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恵梨香ダイエット六か月目・あと八キロ
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鏡を見ると、自分が綺麗になっていることがわかった。七十五キロから六十八キロへの減量は、見た目でも成果が見て取れる。まだデブには変わりないのかもしれないが、服も一段階サイズダウンした。顔周りがすっきりした。そして永らく気合いを入れていなかった化粧もちゃんとするようにしたら、それなりの人間に見える。
「メイクとかデートの時はしてきてよ」
「もうちょっとぴったりした服着てみたら?」
「髪の毛茶色にして」
木部が言う。まだあの時から五キロは痩せていないが、木部とデートすることが増えた。付き合っているのかどうなのかよくわからない。からかわれていると思う。五キロ痩せたらなんて、馬鹿にされている。しかし、木部のことがあるから外見に気を使うようになった。木部の存在は、恵梨香にとってプラスに働いている。
ロッカールームに入ると、大上と高柳がまた騒いでいた。うるさいのは変わらないが、最近恵梨香は彼女らを密かにダイエット仲間と思っているので以前ほど腹が立たない。
「バランス考えた食事してるし。グリコーゲンがあるし」
「もうグリコーゲンないんじゃない?」
おや? なんだか言い争っている。この二人は高校、大学と同期だったので遠慮ない言い合いをしているが、本日は雲行きが怪しい。どうやら大上の痩せすぎに対して心配しておせっかいを焼いた高柳が反撃されているようだ。
「自分が太ってるからって、仲間増やそうとしないで」
「違うし」
また恵梨香がいることに気付いていない。まぁいいか。最近女子力が上がった恵梨香は、昼休みにメイクを直して仕事に戻るのが習慣づいたので、遠慮せずに二人の横を通りすぎた。
「……遠吠えって、遠吠えって何よ」
高柳がぶつぶつ呟いて、大上はわざとらしいため息をついたかと思うとドアを勢いよく閉めて去って行った。高柳を見ると泣きそうになっていて、さすがに恵梨香は見て見ぬ振りは出来ず、声をかけた。
「大丈夫?」
「……主任ー!!」
まずい。決壊した。
「え、あと五分で仕事だけど大丈夫? とりあえず泣き止みなさい」
「聞いて下さいよ、百合が、大上が、ダイエットオタクりんりんだったんです! 間違いない、このタイミング! 私、ダイエットしてて、ツイッターでやってて、すごい辛辣なコメントしてくる人いるなぁーって思ってたら、大上だったんですよ! 私のこと応援してる振りして、邪魔してたんですよ! どうして、友達なのに」
「……」
恵梨香はツイッターを起動して、話の流れを掴んだ。
てっきりお互いがリア友なことを意識してやりとりしていると思っていたが、高柳はりんりんの正体に気付いていなかったらしい。それなら確かにりんりんのコメントは手厳しかっただろう。むしろ大上は正体を隠していることで本音をガンガンぶつけることが出来ていたようだ。
「……うーん、まぁショックかもしれないけどこれから仕事だし、仕事とツイッター関係ないから一回忘れなさい」
「もう無理です私。今日は帰ります。配置変えとか、転勤とか申請したいくらいなダメージです。大上と離してください」
「また公私混同を……」
「うわぁぁぁ」
余計泣かせてしまったところへ、他のスタッフがやってきた。
「主任、大上さんがめまいで倒れて、顔色も悪いので帰して受診させましょう」
恵梨香と高柳は目を見合わせた。
「ほら、あっちがいなくなったから、仕事行きましょう」
「……はぁ」
恵梨香は何とか高柳を励ましながら午後働かせた。手間のかかる奴だ。これで人の親だというからわからない。
大上にとって、きっとダイエットは神聖なるものだったのだろう。プライドを持って日々取り組んできたのに、ぽっと出の高柳が適当に自分を甘やかしながらダイエットダイエット言っているのが単純にムカついたのではないか。確かに食事制限している身としては、高柳のコンビニ三昧スイーツ必須の昼食はムカつく。でもそれは高柳のスタイルなのだから、大上や恵梨香がとやかく言うことではないのだ。
それよりも大上は大丈夫だろうか。気に入らない奴ではあるが、心配である。
なんだか木部に会って、話したくなった。恵梨香はスポーツクラブの前のファストフードで待つことにした。連絡はしなかった。すると、木部が女性を伴って出てきた。親しそうに、手を繋いでいる。
そっか。
恵梨香はファストフードをあとにした。
《SDE38
今日は色々あったけど、ここでやけ食いするほど若くないので、夕飯は湯豆腐にしようかな!》
ダイエットオタクりんりんの反応を待ったが、その日のうちには何もなかった。
「メイクとかデートの時はしてきてよ」
「もうちょっとぴったりした服着てみたら?」
「髪の毛茶色にして」
木部が言う。まだあの時から五キロは痩せていないが、木部とデートすることが増えた。付き合っているのかどうなのかよくわからない。からかわれていると思う。五キロ痩せたらなんて、馬鹿にされている。しかし、木部のことがあるから外見に気を使うようになった。木部の存在は、恵梨香にとってプラスに働いている。
ロッカールームに入ると、大上と高柳がまた騒いでいた。うるさいのは変わらないが、最近恵梨香は彼女らを密かにダイエット仲間と思っているので以前ほど腹が立たない。
「バランス考えた食事してるし。グリコーゲンがあるし」
「もうグリコーゲンないんじゃない?」
おや? なんだか言い争っている。この二人は高校、大学と同期だったので遠慮ない言い合いをしているが、本日は雲行きが怪しい。どうやら大上の痩せすぎに対して心配しておせっかいを焼いた高柳が反撃されているようだ。
「自分が太ってるからって、仲間増やそうとしないで」
「違うし」
また恵梨香がいることに気付いていない。まぁいいか。最近女子力が上がった恵梨香は、昼休みにメイクを直して仕事に戻るのが習慣づいたので、遠慮せずに二人の横を通りすぎた。
「……遠吠えって、遠吠えって何よ」
高柳がぶつぶつ呟いて、大上はわざとらしいため息をついたかと思うとドアを勢いよく閉めて去って行った。高柳を見ると泣きそうになっていて、さすがに恵梨香は見て見ぬ振りは出来ず、声をかけた。
「大丈夫?」
「……主任ー!!」
まずい。決壊した。
「え、あと五分で仕事だけど大丈夫? とりあえず泣き止みなさい」
「聞いて下さいよ、百合が、大上が、ダイエットオタクりんりんだったんです! 間違いない、このタイミング! 私、ダイエットしてて、ツイッターでやってて、すごい辛辣なコメントしてくる人いるなぁーって思ってたら、大上だったんですよ! 私のこと応援してる振りして、邪魔してたんですよ! どうして、友達なのに」
「……」
恵梨香はツイッターを起動して、話の流れを掴んだ。
てっきりお互いがリア友なことを意識してやりとりしていると思っていたが、高柳はりんりんの正体に気付いていなかったらしい。それなら確かにりんりんのコメントは手厳しかっただろう。むしろ大上は正体を隠していることで本音をガンガンぶつけることが出来ていたようだ。
「……うーん、まぁショックかもしれないけどこれから仕事だし、仕事とツイッター関係ないから一回忘れなさい」
「もう無理です私。今日は帰ります。配置変えとか、転勤とか申請したいくらいなダメージです。大上と離してください」
「また公私混同を……」
「うわぁぁぁ」
余計泣かせてしまったところへ、他のスタッフがやってきた。
「主任、大上さんがめまいで倒れて、顔色も悪いので帰して受診させましょう」
恵梨香と高柳は目を見合わせた。
「ほら、あっちがいなくなったから、仕事行きましょう」
「……はぁ」
恵梨香は何とか高柳を励ましながら午後働かせた。手間のかかる奴だ。これで人の親だというからわからない。
大上にとって、きっとダイエットは神聖なるものだったのだろう。プライドを持って日々取り組んできたのに、ぽっと出の高柳が適当に自分を甘やかしながらダイエットダイエット言っているのが単純にムカついたのではないか。確かに食事制限している身としては、高柳のコンビニ三昧スイーツ必須の昼食はムカつく。でもそれは高柳のスタイルなのだから、大上や恵梨香がとやかく言うことではないのだ。
それよりも大上は大丈夫だろうか。気に入らない奴ではあるが、心配である。
なんだか木部に会って、話したくなった。恵梨香はスポーツクラブの前のファストフードで待つことにした。連絡はしなかった。すると、木部が女性を伴って出てきた。親しそうに、手を繋いでいる。
そっか。
恵梨香はファストフードをあとにした。
《SDE38
今日は色々あったけど、ここでやけ食いするほど若くないので、夕飯は湯豆腐にしようかな!》
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