上 下
1 / 37
【第一章】出会いの始まり

始まりの出会い

しおりを挟む


―これから始まるこの物語は、魔法が舞台の世界。そして自然に囲まれた地に住む、とある少女のお話―

 ―暗闇の森。
 そこは人が決して立ち入ることはない場所。
 人々がこの森を訪れない理由は、この森には魔獣が棲んでいるからだ。
 魔獣は、冒険者にとっては絶好の獲物。
 しかし、暗闇の森は複雑な地形に加えて、そこに棲む魔獣は数も多く強い者もいるため、実力のある冒険者たちも自ら入ることはしないのだ。

 そんな森の中にひっそりと佇む一つの家。
 この森に住むただ一人の少女、レイ。彼女が住んでいる家だ。
 丸太づくりの構造の二階建ての家に、小さな庭がある暖かみのある印象を与える一軒家だ。

「……今日は湖に魚を釣りに行こうと思うのだけど、あなたも一緒にどう?フェン」
 レイは家の庭にいる、ある者に話しかけた。
 ―フェン。
 彼女にそう呼ばれたのは、聖獣であるフェンリルだ。フェンリルは、体が大きく、鋭い爪を持ち、朝日に当たると白く煌めく毛並みが特徴だ。
 聖獣とは、この世界で上位種の存在である。

 フェンはレイが幼い頃、この森で倒れていたところを彼女に助けられた。それからは彼女と一緒に暮らしている。
「そうだな。私も、一緒に行こう」
 フェンが大きな体で伸びをしながら言った。
 レイは一度、家にローブを取りに戻る。家に入り、着ている長袖のブラウスと、スカートのようにも見える裾の広いクルミ色のズボンの上に、深い緑色のフードのついたローブを身に纏った。
「お待たせ。行こう」
「ああ」
 二人は釣りに行く準備を済まし、湖に向かった。

「今日は、なんだか森のみんなが静かだわ」
 レイは湖に向かう道中、何かの異変を感じ取った。
「言われてみれば、みな何かに警戒しているようだな」
 フェンも、今日はいつもの森とは雰囲気が違うことを察知したようだ。

 二人は、辺りを注意しながら湖の近くまで来た。
 暗闇の森の湖は、とても澄んだ水に満たされている。ここの湖は、晴れている日の朝はエメラルドグリーン、昼は澄んだ蒼、夕暮れは夕日に照らされてオレンジに、と太陽の動きで表情を変える。
 暗闇の森は魔獣こそいるが、その名とは反対に、この森はとても自然豊かで静かな森だ。

 そんな湖のすぐそばで、二人は黒い大きな何かを見つけた。
「……向こうに何かいるわ」
 レイとフェンは、その正体を知るために、その何かに慎重に近づく。
「あれから人間のにおいがするぞ」
 さすがは、フェンリル。鋭い嗅覚を持つ種族だ。
 黒い物体から人に匂いがするそうだ。
「人?こんなのところに?」
 ここは、人の立ち入らない森。そんな場所に人間が迷い込んだというのか。

「……男の人と、ドラゴンのようね」
 黒い影の正体は深手を負った鎧を着た男とドラゴンだった。二人とも気を失っているようだ。
「着ているものを見たところ、この人間は騎士のようだな。とすると、隣はこの者の契約獣かそんなところか」
「……契約獣、ね。とにかく、手当てしないと。傷が深いわ」
 レイは負傷している彼らを見て、顔を少し曇らせる。
「お前は、契約獣の話になると、辛そうな顔をするな。……私たちを縛ることができる人間が、憎いか?」
 フェンがレイの顔を覗き込んで聞いた。
「そうね。……人間に彼らの声は届かない。だから平気で彼らを道具のように扱える。それが許せない。けど、怪我をしているなら、人だったとしても助けるわ。それに、どうしてここにいるのか聞き出さないと」
 そう言うと、レイは袖をさっと腕まくりし、呪文を唱え始めた。
「(人間を憎んでおるくせに、優しすぎるのだ)」
 フェンは心の中で悪態をついたが、彼女の後ろ姿を見つめる目はとても優しい。
「彼らを癒せ。―癒しの力ヒール
 すると、男とドラゴンが淡い優しい光に包まれた。

 しばらくすると、その光は徐々に消え、辺りはいつもの風景へと戻った。
「……ふぅ。とりあえずこれで様子見しましょう。フェン、私は湖で魚を釣って来るから、この人たちのことお願い」
 レイはそう言い残して、湖の方へ歩いて行った。
 
癒しの力ヒール
 傷を癒す魔法。使用者の魔力によって癒せる傷の度合いは変わる。
 切り傷の治癒から、失った手足の再生ができる者もいる。
 しかし、死者を蘇らせることはできない。 死者を蘇らせるのはこの世界の禁忌である。

【魔力】
 人体に流れている一つのエネルギー。これを持つ者が魔法を使える。
 人によって、魔力の量は異なる。
 また、魔力のない者も稀にいる。

【魔法】
 それは、火、水、雷、土、木、風、光、闇、無属性の9つからなるもの。
 レイが使った、癒しの力ヒールは、光属性に含まれる。
 無属性には、収納魔法、転移ワープなどが含まれる。
 一般的には、一属性に特化した者や、二属性から三属性の複属性を扱う者が多い。
 四属性以上を扱える者は稀、全属性を扱える者が数千年前に一人、現れたそうな…。
 無属性以外の属性には、初級、中級、上級、最上級と階級があり、階級が上になればなるほど、消費する魔力は多くなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

ドアマットヒロインはごめん被るので、元凶を蹴落とすことにした

月白ヤトヒコ
ファンタジー
お母様が亡くなった。 それから程なくして―――― お父様が屋敷に見知らぬ母子を連れて来た。 「はじめまして! あなたが、あたしのおねえちゃんになるの?」 にっこりとわたくしを見やるその瞳と髪は、お父様とそっくりな色をしている。 「わ~、おねえちゃんキレイなブローチしてるのね! いいなぁ」 そう、新しい妹? が、言った瞬間・・・ 頭の中を、凄まじい情報が巡った。 これ、なんでも奪って行く異母妹と家族に虐げられるドアマット主人公の話じゃね? ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。 だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。 ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。 ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」 そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。 フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ! うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって? そんなの知らん。 設定はふわっと。

勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。

石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません 俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。 本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。 幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。 そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。 彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。 それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』 今度もまた年上ヒロインです。 セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。 カクヨムにも投稿中です

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~

志位斗 茂家波
ファンタジー
新入社員として社会の波にもまれていた「青葉 春」。 社会人としての苦労を味わいつつ、のんびりと過ごしたいと思い、VRMMOなるものに手を出し、ゆったりとした生活をゲームの中に「ハル」としてのプレイヤーになって求めてみることにした。 ‥‥‥でも、その想いとは裏腹に、日常生活では出てこないであろう才能が開花しまくり、何かと注目されるようになってきてしまう…‥‥のんびりはどこへいった!? ―― 作者が初めて挑むVRMMOもの。初めての分野ゆえに稚拙な部分もあるかもしれないし、投稿頻度は遅めだけど、読者の皆様はのんびりと待てるようにしたいと思います。 コメントや誤字報告に指摘、アドバイスなどもしっかりと受け付けますのでお楽しみください。 小説家になろう様でも掲載しています。 一話あたり1500~6000字を目途に頑張ります。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...