美人って

沢麻

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世話好きです!

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 紗耶香は翌日、父親に頭を下げて美容室代をもらった。ブリーチはいつも自分でやるが、黒染めは自分でやると何故か不自然になるのだ。妹たちに見つかって「ずるい、なんで姉ちゃんだけ」と責められる。
 「街中のおしゃれなとこは行かないよ。仕事で髪の毛のこと言われたの! エリーザにする、エリーザに」
 エリーザとはこの辺りではまぁまぁおしゃれな髪型にもしてくれるが地域の美容室あるあるで親世代も多数来るようなところで、雑誌もファッション誌より週刊誌多めで妹たちの年代からするとあまり羨ましくないと推測される。紗耶香も高校一年生まではエリーザ一択だったが、だんだんと街中の美容室に移行し、最近羽振りが悪いときにまたUターンしている。
 「いらっしゃいませー」
 店内は紗耶香の他にも客が三人いる。スタイリストは二人のはずだからちょっと待つかもしれない。あ、染めるだけだから大丈夫かな。
 おや? 見たことのない男がいる。ここは女性スタイリストばかりで、男の子は入ってもすぐ辞めるが、あれ、それでも紗耶香と同じくらいの年に見えるな。新しい人だろうか。
 「どうぞ」
 三十分ほど待たされ、席に移動した。先程の男が案内してくれた。
 ……めっちゃイケメン……。
 紗耶香は無駄にわくわくした。
 「どうなさいますかー?」
 横から店長が現れ、注文を取った。とりあえず黒染め、職場で怒られたので、とオーダーすると、店長はしかめ面をして「黒はやめましょう黒は。あなた似合わないよ」と言い放った。えっ。それはっきり言っていいの?
 絶句していると「今流行りのグレージュにしましょ。せっかくブリーチしてるし色可愛く出ると思うよ」と店長はぱっぱと決めてしまった。灰色みたいな色だろうと推測されるが、かえって悪印象にならないだろうか。保護者ウケを狙ってきたのに、また流行りの髪色にしてチャラチャラした奴だと思われないか?
 「お薬、塗っていきますね」
 イケメンがどうやら紗耶香を担当するらしい。ヤバい。雑誌読んでる場合じゃない。会話しよう会話。
 「おつとめですか……?」
 「ほ、保育士です」
 「ええっ!」
 イケメンは本気でびっくりしている。え、何それ。保育士意外?
 「ちょっとそんなにびっくりすることないでしょ!」
 「すいません。だって」
 「見えないって言いたいの? じゃあ何に見えましたか?」
 「アパレル関係かなーって。それか女子大生とか……」
 ……お洒落に見えた、と取るべきか。そこへ店長が口を挟んできた。
 「スギさん、彼女佐藤さんちの一番上の子であんたより年上だよ。更紗ちゃんのお姉ちゃん」
 「あ、ああ! 似てます! 先月いらっしゃいましたね、妹さん」
 ……エリーザはそういえばお母さんも下の妹も利用していた。これだから地元色強いところは……。イケメン・スギさん? とひょっとしたらロマンスないかしら、と一瞬期待したが、紗耶香より母親や妹と親しかったら話にならない。
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