ハルホール

沢麻

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俺と美代さん⑥

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 女と関わると、結局夕希への思いが強まるだけなのだ。いつもそうなのだ。それでもたまに女を貫きたくなる。俺のことを好きな女じゃいけない。傷つけるからだ。ただでさえ俺は変態で、ノーマルセックスをしたことがない。俺のことが好きじゃなくても、今日の女のようにすごく傷つけてしまうことがある。
 俺は非常に暗い気持ちで、公園に向かった。途中ブラックタイガーと合流した。
 お前、さっきまで女に酷いことをしていたのに、よくつらっとした顔で美代さんに会う気になるな。最低だ。
 そうだ。ブラックタイガーは出発時の俺とも遭遇している。ばれている。
 実際美代さんの弁当を食う気力なんてなかった。ただこんな気分の時に一人で居たくなかった。こんな時に頼れる、夕希にとってのかつての俺のような、そんな知り合いは存在しなかった。夕希のために生きた五年間は長すぎた。俺は色んなものを失い、最終的に職も夕希も失った。夕希がいなければ、俺に関わる何事も成立しなかった。
 お前の本性を知ったら、きっと美代さんはお前を軽蔑する。毎朝お前と喋ることを生き甲斐にしつつあるってのに。かわいそうに。
 ブラックタイガーの気取った歩き方が、俺を責めた。
 「おはよう、ユキちゃん、俊也さん」
 美代さんはいつも、俺より先に来ている。ひょっとしてけっこう待っているのかもしれない。
 「おはよう」
 「今日は肉団子を作ってみたの。いつも魚じゃ悪いから」
 美代さん。俺は最低なんだ。どうしたらいい。
 「……」
 堪えようと思ったのに、俺は涙を流してしまった。美代さんはびっくりしたようだが、それでも俺に優しい眼差しを向けたままだった。何も訊かなかった。俺は暫く美代さんの横で泣いた後、肉団子を頂いた。ブラックタイガーはとうにいなかった。
 「おいしい。美代さん、肉団子、とってもおいしい」
 泣きながら食っていたので味なんてしなかった。それでもなんだかおいしい気がした。美代さんは嬉しそうな顔をした。
 
 家に帰り、俺は風呂場に直行した。洗っていない性器がなんだか痒く、先程の行為を思い出してまた落ち込んだ。
 明日美代さんに会ったら、どうやって旦那さんの死を乗り越えたのかきいてみよう。愛する人を失っても、一人でも強く生きていられるのはどうしてか、きいてみたい。
 なかなか寝付けなかった。俺の気分とは裏腹に外は快晴で、カーテンの隙間から日が射し込んでいて、少し苛立った。そうだ。肩に針を刺してみよう。メンタルクリニックでされたように。どのくらい奥まで刺していいのかよくわからない。耳や臍のように貫通する場所ではない。初めてなので一センチ程度にした。ゆっくり、ゆっくり、じわじわと、針が硬い筋肉をこじ開ける。ああ、楽になった。気持ちいい。
 このまま針が心臓に達してくれたら、もっと楽になれるんだろうか。
 そんなことを考えながら、眠りについた。
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