愛してるんだけど

沢麻

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沙織(駿斗ママ)③

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 眼鏡君と飲んだ翌朝受診した病院で、風邪をこじらせていると言われて抗生物質が処方された。これでよくなるかと思ったのに、駿斗の熱は数日経っても下がらなかった。スイミングも休んだ。休んでも月会費が変わらないので悔しかったが、それよりもまず駿斗に良くなってもらわないと始まらない。三件目の小児科で腎盂腎炎という聞いたことのない病名を言われ、食事がとれていないのでと総合病院に紹介されて入院となった。
 とても不安で長い日々だったが、原因がわかったことで沙織はすごく楽になった。もしこのまま駿斗が死んでしまったらどうしよう、と思った。自分が男と遊んでいたから、駿斗が手遅れになっていたらどうしようと。
 駿斗は熱が落ち着くと、少し元気を取り戻した。
 「次のプールは、行けるかなぁ」
 「次もお休みだよ。その次に行けるといいね」
 子供の入院中は原則大人が付き添わなければならない。沙織はずっと、駿斗といた。仕事は休んでいて、もうハンバーグ屋への気持ちは完全に薄れていた。
 《ついたよー。何号室?》
 万恵パパ・大輔コーチからラインがきた。駿斗の入院のことを知らせたら、見舞いに来てくれることになった。沙織とエリー親子にしか暫く会っていない駿斗は、目を輝かせて喜んだ。
 「大輔コーチ!」
 「よう!」
 万恵パパはいきなり手作りと見えるサンドイッチと、それからぶどうを持ってきた。駿斗は偏食なので貰っても困るし、更に手作りだと重いな、と沙織は思ったのだか、駿斗は喜んで食べ始めた。
 「おいしい、おいしい」
 「だろ? 実は今日これからピクニックに行くから頑張って朝から作ったんだけど、駿斗の分も作ってみたぞ」
 「ありがとう!」
 「あ、沙織ちゃんも良かったら」
 「ありがとう。パパが作ったの?」
 「そうよ。本当は俺と万恵でピクニックの予定だったからね。なのにいきなりうちのやつも行くことになったから急遽増量。たっぷり作ったってわけ」
 本当に今時のイクメンなんだな、と感じた。稼ぎはなくても、子供と遊んでくれるのは万恵ママもさぞ助かるだろう。
 聞けば美穂たちとピクニックの予定が、クラスの女子の参加者が増え、大勢で遊ぶということだ。
 「女子もけっこう関わりあるんだね。うちらも礼雄たちとよく集まるけど」
 「いやいや初めてだよ。たださくらちゃんのママは製薬会社の営業で、らんちゃんのママは薬剤師だから、うちのやつと実は仕事仲間みたいなもんさ。だから急遽うちのも誘ったの」
 「そうなんだ」
 「そうそう。ママ付き合いはないけど、仕事で会ったり電話したりはする仲なんだって。だったらママ友になればいいのにってずっと思ってたから今日がチャンスってこと」
 「じゃあ美穂ちゃん、ちょっとアウェイな気分かもね」
 「そっか! 俺、早く行ってあげた方がいいね」
 万恵パパは立ち上がると、駿斗に言った。
 「元気になったら、また一緒に泳ごうな! 待ってるから」
 駿斗は笑ってガッツポーズをした。サンドイッチは、なくなっていた。
 「……ねぇ、美穂ちゃんとは、何もないんだよね?」
 帰ろうとする万恵パパに、つい訊いてしまった。すると万恵パパは嫌な顔もせず、んなわけないじゃーんと笑った。そして 「俺、うちのやつのこと、愛してるからね」とさらっと言った。
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