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読書感想系８ 新装版 画文集 炭鉱に生きる 地の底の人生記録

◆新装版 画文集 炭鉱に生きる 地の底の人生記録　 2011/7/29
山本 作兵衛 (著)

読書感想なんだか、ＨＰ紹介なんだか？日本初の世界記憶遺産を受賞された方ですね。
昭和59（1984）年12月19日没でらっしゃるので、お亡くなりになってからの認定なんですが。
アンネの日記もお亡くなりになってからの受賞っぽい。そういう系の遺産なのかね。

世界記憶遺産ってのは、世界的に貴重な記録を記憶遺産として保存するというユネスコの事業です。

アンネの日記もそうだけど、本当に素人の生の記録なんですよ。貴重な記録。
なので、画文集とは有りますが、絵は拙い。プロの絵じゃないんですね。
普通の町の中学校の１年生の中でも、上から１５番目位のヘタじゃないけど、すっごく上手でもない、そこそこ見れるって感じの絵。昭和初期の浮世絵と漫画が混じりかけたちょっとポンチ絵と言われてた辺りの画風ですね。月光仮面よりは拙いし浮世絵よりのタッチの人物。絵の周りに文章を入れているのも浮世絵っぽい。
しかし、人物はちょっとデフォルメが入ってるけど、道具や背景はすっごく神経使って書かれている、むしろ背景が主役ですという感じ。

それもそうなのよ。これは昭和初期の炭鉱という物全般を伝えるための画文集なんです。

日本の初期を支えたエネルギー産業、石炭と炭鉱。そこに生きる人々や道具、器具、掘削法。氏が山に生きた記録、消えゆく炭鉱の記憶をどうしても残したいとコツコツと書き込んだ、まさに魂が籠ってる感じの珠玉の画文。

自分、土俗系も結構好きなんですよね。名を忘れられた人々の土臭い泥臭い現実感と呪術とマジナイ。そういう地の底に埋まって地の底から生者をじーっと見上げている感じ。ゾクゾクするとともに、そのような土台が有るからこそ、今自分たちが居るってのがね、ありがたくも感じるというか。あー、昔に生まれなくて良かったというか。

私が尊敬する作家、荒俣宏先生の帝都物語の根底のテーマが、まつろわぬ民の復讐ってのだったんです。日本人に迫害された日本原住民、土蜘蛛の末裔の陰陽師（魔術師）が帝都を滅ぼすために暗躍する。

まあ、そういう設定が納得出来るというか、実際足尾鉱山とか鉱毒問題って、まだまだ根強い問題だったり。足尾鉱毒を沈殿させる渡良瀬遊水地（わたらせゆうすいち）現在も重要設備、松尾鉱山の貯泥池（岩手県八幡平）と無毒化設備だって稼働中だよ。これら無いとまた鉱毒が害をまき散らすですよ～。

そういう、過渡期に当たった人たちの無数の犠牲が有って成り立ってる現在なのだというのを確認し有難く感じる。そのために土俗や工業やエネルギーの根本を知るってのが好きなんですよね。
廃坑になったけど、観光設備として稼働してる鉱山施設、マインランドとかってチョコチョコありますが、そういうトコに行って見学するのも好き。
地底からの呼び声というか、水との闘い、鉱山の穴や天井の補強の組み立て、荒い岩肌の部分、そういう生々しいのがちょっとだけ見れる。観光部分なんかそんなの綺麗な部分だけなんだけどね、それでもちょっと粗さや生の欠片が見えるので。

この方の本はそういう日本の民草の基礎部分、下支え、普通の庶民や貧しい人々の苦しくも逞しい生活の記録です。
もー迫真！キャラの表情はあんま無いけど、迫真！本気の現実だった過去を、神経を使って描きこんでいるからなんでしょうね。
イラストレーターの超美麗なのを描いてる人にも、ちょっと見ていただきたい所。上手下手じゃなく魂だ！ってのが良ーく解る絵ですから。そりゃ世界の遺産に認められますって。
この方、私が初めて知ったのは日曜美術館でしたね。遺産認定受けてからの記念放送的な。もうガーンと来ましたね。おどろおどろしい迫力！迫真！テレビ画面からもドーンと伝わってくるようでしたね。そりゃディティールは拙いけど、なんとか伝えたい！って執念というか、情念がブワッて画面から湧き出て来た気がしましたよ。
なんだろな、ちょっと進撃の巨人とかワンパンマンに近い念というか、あっちよりもっと強かったですが。
その後すぐに本を購入したくらい。

いや～、本の中では日曜美術館では出てなかった入浴絵がお気に入り。
炭鉱ですから、仕事したら真っ黒になるわけです、男女とも。
女も鉱石の運び屋として山に入るんだけど、昔だから女の方が小さい浴槽でお湯の入れ替えも少ない回数。
すると女湯ってお湯が汚いままなのよ。すると男湯に女がズカズカ入って入浴するの。それを注意して女湯に行けって言うと、汚いお湯なんかに入れるか！注意するなら綺麗にしておけ！憲兵呼びたいなら呼べ！って啖呵切る。
いや～、そういう男女かんけえねえとか、泥臭い感じと裸で啖呵切るとか逞しいの良いよな～って。男湯に女が一人入ってる絵、女がねふてぶてしい、いい顔なのよ。
あとはリンチの絵とかね。まあやっぱそういうのも有るよなって。むやみにリンチじゃなく山の掟破りのリンチの話なんだけど、逆さ吊りして貼り付けするとか。
そういう血生臭い部分もあり、テレビでお出し出来ない部分も見れる。
山の俗信とか、キツネにだまされて火傷の重症患者の皮膚を食べられ、患者が死亡するって話もあり、これがかなり信じられてたようです。
実際居合わせた、騙された人が居るってのが、鉱山ガスとか一酸化ガスの作用もあるのかな～って思ったり。
やっぱ幻覚を見易いんじゃないのかな、炭鉱なのにガスマスクなんか無いから。石炭燃やすと、不完全燃焼だったりするとさ、中毒起こるし。昔の豆炭炬燵とか練炭炬燵、不完全燃焼で頭が痛くなるとか結構あったしねえ。
石炭って掘っただけだと、そのまま燃やすと有毒ガス出るの。蒸してガスや硫黄を抜いて無害化が必要。
それが甘い時代かもしれないしね～、毒ガス成分すっかり抜く技術が無かったのかも。
いやにキツネに化かされる話が多い感じ。縁起の悪い迷信の行動（山で猿は嫌う、去る＝死のイメージだから）は極力やらないとかね。やっぱ死と隣り合わせな現場だから。
ちょっと以前紹介した山怪と被る感じ。やっぱ山って生も溢れているが、死も近い、境界の世界でそういう所なんだな～って。

日本のエネルギー産業黎明期の、地の底からの境界の時代より届いた叫びといった感じの生々しい記録、ぜひ見て知って頂きたいものですね。






◆山本作兵衛氏　炭坑の記録画
ユネスコの認定マークが上に載ってます。皆さんにぜひ広く知って欲しい記録です。

　HPより引用　http://www.y-sakubei.com/index.html

引用＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

世界記憶遺産
　ユネスコ（国際連合教育科学文化機関）が主催する三大遺産事業の一つです。
　ユネスコの世界記憶遺産国際諮問委員会（IAC）での審査を経て2年に1度登録が行われます。
　代表的なものでは、フランス人権宣言、アンネの日記、ベートーベン第9交響曲の草稿などが登録されています。
　登録された資料については、誰もが容易に参照できるように、これらの資料をデジタル化し、インターネット上で公開することや書籍、CD、DVDなどで出版・頒布することが推奨されています。

日本初の世界記憶遺産

　これまで日本に世界記憶遺産はありませんでした。しかし、2011年（平成23年）5月25日、福岡県田川市と福岡県立大学が共同で申請した山本作兵衛氏の炭坑の記録画および記録文書が、日本で初めて世界記憶遺産に登録されました。
　今回記憶遺産に登録されたのは、福岡県田川市が所有する絵画585点、日記６点、雑記帳や原稿など36点と山本家が所有し福岡県立大学が保管する絵画4点、日記59点、原稿など7点の合計697点です。
　山本氏の記録画等が登録されたことについて、ユネスコのホームページでは、「山本作兵衛コレクションは、明治時代後期から、筑豊の炭鉱業ではまだ産業革命が継続していた20世紀後期までの日本の発展状況を裏付ける私的記録である。当該コレクションは、素朴な絵画に説明が書き加えられた構成となっており、文字通り炭鉱の最前線で働いていた一人の男性が実際に体験した出来事を記述、描写した記録である。当時の日本について記述した文書は、政府や企業等の公式文書によるものがほとんどで、一人の労働者が作成した私的記録は非常に希少である。作兵衛の絵画には、公的記録では読み取ることができない当時の生々しさや臨場感がある。当該コレクションは、世界的に歴史的な重要性が高い時代を実際に生きた一人の人間の視点に基づく真正な記録である。」としています。

引用＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊



今回で完結です。
ありがとうございました。
またなにか思いついたら、完結設定解除して、チョコチョコ上げたいとは思ってます。