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【第二章】セレイム王国へ

到着

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「王都が見えてきた」
 二人が話しているうちに、王都の近くまで来ていたようだ。
「本当ね。やっぱり飛ぶ方が早いわね」
「レイ殿はいつも町までどうやって来ているんだ?」
「基本的にはフェンに乗せてもらって、そこから町の近くまではコハクに乗せてもらうって形かしら」
「コハク殿が門の前に現われても大丈夫なのか?」
「いいえ。だから、コハクに乗せてもらっても門番が見える少し手前になったら歩くことにしてる」
「なるほど。……そろそろ下に降りる。しっかり捕まっていてくれ」
「ええ」
 カインは高度を落とすために、リリィの手綱を引く。リリィはそれを合図に下降し、門の前に降り立った。

「どこの者だ!」
 急に現れた聖竜に対して、門番が警戒態勢をとる。
「驚かしてすまない。私だ。セレイム王国の竜騎士団団長のカインと言えば分かるか?」
 リリィから降りたカインが、警戒している門番に答えた。
「……カイン様!?これは大変失礼致しました!ご無事でしたか!」
 カインだと気づき、すぐさま謝る門番。
「ああ。彼女のおかげで、命拾いした」
 カインはそう言いながら、リリィからレイを降ろすため手を差し出す。
「ありがとう」
 レイはその手を取ってリリィから降りる。
「……少女ですか?」
リリィから降りた彼女を見た門番は、不思議そうにカインに視線を送った。
「すまない、説明は後だ。現在の竜騎士団の負傷者の数は分かるか」
 門番の視線を流し、カインは負傷者の状況を聞いた。この門番は、城内の状況を知る騎士の一人のようだ。
「おおよそではありますが、五百人弱の負傷者がおります。治癒師たちも全力を尽くしてはいるのですが……」
「その者たちの状況は」
「命に別状はありません。ただ、四肢を損傷した重傷者が思いの外多く……」
「そうか。レイ殿、君の力で治せるだろうか」
「話を聞く限りでは治せると思うわ。時間はかかると思うけど」
「ありがとう。助かる」

「団長殿。本当にあの娘にできるのですか?」
 門番が小さな声でカインに問うた。
「私の傷を治してくれたのが彼女だ」
 カインは、少し鋭い目つきを門番に向けた。
「っ失礼しました」
 眼光を向けられた門番は口を閉じた。
「すまない、先を急ぐ。リリィ、ここまでご苦労だった。休んでくれ」
 カインはそう言うとリリィを召還陣に戻し、レイと王都の門をくぐった。

「レイ殿、負傷した騎士たちは王城にいる」
「分かったわ」
 門を潜り、城下町を横切りながら言葉を交わす二人。
 そんな二人を見た、国民の一人が、
「カイン様!ご無事でいらっしゃいましたか!」
 と、叫んだ。
 すると、瞬く間にカインの周りに人が集まってきた。
「ええ。私は無事です。心配をおかけしました。……申し訳ありませんが、今は急いでおりまして、通していただけますか?」
 レイや門番たちとは違う話し方をするカイン。
「(町の人たちには、とても丁寧に話すのね)」
 そんな彼を見て、レイはそんなことを考えていた。
「これはっ!失礼しました!」
 カインの一声に民衆はすぐに道を開けた。
「ありがとうございます。私のことに関しては、事が片づき次第、お話し致します」
 そう言って、カインたちは足早に王城へ向かった。

 石畳の道に、木組みやレンガ調の家が立ち並ぶセレイムの城下町を抜け、王城の前についた二人。
 そこには二人の王城の門番をしている姿があった。
「……!カイン団長でいらっしゃいますか?」
 カインのことにすぐに気が付いた一人の門番。だが、死んだものとされているはずの団長が目の前に現れ、混乱している様子。
「ああ、カイン・アルバートだ」
「ご無事でしたか!よかった!」
 二人の門番は泣いて喜ぶ。

「すまない、急いでいるんだ。負傷者が今どこにいるかわかるか?」
「失礼しました!負傷者は、竜の間におります。……団長、その娘は?」
 レイに気付た門番は、カインに問いかけた。
「ああ。彼女がその者たちを救えるかもしれないんだ。だから来てもらった」
「王国の治癒師でも手をこまねいているこの状況を、変えられるというのですか?」
 明らかに信用できないという目線をレイに送る。
「ああ。私の傷を治してくれた人でもあるからな。彼女に懸けてみる価値はあると思う」
「そう、ですか。……カイン団長が言われるなら、私たちも信じます!―お通りください」
「ありがとう」
 開かれた門を二人は潜り、王城へ入っていく。

「さすがは団長さん。国の人たちから信頼されているのね」
「まぁ、伊達に団長をしているわけではないからな」
「それもそうね」
 二人はそんな会話をしながら、竜の間を目指す。

 王城にいる者たちの、カインの帰還を喜ぶ声や、レイの存在を不審に思う声を後にして―
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