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12 罪悪感

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 古来中国の道教では魂とはくという二つの異なる存在があると考えられていた。魂は精神を支える気、魄は肉体を支える気を指した。合わせて魂魄こんぱくとも言う。中国のゾンビ的な存在として有名なキョンシーは、魂が天に帰り魄のみの存在とされる。
 そして男の「白露」には肉体の気、「はく」が強く残る。これが「精魄せいはく」である。




 精神世界に有るマリアンヌは、アレグレ侯爵の「精魄」から残留思念を含む気である「魄」をごそりと取り出した。
 これは思念の塊であり、いわば情報が「圧縮」されている状態である。これから読み取り可能なように「解凍」しなくてはならない。

(私が解かして読むだけでは不十分かもしれない。師よ、お願いします、これをご覧下さい)
 
彼女の精神は、師と仰ぐ存在を目指し、男の魄を差し出す。

(マリ、彼は罪悪感を持ってる。ちょっといじめて、少し小遣い稼ぎにカツアゲする程度だった予定が、死んでしまうとは思わなかったって。基本的には悪い方の男じゃない。贖罪心があるから、普通より探りやすい。君が読み解く力で十分必要な情報が入るから、自分で見てごらん?)
(そう、ですか。では……)


―――――私は、年下の彼を弟の様に可愛がっていた。
 しかし、結婚してからは状況が変わってきた。
 平均より早く結婚した彼を、私は憐れんでいた。
 いずれ政略で結婚しなければいけないのだから、独身を楽しむため、もっと後にすればいいのにと。
 というのも、貴族の結婚なんて退屈で詰まらない物だからである。
 貞淑で礼儀正しく、つまりは冷静で冷たい妻。ベッドでの楽しみも望むべくもない。

  しかし弟のような彼は結婚後も生き生きとし、妻をほめそやし、近年は領地も特産の蜂蜜がよく売れ、それを軸に富みだしていった。
 それを見て、下と思っていた彼の幸せな結婚に嫉妬をした。特に自分の冷たいほどに礼儀を重んじる妻との寒々としたベッドと比べると。
 だから、思った。ちょっと悪い遊びを教えて、貸付金をし、利子からその富を少し分けてもらおう、あわよくば奥方の味見もしたい、さらに上手くすれば、その富の秘訣を手に入れられようかと。

 だが、死んでもいいとか、殺してまで、というものではなかった。領を富ませる秘密といっても、探って手に入れたところで、物品ならともかく、知識なら手に入れれたところで、相手にも残っていることなのだ。
 だからちょっと企業秘密を手に入れる程度の感覚だった。それにより相手の競争力が少し落ちても、まるきり利が無くなるほどじゃないと。

 しかし、彼は亡くなってしまった。
 確かに彼に嫉妬していた、でも、ちょっと意地悪をする程度のはずだった。
 こんなはずではなかったんだ――――――――


(やはり、領の特産品、蜂蜜の秘密を手に入れようとしていましたか)

 マリアンヌは、夫との間に4人の子供がいる。そして親として、子供たちにもう少し良い生活をさせてあげたいと思っていた。そのため、師から教えてもらった知識により、少し領地を富ませる行動をしていた。
 あまり派手にすると要らぬ目を付けられるので、ここ3~4年程で徐々に特産品を増やす様に行っていったはずだったが……。
 それでも成功しすぎた、結果、事業に集中しすぎてしまったということだろう。甘い成果に目を向けすぎ、忙しくなった彼女は、夫の変化にも気が付けなくなっていた。
 ある意味、彼女の夫は彼女のせいで目をつけられ、身を滅ぼしたのだ。

 狐侯爵との対面時に彼が、マリアンヌのせいでもある、と示していたのが彼の本音だったのだ――――――

(どう?わかったかい?)
(……彼の本心がよくわかりました。贖罪の気持ちも有ったからこそ、直接来て交渉を仕掛けて来たのですね)
(まあ、スケベ心も多々あったけどね、さあそろそろ戻る時間だよ)
(はい……、あとでまた参ります)
(あまり思い詰めないようにね、子供たちもいるんだし)

 マリアンヌは忘我の境地から徐々に覚醒していった。








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精魄は適当な造語です
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