凛とした君に重ねる。

まさつもち

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I want to divorce

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はっきりわかっているもので、
5件と怪しいものが12件。 

浮気の数。

「あのDV騒動の前から相川に頼まれて調べてみたら、こんなにでてきた」

山科さんも呆れた様子で、浮気嫌疑の書類を見据える。

「なんで…男の人って浮気するのかな…」

まだきもちがあるわけじゃないけど、やはり悲しい。

「うーん…なんでなんだろうね」

困ったように眉を八の字に変えて笑う。

「大切じゃないからだろ」

「え?」

きょとん、として私と相川くんは山科さんをみた。

「大切じゃないからぞんざいに扱えるんだ」

言い切った山科さんを、私たちは固まって見上げた。

「だってそうだろ、失って困るもんなら最初から最後まで大事にする。
失ってもいいって思ってるからそんな扱いができんだろ」

「山科先輩、もうちょっと優しく言えないの?」

呆れたように息を吐いた相川くんの手が私の頭に乗せる。

「まぁ、わからないでもない考え方だけどさ」

そのままワシャワシャ、と私の頭を撫でた。

「山科さんや、相川くんに好かれる人って幸せなんだろうな」

相川くんは苦笑して、山科さんは無表情のまま指で頬をかく。

あれ?

「私、声に出しちゃってた!?」

恥ずかしすぎる!!







 



相川くんがもうすぐで帰ってくるであろう夕暮れ前、
いつもは直接話すため、滅多にこない山科さんからの着信に私は慌てて通話ボタンをおした。

「藤原、急ぎの連絡なんだが…いまいいか?」

なんだか遠慮がちな物言いで、疑問符が飛ぶ。

「どうしたんですか?」

「おまえの母親が、2人で会いたいと言ってきてる。
どうする?」

控えめなどうする?に私は答えられなかった。

「明日の朝までにどうするか、考えとけ」

厳つい見た目をした山科さんの声は低いけど、暖かくて優しい。

「嫌なもんは嫌でいい。その嫌を俺がカバーしてやる」

とても心強い、もう信頼してしまった彼の優しさ。

私は、この信頼を失ったら生きていけるんだろうか?

お得意のネガティヴな思考に、ついつい泣いてしまいそうだ。

「どうしたの?」

「え……えぇ!?」

いつのまに入ってきたのだろう、相川くんはソファーの背もたれにもたれて私の顔を覗き込む。

「おお、おおかえりなさい」

驚きから、かくせない動揺が言葉のどもりを生みだした。

「どうして悲しい顔をしてるの?」

相川くんが流した視線が私を捉え、それこそ彼の方が悲しそうな表情をみせた。

「真白が何か言った?」

「ーー真白?」

山科さんの、名前?

「瑞穂ちゃんを悲しませるやつなんて許さない」

私の頬に、冷たい相川くんの手が触れる。

「だから、悲しい顔をしないで。俺は、君だけの味方をするから」

悲しく、いまにも泣き出してしまいそうな相川くんの表情は、とても綺麗で。

不謹慎な心臓がどくどくと脈を打つ。













 

「相川くん…私…」

悲しいとかじゃないの。
そう言いたくて、口を開いたその時。

「パパおかえり~」

目をこすり、ブランケットをお腹に引っかけて引きずり歩く藍くんが相川くんの足に抱きついた。


「ただいま、藍」

相川くんの顔を見上げると、表情は元の顔に戻っていた。

さっきの表情はなんだったんだろうか。

まるで…許しを乞うような表情だった。

藍くんを抱え、キッチンに入っていく相川くんの背中を見つめ続けるもすぐに見えなくなってしまった。

「ママ、」

とてとてと目をこすりながらやってきた優はまだ眠たげに私に抱きつく。

「優、おばあちゃんに会ってみたい?」

「おばあちゃん?」

きょとん、とした表情で私を見上げる優の姿はミーアキャットを連想させた。

「うん。ママの、お母さん」

「会いたい!!」

即答。目を輝かせた優は顔がアップされた。

「パパのおばあちゃん怖いからいやだもん!!ママのおばあちゃんがいい!」

お父さんは怖いけど、お母さんなら。
優もこんなに喜んでいることだし、会ってみよう。 

「相川くん、お母さんに会ってみる」

「お母さん?」

藍くんをソファーにおろした相川くんはきょとん、と目を丸めた。

「あ、そっか。
さっきね、山科さんから連絡があったの。
お母さんが2人で会いたいって言ってるって」

「えー?山科先輩から何も聞いてないよ」

不満げに口を尖らせた相川くんはケータイを取り出して確認しはじめた。

さっきの、真白、って名前で呼んだのは…
なんだったんだろう。

「やっぱり、きてない。忙しいのかな…」

携帯をポケットの中に直し、呆れたように息を吐くと
相川くんの視線が私に向けられた。 

「久しぶりなんでしょ?いっぱい話せるといいね」

優しく、微笑む相川くんにさっきのことを聞ける勇気なんてない私は

まだまだ成長できていないのかもしれない。 

 
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