上 下
3 / 37
【第一章】出会いの始まり

人ならざる者と言葉を交わす少女

しおりを挟む

「どうして、彼女の名前がリリィだと……」
 聖竜の名前を言い当てたレイに、カインは問いかけた。
 名前を呼ばれた聖竜も、目を見開いている。
「彼女があなたの言葉に、リリィは無事ですよ。って答えたのが聴こえたからよ」
「……君はリリィの言葉が分かるのか?」
「ええ。会話する知性があれば、聖獣や精霊、魔獣の声だって聞こえるわ。嘘だと思うならそれでいいけど」
 彼女は、ぶっきらぼうに答えた。
 そう、彼女は普通の人には聞こえない生き物たちの言葉を聞き、言葉を交わすことができるのだ。
「嘘だとは思わないさ。リリィの名前を当てたんだ。すごいな君は」
 カインは優しく微笑んだ。
 微笑む彼にレイは不思議そうな顔をして、
「変わった人ね。普通、人間以外と会話できるなんて言ったら、気持ち悪がるわよ」
 自分を卑下するように、そう言った。
 彼女が森に捨てられた理由が、この力のせいなのだ。
「そんなことはない。私にもそんな力があれば、リリィだけじゃなく他の生き物たちについてもっと知れるのにな……」
 カインは、彼女の力を羨ましいと言った。
「そんないいものでもないわよ。声が聞こえても応えられないこともたくさんある。助けを呼ぶ声が聞こえても、助けられなかった子達がいっぱいいたわ」
 レイは悔しそうに唇を噛む。彼女のヘーゼル色の瞳が揺れる。

「……そうか。でも、君のその力のおかげで助けられた子たちもいるんだろ?」
 カインはレイの目をまっすぐ見て言った。
「レイ。私もお前の力に助けられた一人だ。忘れるな」
 フェンが慰めるように彼女の頬に鼻を軽く当てる。
「確かに、助けられた子もいるわね」
 レイの表情が少し明るくなったように見えた。

 リリィは彼女と向き合うように体の向きを変え、
「レイ、この度は助けていただいきありがとうございます」
 その言葉と同時に頭を下げた。
「私がそうしたいからしただけよ。気にしないで」
 レイは優しくリリィに言った。
「彼女が君に何かを伝えたのか?」
 リリィの言葉が分からないカインがレイに尋ねた。
「助けてくれてありがとうって。貴女は人間が好きなのね」
 彼女はリリィの口先にやさしく触れた。
「はい。セレイム王国では、昔から人と聖竜は共に生活しているので」
 そう答え、彼女はレイの頭に自分の口先を触れさせた。

 それを見たカインが、
「……驚いた。リリィが俺以外に、その仕草をしたところを見たのは初めてだ」
 と呟いた。
「そうなの?」
「ああ。聖竜が人の頭に口づけをするのは、信頼された者の証だ」
「そう。うれしいわ。貴女のことリリィと呼んでもいいかしら?」
 レイはリリィに問いかけた。
「ええ。構いませんよ」
「ふふ。ありがとう。よろしくね、リリィ」
 レイは嬉しそうに、目を細めた。

 穏やかな空気が流れたそのとき、森の奥からこちらに向かってくる何かの気配がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波
ファンタジー
新入社員として社会の波にもまれていた「青葉 春」。 社会人としての苦労を味わいつつ、のんびりと過ごしたいと思い、VRMMOなるものに手を出し、ゆったりとした生活をゲームの中に「ハル」としてのプレイヤーになって求めてみることにした。 ‥‥‥でも、その想いとは裏腹に、日常生活では出てこないであろう才能が開花しまくり、何かと注目されるようになってきてしまう…‥‥のんびりはどこへいった!? ―― 作者が初めて挑むVRMMOもの。初めての分野ゆえに稚拙な部分もあるかもしれないし、投稿頻度は遅めだけど、読者の皆様はのんびりと待てるようにしたいと思います。 コメントや誤字報告に指摘、アドバイスなどもしっかりと受け付けますのでお楽しみください。 小説家になろう様でも掲載しています。 一話あたり1500~6000字を目途に頑張ります。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

【草】限定の錬金術師は辺境の地で【薬屋】をしながらスローライフを楽しみたい!

黒猫
ファンタジー
旅行会社に勤める会社の山神 慎太郎。32歳。 登山に出かけて事故で死んでしまう。 転生した先でユニークな草を見つける。 手にした錬金術で生成できた物は……!? 夢の【草】ファンタジーが今、始まる!!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

処理中です...