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【第二章】セレイム王国へ
褒美
しおりを挟む「……完全には信じていない。というのが本音だ」
「そうですか」
「だが、君が嘘を言っているようにも見えない」
そう言って、レイにウインクをしたセルビオス。意外に子供心がある王のようだ。
「それに、カインとセレイムへ来たということは、カインの聖竜に乗ったということなのだろう?」
「はい」
「あの竜が、パートナー以外乗せたというのは、初めてのことだ」
「そうなの?」
レイはすぐ隣にいたカインに聞いた。
「ああ。言っていなかったが、リリィが俺以外を背に乗せたのはレイ殿が初めてだ」
カインは力強く頷いた。
「そのことが直接な証拠にはならないが、君には何か力があるというのは伝わるよ」
彼女に、優しく微笑むセルビオス。
「レイ殿。改めて言わせてもらう。カインと、竜の間にいた竜騎士たちを助けてくれて、本当にありがとう」
彼はその言葉と共に、深々と頭を下げた。
「頭を上げてください。私のような者に頭を下げる必要はないです」
レイは、セルビオスの行動に焦る。
「私の国を助けてくれたのだ。頭を下げるだけでは足らんよ」
「セルビス、あまりレイを困らせてくれるな」
焦る彼女に、助け舟を出したフェン。
「そなたが人を守るとは、昔では考えられんな」
「レイは特別だ」
「ほう?特別か」
セルビオスは意味深長な顔をする。
「何か勘違いしているようだが、私も暗闇の森で、この子に助けられた身なのだ。レイがまだ魔法も使えぬ子供の頃に出会った。今となっては、家族同然だ」
「そんな小さい頃から森に……」
フェンを見ていたセルビオスの視線は、レイに移る。
「はい」
「苦労したろう」
「いえ。森での暮らしは、むしろ快適なくらいです」
レイはまっすぐ彼を見て言い切った。
彼女の芯の通った発言に、彼は驚いたという顔をした。
だが、すぐにいつもの優しい表情に戻る。
「そうか、そうか。失礼なことを言った」
「気になさらないでください」
「ありがとう」
レイを見るセルビオスの顔は、孫を見る祖父のようだ。
「……セルビス」
「なんだ?」
フェンがセルビオスに話しかけた。
「レイの活躍に、何か褒美をくれて貰わねば、釣り合いが取れないと思うのだが?」
「ちょっと、フェン!何を言ってるのよ」
何か良からぬことを企んでいるフェンを止めようとするレイ。
「確かにそうだな。レイ殿、褒美は何が良い?」
「い、いえ。私は何も要りません」
「お前は欲がない。宝石の一つや二つねだれば良いのに」
彼女の返答にフェンは、つまらん、という顔をする。
「宝石なんて、いらないわよ」
「本当に、何もいらぬのか?」
フェンとの会話に、セルビオスが入る。
「はい、褒美は要りません。ただ、一つだけ願いを聞いていただけますか?」
「もちろん。構わんよ」
「今回のカイン団長を助けた件、竜の間にいる負傷者を治した件について、私が関与していたということを伏せていただきたいのです」
「……何故だ?君はこの国に貢献したのだぞ」
レイの申し出に、国王の顔に戻るセルビオス。
「私が関与していたことを公表すれば、少なからず、この力を利用しようとする者が現われるでしょう」
「あり得るだろうな。(ほう。そこまで見通しているのか)」
「それに、今回の件は私の暮らす場所で死なれるのは、居心地が悪いので助けたまでです」
「ふむ。セレイム王国の騎士だから助けたと言う訳ではなく、そうでなかったとしても君はその者たちを助けたと、そう言いたいのだね」
「はい。私はこの国のために行動したわけではありません」
「だが、竜の間の件に関しても同じことを言えるのか?」
「竜の間の件に関しては、カイン団長に頼まれましたが、私はそれに応えたつもりはありません」
「ほう。ではなぜ助けたのだ」
「私が手を貸したのは、聖竜、リリィに頼まれたからです」
「つまりカインを助けたのは、自分の生活を守るため。また騎士たちを助けたのは、聖竜から頼まれたために手を貸しただけ、国のためではない。だから褒美もいらない。そういうことか?」
セルビオスはレイの言い分を簡潔にまとめた。
「はい。」
「君が力を貸してくれるのは今回限りということかね」
「そういうことになります」
「そうか。それは、惜しいことだ」
セルビオスは、眉をハの字にした。
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