デブ反対

沢麻

文字の大きさ
上 下
8 / 9

恵梨香ダイエット六か月目・あと八キロ

しおりを挟む
 鏡を見ると、自分が綺麗になっていることがわかった。七十五キロから六十八キロへの減量は、見た目でも成果が見て取れる。まだデブには変わりないのかもしれないが、服も一段階サイズダウンした。顔周りがすっきりした。そして永らく気合いを入れていなかった化粧もちゃんとするようにしたら、それなりの人間に見える。
 「メイクとかデートの時はしてきてよ」
 「もうちょっとぴったりした服着てみたら?」
 「髪の毛茶色にして」
 木部が言う。まだあの時から五キロは痩せていないが、木部とデートすることが増えた。付き合っているのかどうなのかよくわからない。からかわれていると思う。五キロ痩せたらなんて、馬鹿にされている。しかし、木部のことがあるから外見に気を使うようになった。木部の存在は、恵梨香にとってプラスに働いている。
 
 ロッカールームに入ると、大上と高柳がまた騒いでいた。うるさいのは変わらないが、最近恵梨香は彼女らを密かにダイエット仲間と思っているので以前ほど腹が立たない。
 「バランス考えた食事してるし。グリコーゲンがあるし」
 「もうグリコーゲンないんじゃない?」
 おや? なんだか言い争っている。この二人は高校、大学と同期だったので遠慮ない言い合いをしているが、本日は雲行きが怪しい。どうやら大上の痩せすぎに対して心配しておせっかいを焼いた高柳が反撃されているようだ。
 「自分が太ってるからって、仲間増やそうとしないで」
 「違うし」
 また恵梨香がいることに気付いていない。まぁいいか。最近女子力が上がった恵梨香は、昼休みにメイクを直して仕事に戻るのが習慣づいたので、遠慮せずに二人の横を通りすぎた。
 「……遠吠えって、遠吠えって何よ」
 高柳がぶつぶつ呟いて、大上はわざとらしいため息をついたかと思うとドアを勢いよく閉めて去って行った。高柳を見ると泣きそうになっていて、さすがに恵梨香は見て見ぬ振りは出来ず、声をかけた。
 「大丈夫?」
 「……主任ー!!」
 まずい。決壊した。
 「え、あと五分で仕事だけど大丈夫? とりあえず泣き止みなさい」
 「聞いて下さいよ、百合が、大上が、ダイエットオタクりんりんだったんです! 間違いない、このタイミング! 私、ダイエットしてて、ツイッターでやってて、すごい辛辣なコメントしてくる人いるなぁーって思ってたら、大上だったんですよ! 私のこと応援してる振りして、邪魔してたんですよ! どうして、友達なのに」
 「……」
 恵梨香はツイッターを起動して、話の流れを掴んだ。
 てっきりお互いがリア友なことを意識してやりとりしていると思っていたが、高柳はりんりんの正体に気付いていなかったらしい。それなら確かにりんりんのコメントは手厳しかっただろう。むしろ大上は正体を隠していることで本音をガンガンぶつけることが出来ていたようだ。
 「……うーん、まぁショックかもしれないけどこれから仕事だし、仕事とツイッター関係ないから一回忘れなさい」
 「もう無理です私。今日は帰ります。配置変えとか、転勤とか申請したいくらいなダメージです。大上と離してください」
 「また公私混同を……」
 「うわぁぁぁ」
 余計泣かせてしまったところへ、他のスタッフがやってきた。
 「主任、大上さんがめまいで倒れて、顔色も悪いので帰して受診させましょう」
 恵梨香と高柳は目を見合わせた。
 「ほら、あっちがいなくなったから、仕事行きましょう」
 「……はぁ」
 
 恵梨香は何とか高柳を励ましながら午後働かせた。手間のかかる奴だ。これで人の親だというからわからない。
 大上にとって、きっとダイエットは神聖なるものだったのだろう。プライドを持って日々取り組んできたのに、ぽっと出の高柳が適当に自分を甘やかしながらダイエットダイエット言っているのが単純にムカついたのではないか。確かに食事制限している身としては、高柳のコンビニ三昧スイーツ必須の昼食はムカつく。でもそれは高柳のスタイルなのだから、大上や恵梨香がとやかく言うことではないのだ。
 それよりも大上は大丈夫だろうか。気に入らない奴ではあるが、心配である。
 なんだか木部に会って、話したくなった。恵梨香はスポーツクラブの前のファストフードで待つことにした。連絡はしなかった。すると、木部が女性を伴って出てきた。親しそうに、手を繋いでいる。
 そっか。
 恵梨香はファストフードをあとにした。
 《SDE38
 今日は色々あったけど、ここでやけ食いするほど若くないので、夕飯は湯豆腐にしようかな!》
 ダイエットオタクりんりんの反応を待ったが、その日のうちには何もなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

兄の悪戯

廣瀬純一
大衆娯楽
悪戯好きな兄が弟と妹に催眠術をかける話

視点

側溝
大衆娯楽
視点の違いは常識だって大きく変わるのだ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

処理中です...