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重めです!
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紗耶香の担当するあじさい組の担当保育士は三人。紗耶香、妊婦の庭田恵、それに同期の藤川智也である。藤川は同期と行っても年上で二十八歳。期待の男性職員と目されていたけれど要領の悪さはピカイチで、無駄にイケメンなのにまったく魅力はない。現に年下の紗耶香がクラスリーダーだし、同期の花怜は来年度卒園児を持つのではというところにいるのに、彼はまだ発展途上でこの先も発展するのか怪しい。
事件は、紗耶香が猫山の話を藤川に聴かれたのではとハラハラした日の午後に起きた。
「うわぁぁぁあ」
クラスの吉沢恒星という子供の尋常ならぬ声に、他の子を見ていた紗耶香は振り返った。恒星が室内用の滑り台を倒し、その下敷きになっていた。
「こうちゃん!」
紗耶香はかけつけて滑り台を起こした。重い。どうしてこれが倒れたのだ?
遅れて智也がやってきた。他の子供のトイレに付き添っていたのだ。恒星は月齢別グループ分けでは智也の管轄だ。何をやってる。
恒星は泣き止まない。怪我をしたのかも。どこが痛いなどは、まだ説明できない。
「庭田先生! 園長呼んで!」
紗耶香は恒星を抱き上げた。恒星は秋生まれだが大柄である。他の子供達が騒ぎ始めた。
「こうちゃんね、手すりに登ってこっち側にぶらさがってたんだよ」
紗耶香の担当の柿山紬が言った。紬は四月生まれで、更に姉がいるので大人っぽく、言葉も内容もしっかりしている。滑り台の手すりにぶらさがるということは、片側に重心が寄り倒れる危険がある。
「えっそんなことを」
「たまにやってたんだよ。ともや先生におこられるから、ともや先生がいないときに。それを、ゆいとが下から引っ張ったら、たおれちゃったんだよ」
……なんで見てなかったんだ。だいたい場を離れる時は声をかけるって決めていたじゃないか。呆然と立ち尽くす智也に紗耶香は睨みを利かせ「他の子供のフォローをして」と目で合図した。智也は慌てて他の子達を制し始める。
園長が駆けつけ、恒星は園長と受診することになった。子供達は興奮して、泣く子や騒ぐ子が増え大混乱だ。
しかし滑り台でそんな遊び方をしていたとは。知っていたのにどうして報告しなかったんだ。
智也は去年も三歳児クラスを担当しているとき、散歩で迷子を一人出している。駄目だ。注意力がない。ヒヤリハットがあって指摘しても、聞いてるんだかわからないし。イライラする。
恒星は大丈夫だろうか。しかし今は、目の前の子供達の保育だ。
保育現場は決してのほほんとしたものではないのだ。
事件は、紗耶香が猫山の話を藤川に聴かれたのではとハラハラした日の午後に起きた。
「うわぁぁぁあ」
クラスの吉沢恒星という子供の尋常ならぬ声に、他の子を見ていた紗耶香は振り返った。恒星が室内用の滑り台を倒し、その下敷きになっていた。
「こうちゃん!」
紗耶香はかけつけて滑り台を起こした。重い。どうしてこれが倒れたのだ?
遅れて智也がやってきた。他の子供のトイレに付き添っていたのだ。恒星は月齢別グループ分けでは智也の管轄だ。何をやってる。
恒星は泣き止まない。怪我をしたのかも。どこが痛いなどは、まだ説明できない。
「庭田先生! 園長呼んで!」
紗耶香は恒星を抱き上げた。恒星は秋生まれだが大柄である。他の子供達が騒ぎ始めた。
「こうちゃんね、手すりに登ってこっち側にぶらさがってたんだよ」
紗耶香の担当の柿山紬が言った。紬は四月生まれで、更に姉がいるので大人っぽく、言葉も内容もしっかりしている。滑り台の手すりにぶらさがるということは、片側に重心が寄り倒れる危険がある。
「えっそんなことを」
「たまにやってたんだよ。ともや先生におこられるから、ともや先生がいないときに。それを、ゆいとが下から引っ張ったら、たおれちゃったんだよ」
……なんで見てなかったんだ。だいたい場を離れる時は声をかけるって決めていたじゃないか。呆然と立ち尽くす智也に紗耶香は睨みを利かせ「他の子供のフォローをして」と目で合図した。智也は慌てて他の子達を制し始める。
園長が駆けつけ、恒星は園長と受診することになった。子供達は興奮して、泣く子や騒ぐ子が増え大混乱だ。
しかし滑り台でそんな遊び方をしていたとは。知っていたのにどうして報告しなかったんだ。
智也は去年も三歳児クラスを担当しているとき、散歩で迷子を一人出している。駄目だ。注意力がない。ヒヤリハットがあって指摘しても、聞いてるんだかわからないし。イライラする。
恒星は大丈夫だろうか。しかし今は、目の前の子供達の保育だ。
保育現場は決してのほほんとしたものではないのだ。
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