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【第二章】セレイム王国へ

かぼちゃのクッキー

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「レイ殿、レヴィン副団長。スープの完成を待っている間、休憩も兼ねて、クッキーを食べませんか?」
 バルトが二人に提案をした。
「クッキー?」
「はい。私の作ったかぼちゃのクッキーなんですけど。…良かったらどうですか?かぼちゃの味を活かしたクッキーなので、甘いものをあまり好まない、副団長も食べられると思います」
 そう言いながら、バルトは自身の作ったかぼちゃのクッキーの入ったバスケットを持ってきた。

「心遣い感謝する。少し頂こうか」
 厨房の入り口に付近にいたレヴィンは厨房の中へと足を運ぶ。
「バルトさんは、お菓子を作るの得意なのね」
「はい。もともとは、菓子をメインに作っていましたので」
「へぇ。クッキー、私もいただいていいかしら?」
「ええ。もちろんです。今お茶を用意しますね。椅子に掛けていてください」
 バルトは、調理台の下に片づけられている椅子を出し、レイたちに掛けるように促す。
「ありがとう」
「失礼する」
 二人はそれぞれ席についた。

 しばらくして、バルトが紅茶を淹れたカップとポット、それから皿に乗せたクッキーを三人分、運んできた。
「お待たせしました!紅茶に砂糖を入れられるのなら、こちらにあるので使ってください」
「ありがとう。今日はいつも以上に魔力を使ったからお腹すいていたの。……いただきます」
 各々、紅茶や菓子に口をつける。
「無理もありません。レイ殿は、竜の間にいる負傷した騎士たちを、今日の一日で治されたのですから」
「!ゴホッゴホッ」
 レヴィンの放った一言に、紅茶を飲んでいたバルトがむせた。

「っ失礼しました!……あの数を一人で?」
「ええ」
 レイが答える。
「しかも一日でとは……」
 バルトは、彼女のあまりにも卓越した能力に、呆然とする。
「レイ殿は、相当な魔力をお持ちなのですね。あれほどの数の人間に治癒魔法をかけて平然とされている」
「そうなの?そういうの、よく分からないわ。……このクッキー美味しいわね」
「はは!レイ殿は面白い方ですね!ありがとうございます。まだありますので、たくさん食べてください」
 バルトは、高笑いをした。彼女のマイペースさが、彼のツボにはまったようだ。
「それほどの力をお持ちなのに、今まで貴女の名前は耳にしたことがありませんね」
「それはそうよ。私はこの国に住んでいないもの」
 かぼちゃのクッキーを食べながら、レイは答える。
 相当、クッキーが気に入ったようだ。

「そうなのですか?では、どちらに住まわれているのですか?」
「それは、今は言えない」
「そうですか。失礼なことを聞いてしまいましたね」
「答えられなくてごめんなさい」
「いえ、誰でも言いたくないことの一つや二つありますよね」
「それと、私が騎士の人たちを治したことは、誰にも言わないで。陛下とも約束したから」
「はい。分かりました、レイ殿のことは誰にも言いません」
「助かるわ」
 バルトは、それ以上レイについて詮索をしなかった。

「あっ!レイ殿、スープが出来たようです!」
 バルトは空気を変えるように、スープが完成したことをレイに伝えた。
「……うん。これでいいと思う。バルトさん、ありがとう。協力してくれて」
 レイたちは、竜の間へ戻る準備を始める。
「いえ。とんでもないです」
「それと、かぼちゃのクッキー少し分けてもらっても、いいかしら?」
「ええ。どうぞ。気に入ってもらえてよかったです」
 彼はレイの言葉に嬉しそうに、はにかんだ。
「スープの鍋は私が持って行きますよ」
 レヴィンが、運ぶことを名乗り出た。
「ありがとう」
「レヴィン副団長。台車があるので、それに乗せて持って行ってください」
「ああ。分かった。……茶と菓子、美味かったぞ、バルト」
 レヴィンはバルトの目をまっすぐに見て言った。
「っ!ありがとうございます!」
 彼に褒めてもらえたことが嬉しかったのだろう、バルトは破顔した。その顔は、図体に似合わずとても愛らしい。

「では、私たちは竜の間へ戻る」
「はい。またいつでも。いらしてください」
「ああ」
「ええ」
 レイとレヴィンは、完成したスープとバルトから貰ったクッキーを持って、厨房を後にした。
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