愛してるんだけど

沢麻

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美穂(結ママ)②

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 「子供、できないな」
 雅教が言う。寂しそうに。心の中では昔風に、男子を産めない女なんて無価値だくらいに思っているのかもしれない。でも彼なりに気を使っているのかもしれない。ごめんねと言おうとしたが、やめた。謝ることは何もない。美穂と雅教が、色々と合わないというそれだけの話なのだ。話は不妊治療にまでは進まないだろう。雅教は、そういう人工的なものは好きではない。不妊治療をすれば妊娠できるかもしれないが、また結のように思うようにいかない子供が生まれるかもしれない。女の子かもしれない。もっと美穂が壊れるかもしれない。そう思うと踏み切れない。こうして誤魔化しのセックスで時間稼ぎをするしかない。
 「そういえば保育園に医者の子供なんているんだな」
 「うん、そうなの。私も最近知ったんだけど、結はその子と一番仲良しなんだよ」
 「お母さんが医者ってことは、お父さんも医者なのか?」
 「ううん、違う」
 「医者と結婚する男なんてどんな職業なんだろうな。奥さんの稼ぎよりも多いとすると……うーん」
 雅教はまたモラハラ思考で何やら考え始めた。美穂は万恵ちゃんパパの職業は敢えて言わなかった。雅教には万恵ちゃんパパのことを馬鹿にする資格などないからだ。
 万恵ちゃんのパパはとても素敵だ。あんなお父さんもいるんだと感心した。お母さんが仕事でも全然平気で一人で子供といられる。公園で楽しく遊べる。ご飯を作る。掃除をする。保育園の送りをする。他のママと交流できる。ああいう人が夫だったらいいのに、と思ってしまった。それなら美穂はきっと、今でも英語教諭を続けていただろう。帰宅後は順番に仕事の話を言い合って、ディスカッションして、ストレス発散して。
 男は給料じゃない。
 男が、女が、じゃなくて、親は、会社員は、教師は、と主語を変えてみよう。雅教には、そんなことはできない。
 「どんな旦那さんか、今度行事に参加してついでにチェックしてみたら」
 一度くらい、結の行事に出てみてほしい。結は、雅教が来たら喜ぶだろうに。
 「うーん、考えておくよ」
 雅教はパジャマを着ると、もう美穂に用はないと言わんばかりに背を向けて布団に入った。
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