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怪談話としては非情な方法 そのB
side”N”の課題
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一年前、七井八重の死をきっかけとし、連続変死事件が再燃した。
その時期と重なる様に、一人の男子生徒が行方不明となっている。
調査の為にその神社に訪れたのは、そんな時だ。
矢ヶ暮神社は、この辺りでも比較的新しい神社であり、八月に行われる矢祭祭は著名な行事としても新聞やテレビで放映されている。
隣町が呪術的な意味で著名なのに対して、この神社の素性は業界の中でも情報が無い。
先ほども言ったように、矢ヶ暮神社が歴史的な積み重ねが無いという事もあるが、単に素性が明かされていないという点が大きい。そもそも、この神社が祭る神は全国的にも該当するのが無いのだ。
七井八重という少女の殺害方法が、この辺りの噂話の種となっている”印様”との関係が示唆されている。そしてその神様は、どうやらこの神社に祭られている。
「そりゃぁ、君。あれですよ」
相変わらず秘密主義の仮面は剥がせそうにないと、地方学者に模した先輩の代わりに派遣された俺の仕事は、この神社にて巫女を務める矢隠 トキとの接触だった。
しかし、当の本人は神社の仕事や学業で捕まりそうにない。代わりに仲を深めたのは、この神社のご息女である矢ヶ暮アキ先輩であった。事態の把握に努める為に行った入学という手段は、先輩との関係を構築する為にも有効な手段になった。
この街の歴史や、噂話についての興味を題材に血被いた俺が、先輩の興味を惹かれる人物になるのにはあまり時間がかからなかった。校内でもそういった人間は多少いただろうが、少なくとも日常会話の一旦になるばかりで情熱は含まれていなかったのだろう。
だからこそ、会話の中でとある噂話に行きつくのも自然な事だった。
「印様という噂話を知っていますか?」
俺は、耳にしたことはあると答える。
元々、この神社の歴史背景や様々な伝統の話で盛り上がる事はあった。其処に、この神社の主である印様と呼ばれる存在は含まれず、どちらかといえば民謡という側面が強い話が多かっただろう。
印様という神様が織りなす殺人事件。
そんな旬な怪談話に対して、その手の物に興味がある人物が手を伸ばそうとするのはごく自然な事だろう。
「そこでですね。私の部活に入った暁には、八月ごろに発表会をしましょう。あの殺人事件の真実は、果たしてどういう陰謀が絡んでいるのか」
彼女が離した部活というのは、彼女が所属する部活の話だ。
以前からその部活に誘われていたが、放課後の調査に影響があるとして謹んで辞退していた。だが、この神社についての話に近づくのも、事情を知っているだろうこの先輩の懐に入る手段としても。
少なくとも。
そう、それは少なくともであるが。
「まあ、面白そうではあるな」
此処で彼女と親しくなれば調査対象に近づけるという意味でも、有益な話には違いない。
そんな理由を付けた。
「人はですね、競い合ってこそ面白く生きられるのです。耳寄りの話をしてあげましょう」
耳寄りな話。
俺は、少しだけ態度を和らげる。
「矢ヶ暮という地名の由来には様々な憶測がありますが、一番有力とされているのが足立神社との関連性です」
「足立神社というと……。ああ、あの雄国沼の近くの」
「ええ。その神社に相違ないですね。もともとこの神社と足立神社というのは切っても切れない関係でして、足立神社に関連した住民が移り住んだのが、この町の由来です」
雄国沼という場所は、ウインタースポーツやワカサギ釣りで有名な山奥の湖だ。
ぽつぽつと点在する小島が印象的な湖であり、観光地としても著名である。その場所にある足立神社は、その昔から魔除けなどの製造を行う場所として知られている。
「どうにも関連性が見えないな」
「足立神社はですね。足長という神様を祀っている神社なんですよ」
足長。
足長といえば……。
「足長って言うと、__アレか。手長足長」
「そうです。まあ、民謡によくある妖怪ですよね。河童よりは有名ではないかもしれませんが」
手長足長。
これも有名な妖怪だろう。
その妖怪は二人組であり、特に東北地方に伝わる妖怪である。その大きな腕で湖を荒らしたり、様々な逸話が各地に点在する。そして、その妖怪は時折として神様としての側面も持つ。
「長野県辺りには直接名前が付けられた神社があるんだよな。確か」
「そうですね。テナヅチノミコトは、彼の夫と共にヤマタノオロチ伝説に関連した神様として有名でもあります。
彼らは娘たちを竜に差し出しまして、最後の娘を差し出したところにヒーローが現れ、無事退治した。そんなストーリーです」
「神話の上では悪者ではないんだが、如何せん地方の民謡となると悪役になるのが多いのが印象的な神様だよな」
「秋田や福島の手長足長はそういった荒ぶる災害としての面がありますね。大抵、お坊さんとかに懲らしめられる話が有名です。長野では神様やその眷属神としての面も持ち合わせていますが。まあ、大抵は妖怪としての面が大きいでしょう」
有名な、ヤマタノオロチ伝説という奴で、彼らは自身の子供をヤマタノオロチに食われ続けた。そして最後の一人を差し出さなければならない場面で、ヤマタノオロチをスサノオノミコトが退治する。そしてその娘はスサノオノミコトと結ばれる事となる。
「だが、名称からして手が加えられているように見えるよな」
「其処に気付きましたか?さすが、私の後輩です」
名義上はそうなるのだろうが、俺は如何やら自分が思った以上に不満な顔を表していたようだ。
その表情を見た彼女は、狐のように笑う。
「その存在が作り替えられた偽物となったとしても、本質は変わりませんが」
「__つまり、印様の元ネタは手長という訳か」
手長足長は二人組の神様だ。
先ほど言った長野県の例を上げるなら別別に祀られている事もある。一つは手長神社。一つは足長神社。しかし、それは別側面という訳ではない。単体で存在しながら、それでも彼らは二人で夫婦というのは変わりない。
足長が居るのなら、”手長”がどこかに居なければならないのだ。
そして手を使う脅威を俺は知っている。
「そうです。災害というか、人を呪う災害という面では手長の彼が災害の面を持っているのでしょう」
だがしかし、此処で疑問が残る。
「__だったら、おかしくないか?」
「さて、何処がでしょう?」
「その理論だと、足立神社に祭られている神様は不幸を司る筈だ。そして、矢ヶ暮神社における神様も不幸を司る。手長足長は一蓮托生だ。どちらかが災害なら災害で、守護神なら守護神でなくてはならない」
「ええ。その通りですね」
しかし、印様が手長だとして足立神社の神様に不幸を呼び込むという性質は聞いた事は無い。純粋な手長足長の妖怪ではなく、地域独特の着色をしていたとしても、もう一つ疑問が残る話がある。
それは、印様に対しての扱いだ。
印様は疫病神であり、これに対しての取り扱いは鎮めるための努力になる。その解釈として多く用いられるのが神様の二面化だ。例えば、水害を多く出す神様に対して水の神様と纏める事により、その事象の負の面だけを強調しない方法。これは、先ほど言った解釈の話に似ている。
そしてもう一つが、著名な神様を呼び出しその神様に抑えてもらう方法である。
「あの神社には、二つの神様がいるんじゃないか?」
矢ヶ暮神社における主神は”印様”である。
しかし、矢ヶ暮神社に足長の神様は祀られていない。
あるのはそう、よく耳にする様なよく聞くソレ。
「もう一柱の神様は、どんな神様なのでしょうね?」
__だというのに、ノイズが掛かっているかのように具体性を帯びていない。
あの神社には、それ以外の何かが居る。
「その対にならない”何か”が祭られているって事か」
「まあ、神社にとっては全く関係が無い神様同士を祀ったりはします。例えば、ご当地の神様と著名な主神を一緒にすることは多く見られますよね」
「見方によっては、その大きな主神に封印されているご当地神って見方も出来る……と」
「おそらく、そういった使い方をされている可能性の方が高いですね。もしくは」
「__何か。があるか」
「何もなければヨシとはされますがね。__ああ、それともう一つ」
矢ヶ暮先輩と矢隠先輩は厳密にいえば親戚筋であり、矢ヶ暮先輩がこの神社の巫女を務めている理由は足立神社との関係があるという。
手長足長という神様との関係以外で、どの様な関係がつながっているのか。
そんな事を考える前に、彼女は語る。
「姉の苗字の由来はですね。矢を隠したって意味なんですよ」
「それがどうしたんだ?」
__印様は、腕を使い殺人を犯す。
とすれば、その起因する意味に”手を使う”矢という文字があるのは自然な事ではないだろうか?だが、それなら足立神社に努める家系の文字も、矢が起因する理由が分からない。二つの家系は、同じく矢という文字を使う。それが変わらない理由は?
元来、矢というのは邪気を払う手段としても用いられる。印様という災害を射止める為の矢。という意味合いがあるのかもしれない。
しかし、何故そこに影を付け足したのか。__そういえば、印というのは……。
「それは、神様が持つ凶器を隠したという意味と同意です」
印様の凶器といえば、噂によれば頭だろうか?
考察は出来るが、それは空想に過ぎない。
俺は彼女にお礼を言い、俺は彼女の提案に乗る事にした。
彼女は、ただ笑っている。
足立神社周辺には、とある文化がありまして。
七つ栞と呼ばれるそれは、七五三に似た行事です。
栞は本を閉ざす為に在ります。何処までを読み進め何処までを理解したか。あるいは、未知の部分と既知の部分を区切る為の境界です。その場合、右手は既読になり左手は未読となりますよね?
この地方の独特の解釈とはなると思いますが、それ故に七つ先を遡るな、七つ後を遡るな。なんて迷信がありまして。要は七つ先の未来のページを捲るな。もしくは、七つ後のページを捲り返すな。という禁忌に似たものです。
要は、それ以上は神様の領分であり、立ち入ってはならないのです。
未来を見てはならない。過去を見てはならない。これは少し、見るなのタブーに近しい概念です。
ええ。そうなんですよ。これは傍目から見るなら、この行事はむやみに神様を作らないようにする行事なのです。
人を神様にする方法はありませんが、神様を留めておく方法はあるのです。
空っぽな神様に歪曲した意味合いを押し付ければ、それはきっとその意味の神様と成るという訳ですね。
__ああ、それはそれとして。
解釈を広げ、人を神様とする方法があるのなら。その逆はどうでしょうか?
神様を人にする方法はあるか。
それを願う神様も物好きではあると思いますが、そんな神様がもし居たとして。
彼らは。そして、彼女らは。人に成り下がれるのでしょうか?
歪曲した”彼ら彼女ら”に押し付けた罪は果たしてどうなるのでしょうね?
まあ、どれにしたっても。
自らの行いがにじんだその手は、どうにもなりませんが。
その時期と重なる様に、一人の男子生徒が行方不明となっている。
調査の為にその神社に訪れたのは、そんな時だ。
矢ヶ暮神社は、この辺りでも比較的新しい神社であり、八月に行われる矢祭祭は著名な行事としても新聞やテレビで放映されている。
隣町が呪術的な意味で著名なのに対して、この神社の素性は業界の中でも情報が無い。
先ほども言ったように、矢ヶ暮神社が歴史的な積み重ねが無いという事もあるが、単に素性が明かされていないという点が大きい。そもそも、この神社が祭る神は全国的にも該当するのが無いのだ。
七井八重という少女の殺害方法が、この辺りの噂話の種となっている”印様”との関係が示唆されている。そしてその神様は、どうやらこの神社に祭られている。
「そりゃぁ、君。あれですよ」
相変わらず秘密主義の仮面は剥がせそうにないと、地方学者に模した先輩の代わりに派遣された俺の仕事は、この神社にて巫女を務める矢隠 トキとの接触だった。
しかし、当の本人は神社の仕事や学業で捕まりそうにない。代わりに仲を深めたのは、この神社のご息女である矢ヶ暮アキ先輩であった。事態の把握に努める為に行った入学という手段は、先輩との関係を構築する為にも有効な手段になった。
この街の歴史や、噂話についての興味を題材に血被いた俺が、先輩の興味を惹かれる人物になるのにはあまり時間がかからなかった。校内でもそういった人間は多少いただろうが、少なくとも日常会話の一旦になるばかりで情熱は含まれていなかったのだろう。
だからこそ、会話の中でとある噂話に行きつくのも自然な事だった。
「印様という噂話を知っていますか?」
俺は、耳にしたことはあると答える。
元々、この神社の歴史背景や様々な伝統の話で盛り上がる事はあった。其処に、この神社の主である印様と呼ばれる存在は含まれず、どちらかといえば民謡という側面が強い話が多かっただろう。
印様という神様が織りなす殺人事件。
そんな旬な怪談話に対して、その手の物に興味がある人物が手を伸ばそうとするのはごく自然な事だろう。
「そこでですね。私の部活に入った暁には、八月ごろに発表会をしましょう。あの殺人事件の真実は、果たしてどういう陰謀が絡んでいるのか」
彼女が離した部活というのは、彼女が所属する部活の話だ。
以前からその部活に誘われていたが、放課後の調査に影響があるとして謹んで辞退していた。だが、この神社についての話に近づくのも、事情を知っているだろうこの先輩の懐に入る手段としても。
少なくとも。
そう、それは少なくともであるが。
「まあ、面白そうではあるな」
此処で彼女と親しくなれば調査対象に近づけるという意味でも、有益な話には違いない。
そんな理由を付けた。
「人はですね、競い合ってこそ面白く生きられるのです。耳寄りの話をしてあげましょう」
耳寄りな話。
俺は、少しだけ態度を和らげる。
「矢ヶ暮という地名の由来には様々な憶測がありますが、一番有力とされているのが足立神社との関連性です」
「足立神社というと……。ああ、あの雄国沼の近くの」
「ええ。その神社に相違ないですね。もともとこの神社と足立神社というのは切っても切れない関係でして、足立神社に関連した住民が移り住んだのが、この町の由来です」
雄国沼という場所は、ウインタースポーツやワカサギ釣りで有名な山奥の湖だ。
ぽつぽつと点在する小島が印象的な湖であり、観光地としても著名である。その場所にある足立神社は、その昔から魔除けなどの製造を行う場所として知られている。
「どうにも関連性が見えないな」
「足立神社はですね。足長という神様を祀っている神社なんですよ」
足長。
足長といえば……。
「足長って言うと、__アレか。手長足長」
「そうです。まあ、民謡によくある妖怪ですよね。河童よりは有名ではないかもしれませんが」
手長足長。
これも有名な妖怪だろう。
その妖怪は二人組であり、特に東北地方に伝わる妖怪である。その大きな腕で湖を荒らしたり、様々な逸話が各地に点在する。そして、その妖怪は時折として神様としての側面も持つ。
「長野県辺りには直接名前が付けられた神社があるんだよな。確か」
「そうですね。テナヅチノミコトは、彼の夫と共にヤマタノオロチ伝説に関連した神様として有名でもあります。
彼らは娘たちを竜に差し出しまして、最後の娘を差し出したところにヒーローが現れ、無事退治した。そんなストーリーです」
「神話の上では悪者ではないんだが、如何せん地方の民謡となると悪役になるのが多いのが印象的な神様だよな」
「秋田や福島の手長足長はそういった荒ぶる災害としての面がありますね。大抵、お坊さんとかに懲らしめられる話が有名です。長野では神様やその眷属神としての面も持ち合わせていますが。まあ、大抵は妖怪としての面が大きいでしょう」
有名な、ヤマタノオロチ伝説という奴で、彼らは自身の子供をヤマタノオロチに食われ続けた。そして最後の一人を差し出さなければならない場面で、ヤマタノオロチをスサノオノミコトが退治する。そしてその娘はスサノオノミコトと結ばれる事となる。
「だが、名称からして手が加えられているように見えるよな」
「其処に気付きましたか?さすが、私の後輩です」
名義上はそうなるのだろうが、俺は如何やら自分が思った以上に不満な顔を表していたようだ。
その表情を見た彼女は、狐のように笑う。
「その存在が作り替えられた偽物となったとしても、本質は変わりませんが」
「__つまり、印様の元ネタは手長という訳か」
手長足長は二人組の神様だ。
先ほど言った長野県の例を上げるなら別別に祀られている事もある。一つは手長神社。一つは足長神社。しかし、それは別側面という訳ではない。単体で存在しながら、それでも彼らは二人で夫婦というのは変わりない。
足長が居るのなら、”手長”がどこかに居なければならないのだ。
そして手を使う脅威を俺は知っている。
「そうです。災害というか、人を呪う災害という面では手長の彼が災害の面を持っているのでしょう」
だがしかし、此処で疑問が残る。
「__だったら、おかしくないか?」
「さて、何処がでしょう?」
「その理論だと、足立神社に祭られている神様は不幸を司る筈だ。そして、矢ヶ暮神社における神様も不幸を司る。手長足長は一蓮托生だ。どちらかが災害なら災害で、守護神なら守護神でなくてはならない」
「ええ。その通りですね」
しかし、印様が手長だとして足立神社の神様に不幸を呼び込むという性質は聞いた事は無い。純粋な手長足長の妖怪ではなく、地域独特の着色をしていたとしても、もう一つ疑問が残る話がある。
それは、印様に対しての扱いだ。
印様は疫病神であり、これに対しての取り扱いは鎮めるための努力になる。その解釈として多く用いられるのが神様の二面化だ。例えば、水害を多く出す神様に対して水の神様と纏める事により、その事象の負の面だけを強調しない方法。これは、先ほど言った解釈の話に似ている。
そしてもう一つが、著名な神様を呼び出しその神様に抑えてもらう方法である。
「あの神社には、二つの神様がいるんじゃないか?」
矢ヶ暮神社における主神は”印様”である。
しかし、矢ヶ暮神社に足長の神様は祀られていない。
あるのはそう、よく耳にする様なよく聞くソレ。
「もう一柱の神様は、どんな神様なのでしょうね?」
__だというのに、ノイズが掛かっているかのように具体性を帯びていない。
あの神社には、それ以外の何かが居る。
「その対にならない”何か”が祭られているって事か」
「まあ、神社にとっては全く関係が無い神様同士を祀ったりはします。例えば、ご当地の神様と著名な主神を一緒にすることは多く見られますよね」
「見方によっては、その大きな主神に封印されているご当地神って見方も出来る……と」
「おそらく、そういった使い方をされている可能性の方が高いですね。もしくは」
「__何か。があるか」
「何もなければヨシとはされますがね。__ああ、それともう一つ」
矢ヶ暮先輩と矢隠先輩は厳密にいえば親戚筋であり、矢ヶ暮先輩がこの神社の巫女を務めている理由は足立神社との関係があるという。
手長足長という神様との関係以外で、どの様な関係がつながっているのか。
そんな事を考える前に、彼女は語る。
「姉の苗字の由来はですね。矢を隠したって意味なんですよ」
「それがどうしたんだ?」
__印様は、腕を使い殺人を犯す。
とすれば、その起因する意味に”手を使う”矢という文字があるのは自然な事ではないだろうか?だが、それなら足立神社に努める家系の文字も、矢が起因する理由が分からない。二つの家系は、同じく矢という文字を使う。それが変わらない理由は?
元来、矢というのは邪気を払う手段としても用いられる。印様という災害を射止める為の矢。という意味合いがあるのかもしれない。
しかし、何故そこに影を付け足したのか。__そういえば、印というのは……。
「それは、神様が持つ凶器を隠したという意味と同意です」
印様の凶器といえば、噂によれば頭だろうか?
考察は出来るが、それは空想に過ぎない。
俺は彼女にお礼を言い、俺は彼女の提案に乗る事にした。
彼女は、ただ笑っている。
足立神社周辺には、とある文化がありまして。
七つ栞と呼ばれるそれは、七五三に似た行事です。
栞は本を閉ざす為に在ります。何処までを読み進め何処までを理解したか。あるいは、未知の部分と既知の部分を区切る為の境界です。その場合、右手は既読になり左手は未読となりますよね?
この地方の独特の解釈とはなると思いますが、それ故に七つ先を遡るな、七つ後を遡るな。なんて迷信がありまして。要は七つ先の未来のページを捲るな。もしくは、七つ後のページを捲り返すな。という禁忌に似たものです。
要は、それ以上は神様の領分であり、立ち入ってはならないのです。
未来を見てはならない。過去を見てはならない。これは少し、見るなのタブーに近しい概念です。
ええ。そうなんですよ。これは傍目から見るなら、この行事はむやみに神様を作らないようにする行事なのです。
人を神様にする方法はありませんが、神様を留めておく方法はあるのです。
空っぽな神様に歪曲した意味合いを押し付ければ、それはきっとその意味の神様と成るという訳ですね。
__ああ、それはそれとして。
解釈を広げ、人を神様とする方法があるのなら。その逆はどうでしょうか?
神様を人にする方法はあるか。
それを願う神様も物好きではあると思いますが、そんな神様がもし居たとして。
彼らは。そして、彼女らは。人に成り下がれるのでしょうか?
歪曲した”彼ら彼女ら”に押し付けた罪は果たしてどうなるのでしょうね?
まあ、どれにしたっても。
自らの行いがにじんだその手は、どうにもなりませんが。
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