美人って

沢麻

文字の大きさ
上 下
22 / 35
美人です!

しおりを挟む
 猫山にあまり気を遣わないスタンスを貫くと、意外と楽しく過ごせた。
 「ちょっとトイレ行くね」
 アルコールが入っているため猫山よりかなり頻回に手洗いに立つことになった。トイレでいちいちパウダーをはたいている自分が笑える。
 「……紗耶香」
 声がかかった。え。
 横を見ると花怜がいた。
 「えっなんでここに?」
 ヤバい猫山と居るのがバレてしまう。
 「ああ、金沢先生と来てるんだよ。テーブルどこ?」
 ええ! それは余計にまずい。そうか、今日はそもそも花怜と金沢が飲みに行くのに耐えられず猫山と会うことにしたんだっけ。これは一刻も早く退出しなくては。食べ終わってるし。
 「あっ、ここにしたんだぁ~私はもう帰るけど、ごゆっくり~」
 「藤川先生もいるよ。紗耶香は職場の人と?」
 「いやいやいや全然違う友達~!!」
 藤川もいるとかほんと無理。帰ろう。
 紗耶香は慌てて席に戻り、強制的に猫山を会計に引っ張っていった。
 「何どうしたのさ」
 「保育園の人居たの! 私彼氏とかいないことになってるしバレたらやだから場所変えよう!」
 「なんでよ、公表すればいいでしょ」
 「公表ってセフレでしょどうせ。恥かくだけだし」
 「俺付き合ってるつもりだったけど」
 「ええっ」
 なにそれ。ちょっと何で今それをここで言うかな。
 「紗耶香ー」
 猫山がもたもたしているとなんと金沢がやってきてしまった。あぁバレた。あーあ。
 「おっ、どうもどうも。同僚の金沢です」
 金沢はいきなり猫山に話しかけた。猫山はおとなしく「猫山です」とか言っている。何でそこ、絡むのかな。もう訳がわからなくなり紗耶香は秒で会計を済ませ「じゃあまたね~」と猫山を強制的に外に出した。
 
 猫山の車の助手席に乗り込んだが、紗耶香の胸騒ぎは進行形だった。今頃猫山が名乗ったがためにあっちのテーブルでは「紗耶香が猫山って男を連れてた」「あっそれ前合コンで一緒だった男かも」みたいな会話になっているんじゃなかろうか。花怜には暗に趣味悪いと言われていただけあり、何を言われているかわからない。
 「おい」
 猫山から声がかかって、紗耶香は我に返った。今は猫山とデートしてるんだった。自分の世界に入ってた。失礼だっただろうか。
 「場所変えようって言ってたけどどこ行く」
 「あっ、そうだったね! ごめん、えーと……」
 どうしよう。ホテルか。ホテルかな……。なんかさっき付き合ってると思ってるみたいなことも言ってたような……。
 「……もう帰る?」
 「……」
 猫山の機嫌が悪いことに、紗耶香は今気がついた。そりゃあそうか。いきなり紗耶香の都合で店を引きずり出されて、せっかく楽しかったのに台無しにされて。我ながらなんて勝手なんだろう。
 「まだ帰らない」
 「飲みすぎじゃねえ? だから酒飲みは嫌なんだよ」
 「飲みすぎてないし。それよりさっきのごめん。私自分の都合で……」
 謝らなきゃ。
 「ホテル行こう、ホテル! 割り勘で!」
 「……お前さ、あのカナガワ? とかいう奴」
 「カナザワだし」
 「まぁなんでもいいや、そいつのこと好きなんだなさては?」
 猫山がニヤッとした。
 え。そこニヤッとするとこ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私達の世界はタイトル未定。

宝ひかり
恋愛
【はじめに】 病気の症状に関してだけは、自分の実体験を元に書いております。 なので、一概には言えません。 ◎その他の物語は、全てフィクションです。 ~~~ 『喉頭ジストニア(こうとう じすとにあ)』 という、声が出づらい障害を持っている鳰都《にお みやこ》。 病気のせいで大人しく暗くなってしまった都は、大学の学生課の事務員として働く25歳。 一方、クールで感情表現が苦手な、奈古千隼《なこ ちはや》は、都の務める大学に通う、一年生。 * あるきっかけで出会う二人。 だが、都は人と関わることに引け目を感じ、中々前に進めないでいた。 自分は社会のお荷物だ、家族の厄介者だ、必要のないものだと、ずっとずっと思っていた。 * 「一歩、一歩、前を向いて歩こう。鳰さん、俺と一緒に歩こう」 執筆期間 2018.10.12~2018.12.23 素敵な表紙イラスト ─ しゃもじ様に許可を頂き、お借りしました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

処理中です...