてくれ」
「はい」
「レイ。そろそろ向かおう」
レオンがレイに耳打ちをする。
「そうね。ルーカスさん、セシルさん。私たちはここで失礼します」
「ああ。気を付けて。見送りが出来ず申し訳ない」
「いえ。泊めていただき、ありがとうござました」
レイは、ルーカスたちに頭を下げ、感謝を伝えた。
「また、いらしてちょうだい」
「はい。また」
挨拶を終え、レイたちは書斎を出た。
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