森の愛し子〜治癒魔法で世界を救う〜

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【第二章】セレイム王国へ

ひと段落

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「じゃあ、聞き方を変えるわ。貴方が強くなりたい理由は?」
「俺が強くなりたい理由?」
「そう。貴方が強くなりたいと思ったきっかけ」
「強くなりたいと思った理由……」
 竜舎に少しの間、沈黙が流れる。
 レイは、グレイが話し始めるのをじっと待つ。

「俺には、弟がいたんだ」
 グレイが沈黙を破った。
 彼が話し始めた家族の話を、レイは静かに聞く。
「その弟がある日、縄張りの争いに巻き込まれて他の群れの聖竜に殺されたんだ。俺はその時、何もできなくて。逃げることしかできなかった。弟を守れずに逃げることしかできなかった自分が憎くて。それで守れるくらい強くなりたいって……」
 グレイが自身の想いを紡ぐ。彼の強さにこだわる理由が明確に表れた。
「貴方にも、ちゃんと守りたいものがあったじゃない」
 いつの間にか、レイはグレイのそばに来ていた。彼女の表情は穏やかだ。
「そう、だな」
「だったら、こんなとこで終わりにしないで、ちゃんと傷を治して、空で貴方を見ている弟に、かっこいいお兄ちゃんの姿を見せないといけないんじゃない?」
 彼女は、グレイに微笑みかける。彼はレイの言葉に、力なく笑ったように見えた。
「それもそうだな。今ここで俺があいつの所へ行っても、怒られそうだ」
 そう言うとグレイは、肩の力が抜けたのか体勢を崩しうずくまった。

「……治癒魔法を受けてくれる?」
 レイは優しく問いかける。
「ああ」
 今の彼に先ほどまでの威厳はもう、ない。
「俺が回復したら、俺にあんたの言う、守る戦い方を教えてくれ」
「ええ。貴方にぴったりの戦い相手がいるわ」
「そうか、楽しみにしてる」
 そういうと、グレイは瞼を閉じた。
 彼は体力の限界だったらしくそのまま眠ってしまった。
「あら、眠ってしまったわ」
「グレイをなだめるとは、さすがレイ殿」
 一部始終を見ていたカインが呟いた。
「とりあえず治癒魔法をかけないと。―癒しの力ヒール。うん。これで、この子は大丈夫。後は、他に癒しの力ヒールを受けれていない子たちを―」


「レイ殿、お疲れ様」
 グレイを治した後、他の聖竜たちの傷も治しレイたちは竜舎を後にした。
「ええ。今日は、さすがに疲れたわ」
 レイは今日一日の長く目まぐるしい出来事に苦笑した。
 すっかり日は沈み、町は街灯に照らされている。

「この後は、また森に?」
「いいえ。今日はもう遅いし、宿に泊まるわ。それに、暗闇の森へ戻るほどの気力は残ってないし」
「だったら、夕飯を一緒に食べないか?礼もちゃんとできてないし」
「カイン。飯なら、肉のうまい店に連れていけ」
 今まで空気になってしまっていたフェンが、久しぶりに会話に入ってきた。
「私の行きつけの美味い店があるので、そこにしましょう。レイ殿も構わないか?」
「ええ。私は何処でも」
「後、私のことはこれからはレオンと呼べ」
 先ほどの謁見の間で、フェンはレオンという名で学園に通うことが決まったようだ。
「そうでした。人の姿の時はレオン殿、でしたね。では急いで着替えてくるので、二人は竜の間の前で少し待っていてもらえますか」
「分かったわ」
「ああ」
「では、また後で」
 そうして、二人はカインと別れた。

「……来週から、学園に通うのよね。明日戻ったら森のみんなにしばらく家を空けるって、伝えておかないと」
「そうだな。森の奴らは寂しがるだろうな」
 レイとレオンは竜の間へ向かいながら、学園のことについて会話をしていた。
「特にあのウサギの子は、ついて行くって言いそうね」
「そうだな」
「はぁ。通い始めたら、きっと面倒な事に巻き込まるわね」
 虚空を見つめるレイ。学園へ通うことに、まだ前向きに離れていない様子。
 彼女の憂鬱とした思いとは反対に、二人が歩いている廊下から見える空は、満天の星で輝いている。
「少なからずあるだろうな。まあ、私が常にいるし、心配ないだろう。それに、お前の力を見せたら、誰も文句を言う奴はいなくなるぞ?」
「そんなことしたら、その子たちの親が仕返しに来るわよ」
「それはそれで見物だな」
「もう」
 まるで他人事なレオンに彼女は呆れた。
「にしても、ほんとに今日は色々あったわね」
「そうだな。おかげで退屈しなくて済んだぞ」
 歩きながらそんな会話をしていると、二人は竜の間の前に戻ってきた。

 すると二人が着くと同時に、竜の間の扉が内側から開いた。
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