美人って

沢麻

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 紗耶香は猫山と映画に行くことにした。紗耶香は邦画で一位を取っている話題作が観たい。しかし猫山はアカデミー賞ノミネートの洋画が観たいという。うーん、ここはこちらが折れるべきかと思い、紗耶香は猫山の希望の作品を観ることにした。しかし、なんというか間延びしたところもあり、紗耶香はあまり面白くなかった。
 「いやー、よかった。面白かった」
 猫山は満足していたので、まぁいっかということにしたが。そのあと紗耶香は少しウインドウショッピングをしてからディナーかな、と漠然と思っていたのだが、猫山はゲームセンターに行きたいと言う。え、二十七歳でゲーセン……。そういう人もいるかもだけど、何のゲームする気だろうか……。せっかく街に出てきたのだから紗耶香は服などを見たかったのに……。いや、まぁいっか。
 「あ、ちょっと待って」
 猫山は財布から何やらカードのようなものを出すと、オンライン対戦の台に行き、中高生に混ざってゲームを始めた。
 ……。私つまんないんだけどそれ。
 紗耶香はゲームに疎く、ゲーセンに来てもまったく楽しめないタイプである。二十分待てど猫山はゲームを止める気配はない。これなら隣のデパートに行って服見たい。紗耶香は耐えかねてその旨を申し出た。猫山は気にした様子もなく「いいよ」などと言う。そのまま服を見ても集中出来ず、紗耶香はこのまま帰りたくなった。
 ゲーセンに戻る気にもならず、紗耶香はデパートのベンチに座ってSNSを見ていた。先輩の野坂美紀がわりと更新するタイプで、今日は話題のアイスクリーム屋に行ったようだった。実は男と行ってたりして、なんて邪推して気を紛らせる。
 ふいにラインが入った。猫山だった。
 「どこにいるの?」
 ……。紗耶香はデパートに居ると一応告げた。既読スルーして帰ろうかと思っていたのに。すぐに猫山がやってきた。まったく悪びれた様子がない。結局紗耶香は猫山に言われるまま、居酒屋に入ることになった。怒っている空気を出しているのに、猫山は普通である。
 ……合わない。
 このままご飯を食べたら即帰ろう。次の店は行かないし、当然ホテルなんて行かないし。
 「さ、どうしようか」
 居酒屋を出ると猫山は言った。割勘だった。働く者同士当然だけど、奢るつもりはなさそうなくらいスムーズな会計だった。
 「……」
 「何怒ってるの?」
 「えっ! 怒ってないし」
 「帰る?」
 ……。猫山も、紗耶香のことを合わないと思ったのか。実は猫山も不機嫌だったのか? 紗耶香は急に不安になってしまった。
 ゲーセン嫌だって言えばよかった? 何も言わないで、勝手にふてくされてたこっちに非がある? まさか。
 紗耶香は無意識に、首を横に振っていた。
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