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番外編・百合花(さくらママ)
⑤
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百合花は日に日に志郎が嫌いになり、出先で会う様々な男性と浮気をしたらどうなるかという妄想をするようになった。どいつもこいつもぱっとしないが、それでも志郎よりましなのだ。セックスしなくなったら終わりとは、こういうことだったのか。志郎と百合花は、終わったということなのか。二回連続断られたので、もう次はないような気がする。しかし二人の関係が終わっても、三人の親であることは終わらない。厄介だ。さくらはまだ志郎が好きだ。あおいやももだって、パパキモいと陰口は叩けど、離婚して万歳という域には達していない。両親仲が良いから言える文句だ。志郎は暴力を振るうわけでも、金を使い込むわけでもない。いい父親ではないが、悪い父親でもない。
百合花を飲みに誘ってくるのは整形の若先生だけではない。他の医師や、卸業者でも声をかけてくる奴はいる。もし誘われたのを片っ端から受けていったら、百合花の気は晴れるだろうか。バカにしやがって。
しかし今日も誰とも約束せず、さくらを迎えに行った。最後だった。上の二人が塾の日なので、志郎は夕飯を作っていない。さくらを伴って弁当屋に行った。
「からあげのやつがいい」
さくらにはからあげ弁当、百合花はすき焼きを購入する。あとはおにぎりを適当にたくさん買う。弁当屋の店員がイケメンだった。嫌になる。
車の窓から外を見ていたさくらがふいに「あ、パパ」と言った。何を言っているのかと思ったが、どうやら対向車線を志郎が走っていて、すれ違ったというのだ。
「今はあおい達の塾の迎えに行ってるんじゃない?」
「えー。パパだったけど。塾ってどこ」
「ここから遠いよ。おうちより向こうだから」
「パパだったけどなぁ」
その時は同じ車種を見ただけだと思った。自宅からも塾からも近くないところを走っているはずがない。もう暗いし、見間違えただけだ。
しかし次の塾の日も、その次の塾の日も、さくらは車に乗っている時に志郎を見た。しかもどちらも違うところでだ。
話したくなどないが、問いたださないわけにはいかないだろう。どうなっているのか。
さくらが眠り、上の二人も消灯したあと、寝室で百合花は「エッチしよう」の代わりに車ですれ違った話をした。
「さくらが毎回見るんだよね。どういうことかな」
ここでもう眠いからとか言ったら張り倒そうと思っていたら、本当に寝ているのか志郎は反応しない。
寝たらなんでも逃れられると思っているのか。
「ちょっと聞いてるの?」
百合花は声を荒げた。 すると負けじと志郎は鼾をかきはじめた。なんなのだ。絶対起きてるくせに。
腹が立って、また睡眠薬でも飲もうと部屋を出ると、寝たはずのあおいとももがいた。二人は顔を見合わせると、「ごめんなさい」と頭を下げた。
百合花を飲みに誘ってくるのは整形の若先生だけではない。他の医師や、卸業者でも声をかけてくる奴はいる。もし誘われたのを片っ端から受けていったら、百合花の気は晴れるだろうか。バカにしやがって。
しかし今日も誰とも約束せず、さくらを迎えに行った。最後だった。上の二人が塾の日なので、志郎は夕飯を作っていない。さくらを伴って弁当屋に行った。
「からあげのやつがいい」
さくらにはからあげ弁当、百合花はすき焼きを購入する。あとはおにぎりを適当にたくさん買う。弁当屋の店員がイケメンだった。嫌になる。
車の窓から外を見ていたさくらがふいに「あ、パパ」と言った。何を言っているのかと思ったが、どうやら対向車線を志郎が走っていて、すれ違ったというのだ。
「今はあおい達の塾の迎えに行ってるんじゃない?」
「えー。パパだったけど。塾ってどこ」
「ここから遠いよ。おうちより向こうだから」
「パパだったけどなぁ」
その時は同じ車種を見ただけだと思った。自宅からも塾からも近くないところを走っているはずがない。もう暗いし、見間違えただけだ。
しかし次の塾の日も、その次の塾の日も、さくらは車に乗っている時に志郎を見た。しかもどちらも違うところでだ。
話したくなどないが、問いたださないわけにはいかないだろう。どうなっているのか。
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「さくらが毎回見るんだよね。どういうことかな」
ここでもう眠いからとか言ったら張り倒そうと思っていたら、本当に寝ているのか志郎は反応しない。
寝たらなんでも逃れられると思っているのか。
「ちょっと聞いてるの?」
百合花は声を荒げた。 すると負けじと志郎は鼾をかきはじめた。なんなのだ。絶対起きてるくせに。
腹が立って、また睡眠薬でも飲もうと部屋を出ると、寝たはずのあおいとももがいた。二人は顔を見合わせると、「ごめんなさい」と頭を下げた。
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