40 / 57
沙織(駿斗ママ)③
①
しおりを挟む
眼鏡君と飲んだ翌朝受診した病院で、風邪をこじらせていると言われて抗生物質が処方された。これでよくなるかと思ったのに、駿斗の熱は数日経っても下がらなかった。スイミングも休んだ。休んでも月会費が変わらないので悔しかったが、それよりもまず駿斗に良くなってもらわないと始まらない。三件目の小児科で腎盂腎炎という聞いたことのない病名を言われ、食事がとれていないのでと総合病院に紹介されて入院となった。
とても不安で長い日々だったが、原因がわかったことで沙織はすごく楽になった。もしこのまま駿斗が死んでしまったらどうしよう、と思った。自分が男と遊んでいたから、駿斗が手遅れになっていたらどうしようと。
駿斗は熱が落ち着くと、少し元気を取り戻した。
「次のプールは、行けるかなぁ」
「次もお休みだよ。その次に行けるといいね」
子供の入院中は原則大人が付き添わなければならない。沙織はずっと、駿斗といた。仕事は休んでいて、もうハンバーグ屋への気持ちは完全に薄れていた。
《ついたよー。何号室?》
万恵パパ・大輔コーチからラインがきた。駿斗の入院のことを知らせたら、見舞いに来てくれることになった。沙織とエリー親子にしか暫く会っていない駿斗は、目を輝かせて喜んだ。
「大輔コーチ!」
「よう!」
万恵パパはいきなり手作りと見えるサンドイッチと、それからぶどうを持ってきた。駿斗は偏食なので貰っても困るし、更に手作りだと重いな、と沙織は思ったのだか、駿斗は喜んで食べ始めた。
「おいしい、おいしい」
「だろ? 実は今日これからピクニックに行くから頑張って朝から作ったんだけど、駿斗の分も作ってみたぞ」
「ありがとう!」
「あ、沙織ちゃんも良かったら」
「ありがとう。パパが作ったの?」
「そうよ。本当は俺と万恵でピクニックの予定だったからね。なのにいきなりうちのやつも行くことになったから急遽増量。たっぷり作ったってわけ」
本当に今時のイクメンなんだな、と感じた。稼ぎはなくても、子供と遊んでくれるのは万恵ママもさぞ助かるだろう。
聞けば美穂たちとピクニックの予定が、クラスの女子の参加者が増え、大勢で遊ぶということだ。
「女子もけっこう関わりあるんだね。うちらも礼雄たちとよく集まるけど」
「いやいや初めてだよ。たださくらちゃんのママは製薬会社の営業で、らんちゃんのママは薬剤師だから、うちのやつと実は仕事仲間みたいなもんさ。だから急遽うちのも誘ったの」
「そうなんだ」
「そうそう。ママ付き合いはないけど、仕事で会ったり電話したりはする仲なんだって。だったらママ友になればいいのにってずっと思ってたから今日がチャンスってこと」
「じゃあ美穂ちゃん、ちょっとアウェイな気分かもね」
「そっか! 俺、早く行ってあげた方がいいね」
万恵パパは立ち上がると、駿斗に言った。
「元気になったら、また一緒に泳ごうな! 待ってるから」
駿斗は笑ってガッツポーズをした。サンドイッチは、なくなっていた。
「……ねぇ、美穂ちゃんとは、何もないんだよね?」
帰ろうとする万恵パパに、つい訊いてしまった。すると万恵パパは嫌な顔もせず、んなわけないじゃーんと笑った。そして 「俺、うちのやつのこと、愛してるからね」とさらっと言った。
とても不安で長い日々だったが、原因がわかったことで沙織はすごく楽になった。もしこのまま駿斗が死んでしまったらどうしよう、と思った。自分が男と遊んでいたから、駿斗が手遅れになっていたらどうしようと。
駿斗は熱が落ち着くと、少し元気を取り戻した。
「次のプールは、行けるかなぁ」
「次もお休みだよ。その次に行けるといいね」
子供の入院中は原則大人が付き添わなければならない。沙織はずっと、駿斗といた。仕事は休んでいて、もうハンバーグ屋への気持ちは完全に薄れていた。
《ついたよー。何号室?》
万恵パパ・大輔コーチからラインがきた。駿斗の入院のことを知らせたら、見舞いに来てくれることになった。沙織とエリー親子にしか暫く会っていない駿斗は、目を輝かせて喜んだ。
「大輔コーチ!」
「よう!」
万恵パパはいきなり手作りと見えるサンドイッチと、それからぶどうを持ってきた。駿斗は偏食なので貰っても困るし、更に手作りだと重いな、と沙織は思ったのだか、駿斗は喜んで食べ始めた。
「おいしい、おいしい」
「だろ? 実は今日これからピクニックに行くから頑張って朝から作ったんだけど、駿斗の分も作ってみたぞ」
「ありがとう!」
「あ、沙織ちゃんも良かったら」
「ありがとう。パパが作ったの?」
「そうよ。本当は俺と万恵でピクニックの予定だったからね。なのにいきなりうちのやつも行くことになったから急遽増量。たっぷり作ったってわけ」
本当に今時のイクメンなんだな、と感じた。稼ぎはなくても、子供と遊んでくれるのは万恵ママもさぞ助かるだろう。
聞けば美穂たちとピクニックの予定が、クラスの女子の参加者が増え、大勢で遊ぶということだ。
「女子もけっこう関わりあるんだね。うちらも礼雄たちとよく集まるけど」
「いやいや初めてだよ。たださくらちゃんのママは製薬会社の営業で、らんちゃんのママは薬剤師だから、うちのやつと実は仕事仲間みたいなもんさ。だから急遽うちのも誘ったの」
「そうなんだ」
「そうそう。ママ付き合いはないけど、仕事で会ったり電話したりはする仲なんだって。だったらママ友になればいいのにってずっと思ってたから今日がチャンスってこと」
「じゃあ美穂ちゃん、ちょっとアウェイな気分かもね」
「そっか! 俺、早く行ってあげた方がいいね」
万恵パパは立ち上がると、駿斗に言った。
「元気になったら、また一緒に泳ごうな! 待ってるから」
駿斗は笑ってガッツポーズをした。サンドイッチは、なくなっていた。
「……ねぇ、美穂ちゃんとは、何もないんだよね?」
帰ろうとする万恵パパに、つい訊いてしまった。すると万恵パパは嫌な顔もせず、んなわけないじゃーんと笑った。そして 「俺、うちのやつのこと、愛してるからね」とさらっと言った。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説

地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定


隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。


極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる