美人って

沢麻

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結婚します!

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 「この度、結婚することにしました」
 「ええっ」
 金沢の結婚式から二ヶ月も経っていない、新年度の職員会議でいきなり野坂美紀が発表し出して、紗耶香はお茶をまた吹き出してしまった。
 
 今年度は新入職員が二名で、そのうち新卒は一名。またものすごく可愛い子が入り、金沢がさっそく気に入っている。もう一名は三人目の男性保育士で妻の転勤に伴って引っ越してきた転職組の四十男だ。
 紗耶香は年中クラスを担当することになり、藤川智也は持ち上がりで年少。去年の恒星の事件があったが、その後親からの風当たりが強まることはなかったのだ。むしろ皆、不器用な藤川を応援している節がある。花怜がいなくなったことにもすぐ慣れた。だから今日お茶を吹き出して、「ちょっと紗耶香」と呆れてティッシュを取ってくれる花怜がいないことを少し意識した。
 「おめでたいことが続くわねぇ」
 園長が手を叩いて喜んでいる。ちなみに野坂は現在幼児のフリー保育士なので、また紗耶香の周りが妊娠節が強まりそうな気が……。
 「まさかでき婚じゃないですよね!?」
 紗耶香がうっかり発言すると皆が爆笑した。紗耶香と同じクラスを担当すると……のジンクスはもうネタになっている。
 「違う違う。大丈夫だよ紗耶香」
 野坂美紀は笑って答えた。入籍と結婚式は六月に一気に済ませる計画で、遠足後の時期を狙って結婚休暇を取るとのこと。
 いいなぁ、会議で結婚報告。幾度となく繰り返されてきた結婚報告、妊娠出産報告、紗耶香の番になるのはいつだろう。猫山とは続いている。付き合ってるんだかなんなんだか、という考えは捨てることにした。猫山はそういう形式ばった付き合いをするタイプじゃなく、ましてや結婚を前提に付き合ってるよねみたいな確認をし合うタイプでもないのだった。でも、きっと、猫山は紗耶香と結婚したいんじゃないかな、と思うこともある。それを口に出さないのか出せないのか、猫山というキャラクターははっきりしない。家族に紹介するといった気配もないので、紗耶香も猫山を家族に会わせていない。
 はぁ、こんなんじゃ報告は随分先だな、と思う。
 いつまでも煮えきらなかったらまた他を探せばいい。ずっとそうやってきたから、大丈夫。二十代も後半となると、なんだか強くなった気がする。新入園児のママの中には、紗耶香より若いママもいたが、それがなんだ。人それぞれなんだから、焦らないぞ……と、今も自分に言い聞かせている時点で焦っているのだが。
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