森の愛し子〜治癒魔法で世界を救う〜

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【第二章】セレイム王国へ

再び竜の間へ

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「貴女は、先ほどの治癒師様」
 中から現れたのは、竜騎士団副団長のレヴィンだった。
「治癒師様はやめて、レイでいいわ。中の人たちはもう大丈夫そう?」
「失礼しました、レイ殿。ええ。おかげさまで。皆、食事もできるほどの回復を見せています。本当にありがとうございました」
 彼は、深く頭を下げた。
「それならよかったわ」
「ところで、レイ殿の隣にいる方はどなたでいらっしゃいますか?」
 と頭を上げたレヴィンは人の姿になったフェン、もといレオンに視線を移す。
「彼のことは気にしないで」
「先ほどは、見かけなかったのですが」
「私のことはレオンと呼んでくれて構わない。セルビオス国王の知り合いだ」
 レイは、触れないよう流そうとしたが、レオンが自ら名乗り出た。
「そう、なのですか」
 信じられないという顔のレヴィン。
「ああ」

「お二人は、ここに何か御用で?」
「いえ。団長さんと食事の約束をしたから、ここで待っているの」
「あいつが貴女を食事に誘ったのですか?」
「正確には、私とレオンが誘われたのだけど」
「あのカインが……」
 レヴィンは、有り得ないといった反応だ。
「副団長さんも、一緒に行く?」
「いえ、私は結構です。まだ仕事があるので」
「そうなの?だったら団長さんも、仕事があるんじゃないの?」
「まぁ、今日くらいは、大目に見ますよ。明日からは、休んだ分働かせますので」
「副団長さんは、意外と優しいのね。もっと厳しい方だと思っていたわ」
「今日だけです」

 そんな会話をしていたら、カインが着替えを済ませ戻ってきた。
「すまない!待たせた!……レヴィンいたのか」
「団長殿は、仕事が残っているというのに、これから食事に行かれるようですね?」
 黒い笑みを浮かべるレヴィン。
「っ!レヴィン怒っている、のか?」
「いいえ?貴方が仕事を置いて食事に行くことに対して、怒ってなどいませんよ?」
「すまない!レイ殿たちが今日は街に泊まるそうで、助けてもらった礼に案内しようと思って」
「はぁ。明日からは、きっちり働いてもらうからな」
「ああ、必ず!」
 レヴィンにたじたじのカイン。団長の威厳はどこへやら。

「団長さん」
「なんだ?」
「街に行く前に、少し竜騎士の人たちの様子を見て行っていいかしら?」
 レイは、竜の間にいる騎士たちの様子が気になるようだ。
「ああ。構わない」
「ありがとう」
 カインに許可をもらって、彼女は再び竜の間へ入る。
 すると―
「治癒師様!」
「聖女様!」
 レイが入ってきたことに気付いた騎士たちが声を上げる。
「人気者だな。聖女様?」
「からかわないで頂戴。レオン」
 レオンがレイをからかう。

 竜の間に入るとすぐにレイの前に、一人の騎士が来た。
「助けていただきありがとうございます!このご恩は一生忘れません」
 助けたレイに感謝を伝えに来たようだ。
「そういうの要らないから」
「ですが、助けていただいたのに何もしないのは、騎士の名に恥じます」
「だったら、食事をとって、早く寝て、騎士として万全の状態にならないと、いけないんじゃないかしら」
 冷たくいい放つレイ。
 しかし、紡ぐ言葉はとても優しい。
「はい!……治癒師様。回復したら、俺とお付き合いしてください!」
 彼女の言葉が嬉しかったのか、突然、告白をした騎士。
「は?!」
 それを聞いていたカインが、思わず声を出した。
「え。無理です」
 レイは、冷静にその告白を切り捨てた。
「治癒師様は、恋人がおられるのですか」
「いないけど」
「でしたら!」
「そういうのに興味ないの。ごめんなさい」
「そんなぁ」
 玉砕した騎士。
 彼の、熱烈な想いは届かなかった。

「(そう、なのか……)」
 彼女の言葉に、どこかで誰かも落胆していた。
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