隣の庭

沢麻

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 「ママ、おいも掘れたよ」
 娘がじゃがいもを収穫してきた。家で見慣れたトマトきゅうりとは違い土を掘るのが楽しいようだ。
 「ギャア! みみずがいるよ」
 クラスメイトのコースケが騒いでいるのを見ると、娘は「どこ?」と好奇心旺盛に駆けつける。
 日帰り遠足は晴天に恵まれ、私は満足した。
 だがみみずごときで騒いでいるコースケの後ろにいる、やたら鍔の広い帽子とサングラスと日焼け止め手袋を装置した友紀子は楽しくなさそうだった。土を触ったこともないような顔をしているが、ほんとにそうだったか。
 「どれどれ、みみずがいる土はいい土なんだぞ。水と空気の通り道ができるんだから」
 私は割って入って掘ってやる。
 「友紀子ちゃんはトマトでもとってきたら?」
 「ああ、うん、そうするね」
 友紀子はトマトの方に移動し、私は娘とコースケと、コースケの父とじゃがいもに勤しむ。
 「じゃがいもはスライスして焼くんですかね?」
 コースケの父が話しかけてきた。
 「うーん、スライスもいいけど、十字に切ってバター入れて焼きたいすね私は」
 「あっそれいい」
 コースケの父と盛り上がっていると、子供達は夫のいる長ネギの方に行ってしまった。あまり芋ばかり掘りすぎてもあれだし、私もそろそろじゃがいもを切り上げると友紀子がトマトのほうで叫び声を上げている。
 「どうしたの?」
 「か、か、かたつむりが……」
 「ん? ああ」
 私はかたつむりを摘まむと、もう収穫が終わったあたりの葉に移した。
 「えっ、このトマトかたつむりが這ってたけど、食べるの?」
 「洗えば問題ないでしょ」
 「えっかたつむりのエキスがついてないの?」
 「何言ってんの。そんなこと言ってたら何も食べられないよ」
 私は笑って友紀子の肩をバンバンと叩いたが、やっぱりこの家族を誘ったのは間違いではないかと思わずにはいられない。提案しておいた友紀子目当ての夫は全く自ら近付こうとしないコミュ障発揮。なんで私が気を遣わなきゃならんのだ。
 「おい」
 私は夫の近くに行った。夫はこの世の終わりかというくらい疲れきった表情で振り返った。
 「いやぁ、辛いわ。中腰……」
 「はぁ?」
 我々介護職員の基本ポーズである中腰くらいで何をひ弱なことを……。
 「つか、もっとさぁ、のほほんとした感じかと思ってたよね。収穫は子供たちが楽しくやって、それを親が眺める、みたいな」
 「はぁー? んなわけねーだろ馬鹿かって」
 ……しかし、友紀子もそういうイメージだったのかもなと思い付く。それなら。
 「コースケのママもおめーと同じような気分だったっぽいぞ。場違いな者同士一足先に焼き場に野菜運んでこいよ」
 「えっ」
 夫の目が輝いた。楽しんでいるこっちからすると楽しくなさそうな奴が視界に入るだけで苛つくわけで、願ったり叶ったりだ。早く運べ。
 私はまだ収穫したりなくてカボチャの方へ。すでにコースケの父が横でなすを取っていた。
 「いやぁいいですね。あまり食べない野菜も、自分でとるとまた」
 「そうなんですよ~」
 この人とは楽しめそうである。子供達は虫を追い回して遊んでいるし、私は得意の野菜うんちくを延々とコースケの父に聴かせることができた。
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