隣の彼女

沢麻

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不合格

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 マユメへ
 お元気ですか。私は元気です。
 今は○○区の風見小学校に行っています。いろんな理由で親と住めない子供が三十人くらい住んでいる園で暮らしてます。私は友達作るのが苦手だから、まだぼっちですが、平気です。先生は優しい人もいるし、怖い人もいます。スマホはないから、手紙を書きます。住所は、保健センターに行った時にマユメのママが教えてくれました。でも、うちの前の住所と近いから、なんとなく知っていたけど。
 うちの母親は、私を育てるのがつらいってなって、こういうことになったみたい。マユメの家は、みんな仲良くて、うらやましい。私は兄弟もいないから、一人になった感じがして、なんか変。さみしいのかもしれないけど、そういう風には感じなくて、とりあえず変です。
 星ヶ丘のクラスのみんなは、仲良くて優しかったからうれしかった。特にマユメといちじょーはこんな私に優しかったから、ありがとうと思っています。
 そのうち会いたいです。いちじょうにもよろしく。
 マリサより

 もっと怒られると思ったのに、ママは意外と普通だった。仕事を早退してくれて、ドラッグストアで頭を下げて、お金を払っていた。店に悪いことをしたという思いは沸かなかったが、ママにそんなことをさせてしまったことが悲しかった。
 帰りはママの車で帰った。車内は静まり返っていた。万引きのことをもう一度謝ったほうがいいような気がしたが、何故か言葉が出てこない。
 「……発表、見た?」
 ママが先に口を開いた。忘れていた。
 「あ、見てない。今見るね」
 万夢は南栄中学のホームページに向かいながら、「そういえば、マリサから手紙が来たよ」と呟いた。どうして住所なんか教えたんだろう。
 「あらそう。元気そうだった?」
 ママは明るい声で反応した。茉莉沙のことを気に入っているのだろうか。
 「……うん、まぁ」
 「よかった。よかったね万夢」
 「……うーん」
 何が良かったのかよくわからない。あんな手紙。寂しい。構って。私不幸なの。親に捨てられて一人なの。私普通じゃないの。普通じゃない私とまた会って。寂しいの。不幸なの。つまりそういう手紙でしょ。
 万夢が黙ると、またママが言った。
 「マリサちゃんがいなくなって、万夢も色々辛かったんだよね?」
 「!」
 だから万引きしたって? 違う。どうして何もかも茉莉沙に影響されたように思うのか。万夢の何もかもが、茉莉沙に奪われていく。きっかけは茉莉沙の万引きだったかもしれないが、今の万夢は違うのに。
 スマホの画面では無機質なゴシック体が、万夢の合格を告げていた。
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