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調律協定
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お姫様が王子様に憧れるように。
王子様もお姫様に憧れるんだぜ?
例え、この声が届かなくても。
この意味を、お前は知っている。
だから、……まあ。
俺にも少し、意味はあった。
だから、カフカ。
君の、その意味は__。
「調子はどうですか?」
私は、隣の彼にそう聞いた。
大衆居酒屋の一つであるこの酒場では、畑帰りの男たちの憩いの場でもある。古くは行商の通り道でもあるのだろう。様々な客の中には、異国の男性も混ざっていた。
先程から顔なじみとなった給仕がせっせと彼らの飲み物を運んでいた。
居酒屋だというのにその大半が水と食べ物である事を覗けば、一般的な居酒屋に相違ない。
その中でも異端である彼は葡萄酒をちびちびと口元へ運びながら、そんな父親を心配して訪れた体の隣りに座る私に対して、厄介者を扱う目を向けてくる。
余計な巣をつつくな。__そんな言葉を言うように。
「変わらんよ。近頃、国王の側近が妙な連中とつるんでいるらしいって話だ。現政権の副官に、”緑の売人”と呼ばれる連中が、何度も何度も顔を合わせているらしい。
副官の詳しい経歴は都会に行っていたお前の方が知ってるんだろ?……このあたりでも、妙なうわさが絶えない男だよ。例の、人攫いの噂も彼の近辺から出ている。
この村の修道院。孤児院なんかでも、緑の怪物が出たなんて話が上がっている。そりゃあもう、爆発的にだ」
「……噂話の、”種の村”も確かこの国の領土で副官の故郷…でしたね、お父さん。たしか、この村の十数キロ近くでしたか?」
「ああ。如何やら噂は根を張っているようだがな。なにせ、触れただけだ」
「触れただけで?」
「実際に見た訳じゃねえ」
「__人型と似た特徴ですね」
苛立ちを隠すように酒を煽る彼を横目に、先日の事件について考察する。
「おい、カフカ。話題作りも少しは考えろよ?」
偽装がバレる事を危惧しているのだろう。
私は、この隣人の娘でも無ければ家族でもない。この店に不自然無い様に潜り込む為に、村人の疑心を晴らすために隠れ蓑になってもらっているに過ぎない。
話声で埋まるこの酒場の大半が、もうすでに手遅れの状態な事を彼は知っている。
まずは実態の解明から始めなければならない。
その為には、この目撃者と酒場にある”例の物”の回収は必要条件だ。
「大丈夫ですよ、お父さん。実は”連れ”がいるんです」
「__そうか。だが、噂を言うのは程々にしとけよ?”そんな事に興味津々なのは、お前ぐらいだ。バカ娘”」
「何故?」
「……決まっているだろう?」
「__ま、そうでしょうね」
私は、仕事中なのだから。
酔いが覚めない隣人の話を、これまでの話と織り交ぜながら考えていた。
すると、先程まで別の顧客に対応していた給仕が、此方へ足を運んで注文を尋ねる。酔いどれの父親を介抱している体である為。半場諦めた笑みをそちらへ向けると、彼女は冗談交じりにこう聞く。
「ご注文は?」
「葡萄酒を」
「子供に飲ませるお酒はないよ、カフカ?」
店の給仕であるミラーさんが、苦笑いを浮かべた。
ミラーさんは、この酒場を切り盛りしている父親を手伝っている一人娘だ。給仕と会計士を担当しており、その人当たりよさそうな態度は街の中でも人気の様だ。
「今は飲みたい気分なんです。お姉ちゃんは、約束を破って酔いどれに出来上がった親への心情を知らないのです」
「ホットミルクを頼む。悪いな。約束を破って、少し不機嫌なんだ」
「ええ。出ていったお母さんの代わりに都会へ行っているのに、私のお金でお酒を飲んでいるんですよ?酷いものです」
「これは俺が耕した金なんだがな?」
「本当に酷い父親ですよ」
「仲がいいね、相変わらず」
「どこが」
他人でありながら、親子を貫く我々を疑う事なく彼女は仕事へと戻る。
『博士、状況を説明』
インカムからの声。
厳かな男性が、支持を乞う。
『現地諜報員と接触しました。彼は無事のようで、接触感染の疑いも見当たりません。また、痕跡の反応を確認しました。疑似実体を複数確認。数は5。一般人は出払っています。対象の場所は、左のテーブル席に3人。右テーブル席に2人。”取引先”以外では、一般人と思われる女給が働いています。亭主は、麦酒を飲んでいた所を直接確認しています。__おそらく、人間だと思われます。実態への接触には十分に注意を』
『情報は?』
『やはり例の副官も関わっているって話です。近辺の施設で、植物性実体の噂が流れています。表向きは前の戦争の孤児や浮浪者の居場所を提供しているらしいけど、きな臭いですよ。手記自体の情報はありません。
そんな事よりも、実行犯ですよ。隊長。手記の断片を確認。如何やら丁重に扱ってなかったようです』
時間と共に夜は深まり、客足も途絶え閉店時間が迫る。
数人の村人と、一人の旅人。
「俺は、この店が好きなんだ」
「それは同意ですけど。そのニュアンスでは、好きな人でもいるのですか?」
「そんなんじゃないさ」
例えば、其処の彼女の様な。
等と余計な口を噤みながら、私は改めて周りを見渡す。
「__ただ、知らぬ所でやってくれという話だ」
余計な事ではなく、”仕事”なのです。
そんな言葉を理解してくれる人は、誰も居ないのだろうけど。
「お父さん、酔いすぎだよ。早く帰ろう?」
「____はぁ。そうだな、我が娘」
「お母さんが居たら、拳骨だけじゃすまないよ」
「不器用な父親で悪いね」
「安月給も付けなきゃ、ね?」
「仕舞いには殴るぞ?”カフカ”」
先程から、明確な殺意があるのを理解していた。
その方向を用心深く横目に見る。
先程から宴会に忙しいと思っていた集団だ。今は何も口にせず、唯々此方を向いている。その眼には鐘馗があるとは言えず、確かな意志だけが此方を見る。酒場だというのに、酒を口にしていない。日は落ちている。だというのに、酒場で口にするのは肉類のみ。
獲物だと思っているのか。
邪魔者だと思っているのか。
少なくとも、歓迎はされていない様だ。
『準備完了。10秒後に突撃』
『女給及び、私の横にいる職員に注意を』
『聞いたな』
『対象は左側テーブル三名。右テーブル二名。例の紙片は見つからず。接触に注意せよ』
『触れたら、アウトか?』
『そう。今の所、麻手袋での捕獲は成功しているようです。捕獲は別動隊が行います。出来る限り接触は避けてください』
『了解』
小さく吐くように状況を説明し、私は通信を切る。
「タイミングは、かしこ」
「お待ちしました。ホットミルクです」
それを遮るように、盆を持ったミラーさんが私の前へと置いたホットミルクは、如何やら新鮮な牛乳を使用しているらしく自信満々の傑作だと彼女に紹介される。
如何やら愛着のある牛のミルクであるらしく、とてもおいしいとこの近辺で有名のようだ。
「ありがとうございます。ミラーさん。__それと一つお願いしてもいいですか?」
「何ですか?」
ミラーさんは、彼の父である店主と何気も無い会話をしていた。
異国風の男性に呼ばれた店主は、男性の葡萄酒を注ぐと紙片に手を触れようとする。
紛れるように、異質な臭いが微かに香った。
魔術が刻まれた紙片に、僅かながら魔力が匂う。
『紙片を発見。確保』
『突入』
小さな影たちが、光の下へと表れたのは一瞬の出来事だっただろう。
その狩人たちは、我々のような人間の姿をしていた。
小さな火薬の爆ぜる音と共に、人型が吹き飛ばされる。
その人を有した化け物が、血潮の代わりに水滴と残骸を吐いて倒れた。
次々と雪崩れて付近を囲い、小さな人々が大きな人々を潰し廻る。テーブルに並べられた宴会の跡を踏みにじる様に、何処から現れたのか分からない膝サイズの彼らは、明確な殺意と規律を以て対象を無力化していった。
その身体能力は、その身に合わぬジャンプ力を見せ。彼らの戦術は、敵の死角からの攻撃を常に怠らない。何処から向けられているかも分からない暗闇からの殺意から逃れる事も無く、敵は次々に倒れていく。
小銃の明かりが。ランタン以上に眩い光が蛍の様に点滅していた。
人と同様の速さで回る彼らは、人間以上に素早く適切に事態を収拾している。
足を挫かれ、明確な意思によって植物たちは頭を潰され。事態が飲み込めない男性は、紙片を握り驚愕の声を上げる。
数分と掛からぬ速さで無力化し、通信が入る。
「対象5体を無力化。1名の確保、状況を終了。残骸の撤去作業と住民の保護に回る」
「紙片はその男が持っています」
小さな狩人たちはその足を止める事は無く、その足を以て奥へと進む。
その流れは二分し、此方へと足を止めた影たち。
「RM6、7。対象の護衛を頼む。RM8。その男を、拘束しておけ。…殺すなよ」
「了解。対象の護衛を行う」
「了解。対象を拘束します」
多数の規律溢れる足音が遠ざかり、十数人の小人たちが此方へと敬礼を向けた。
唖然としている給仕の少女に、彼らの一人が手を差し伸べる。
「立てますか、お嬢さん」
「__貴……方は?って、皆さんは_」
その言葉に反応を示すことなく、一般的な通信機を使用し状況の説明を終えた。
「民間人を保護、意識を確認。仮本部に連絡済みです」
「ミラーさんですね?我々は、”調律協定”です」
調律協定は、”渡来人”により作られた魔術書を補完、管理する機関である。
その主な活動は、ありとあらゆる魔術書を採取し、保管し。自由と平等の元知識を広めることにある。
不穏なこの国の様な、異常を絶つのが私たちの仕事である。
だが、事態がいつから始まったのかは実際のところ定かではない。
爆発の様に広がった被害が、確実に例の事件が境なのは確かである。
ある日、我々が管理する世界図書館の本が盗まれた。
「一名の保護を確認。仮本部へ案内します。カフカ職員、お疲れ様です」
「やはり、修道院も怪しいと思われます。紙片の回収完了。その他の居酒屋の状況は逐一確認してください」
「了解しました。我が隊は、護衛任務を続けます」
敬礼と共に、対象を導きながら彼らは去った。
後に残された彼女に同情しながら、私はホットミルクに口を付けた。
確かな甘みと深みを実感し、静かな時間に耳を傾ける。
刈り取られた植物たちの残骸は、消える事も無くその場に残っている。
どうやらこの町を中心として、こうした化け物を量産しているようだ。その根元の一つはこの居酒屋であるが、それ以外でも活動を広めているらしい。
修道院。孤児院。
そう言った施設で、この種は蒔かれている。
切り取られた紙片と共に。
そして、確かな疑問が一つだけ。
奥の銃声が止み、駆け出した亭主は如何やら諦めたようだ。
足を打たれて動けなくなってしまった彼に、容赦ない尋問が下るだろう。
__数分後の無線からは、彼の悲鳴が聞こえる事を私は知っている。
「__おいしい」
私は、ぽつりと感想を吐いた。
王子様もお姫様に憧れるんだぜ?
例え、この声が届かなくても。
この意味を、お前は知っている。
だから、……まあ。
俺にも少し、意味はあった。
だから、カフカ。
君の、その意味は__。
「調子はどうですか?」
私は、隣の彼にそう聞いた。
大衆居酒屋の一つであるこの酒場では、畑帰りの男たちの憩いの場でもある。古くは行商の通り道でもあるのだろう。様々な客の中には、異国の男性も混ざっていた。
先程から顔なじみとなった給仕がせっせと彼らの飲み物を運んでいた。
居酒屋だというのにその大半が水と食べ物である事を覗けば、一般的な居酒屋に相違ない。
その中でも異端である彼は葡萄酒をちびちびと口元へ運びながら、そんな父親を心配して訪れた体の隣りに座る私に対して、厄介者を扱う目を向けてくる。
余計な巣をつつくな。__そんな言葉を言うように。
「変わらんよ。近頃、国王の側近が妙な連中とつるんでいるらしいって話だ。現政権の副官に、”緑の売人”と呼ばれる連中が、何度も何度も顔を合わせているらしい。
副官の詳しい経歴は都会に行っていたお前の方が知ってるんだろ?……このあたりでも、妙なうわさが絶えない男だよ。例の、人攫いの噂も彼の近辺から出ている。
この村の修道院。孤児院なんかでも、緑の怪物が出たなんて話が上がっている。そりゃあもう、爆発的にだ」
「……噂話の、”種の村”も確かこの国の領土で副官の故郷…でしたね、お父さん。たしか、この村の十数キロ近くでしたか?」
「ああ。如何やら噂は根を張っているようだがな。なにせ、触れただけだ」
「触れただけで?」
「実際に見た訳じゃねえ」
「__人型と似た特徴ですね」
苛立ちを隠すように酒を煽る彼を横目に、先日の事件について考察する。
「おい、カフカ。話題作りも少しは考えろよ?」
偽装がバレる事を危惧しているのだろう。
私は、この隣人の娘でも無ければ家族でもない。この店に不自然無い様に潜り込む為に、村人の疑心を晴らすために隠れ蓑になってもらっているに過ぎない。
話声で埋まるこの酒場の大半が、もうすでに手遅れの状態な事を彼は知っている。
まずは実態の解明から始めなければならない。
その為には、この目撃者と酒場にある”例の物”の回収は必要条件だ。
「大丈夫ですよ、お父さん。実は”連れ”がいるんです」
「__そうか。だが、噂を言うのは程々にしとけよ?”そんな事に興味津々なのは、お前ぐらいだ。バカ娘”」
「何故?」
「……決まっているだろう?」
「__ま、そうでしょうね」
私は、仕事中なのだから。
酔いが覚めない隣人の話を、これまでの話と織り交ぜながら考えていた。
すると、先程まで別の顧客に対応していた給仕が、此方へ足を運んで注文を尋ねる。酔いどれの父親を介抱している体である為。半場諦めた笑みをそちらへ向けると、彼女は冗談交じりにこう聞く。
「ご注文は?」
「葡萄酒を」
「子供に飲ませるお酒はないよ、カフカ?」
店の給仕であるミラーさんが、苦笑いを浮かべた。
ミラーさんは、この酒場を切り盛りしている父親を手伝っている一人娘だ。給仕と会計士を担当しており、その人当たりよさそうな態度は街の中でも人気の様だ。
「今は飲みたい気分なんです。お姉ちゃんは、約束を破って酔いどれに出来上がった親への心情を知らないのです」
「ホットミルクを頼む。悪いな。約束を破って、少し不機嫌なんだ」
「ええ。出ていったお母さんの代わりに都会へ行っているのに、私のお金でお酒を飲んでいるんですよ?酷いものです」
「これは俺が耕した金なんだがな?」
「本当に酷い父親ですよ」
「仲がいいね、相変わらず」
「どこが」
他人でありながら、親子を貫く我々を疑う事なく彼女は仕事へと戻る。
『博士、状況を説明』
インカムからの声。
厳かな男性が、支持を乞う。
『現地諜報員と接触しました。彼は無事のようで、接触感染の疑いも見当たりません。また、痕跡の反応を確認しました。疑似実体を複数確認。数は5。一般人は出払っています。対象の場所は、左のテーブル席に3人。右テーブル席に2人。”取引先”以外では、一般人と思われる女給が働いています。亭主は、麦酒を飲んでいた所を直接確認しています。__おそらく、人間だと思われます。実態への接触には十分に注意を』
『情報は?』
『やはり例の副官も関わっているって話です。近辺の施設で、植物性実体の噂が流れています。表向きは前の戦争の孤児や浮浪者の居場所を提供しているらしいけど、きな臭いですよ。手記自体の情報はありません。
そんな事よりも、実行犯ですよ。隊長。手記の断片を確認。如何やら丁重に扱ってなかったようです』
時間と共に夜は深まり、客足も途絶え閉店時間が迫る。
数人の村人と、一人の旅人。
「俺は、この店が好きなんだ」
「それは同意ですけど。そのニュアンスでは、好きな人でもいるのですか?」
「そんなんじゃないさ」
例えば、其処の彼女の様な。
等と余計な口を噤みながら、私は改めて周りを見渡す。
「__ただ、知らぬ所でやってくれという話だ」
余計な事ではなく、”仕事”なのです。
そんな言葉を理解してくれる人は、誰も居ないのだろうけど。
「お父さん、酔いすぎだよ。早く帰ろう?」
「____はぁ。そうだな、我が娘」
「お母さんが居たら、拳骨だけじゃすまないよ」
「不器用な父親で悪いね」
「安月給も付けなきゃ、ね?」
「仕舞いには殴るぞ?”カフカ”」
先程から、明確な殺意があるのを理解していた。
その方向を用心深く横目に見る。
先程から宴会に忙しいと思っていた集団だ。今は何も口にせず、唯々此方を向いている。その眼には鐘馗があるとは言えず、確かな意志だけが此方を見る。酒場だというのに、酒を口にしていない。日は落ちている。だというのに、酒場で口にするのは肉類のみ。
獲物だと思っているのか。
邪魔者だと思っているのか。
少なくとも、歓迎はされていない様だ。
『準備完了。10秒後に突撃』
『女給及び、私の横にいる職員に注意を』
『聞いたな』
『対象は左側テーブル三名。右テーブル二名。例の紙片は見つからず。接触に注意せよ』
『触れたら、アウトか?』
『そう。今の所、麻手袋での捕獲は成功しているようです。捕獲は別動隊が行います。出来る限り接触は避けてください』
『了解』
小さく吐くように状況を説明し、私は通信を切る。
「タイミングは、かしこ」
「お待ちしました。ホットミルクです」
それを遮るように、盆を持ったミラーさんが私の前へと置いたホットミルクは、如何やら新鮮な牛乳を使用しているらしく自信満々の傑作だと彼女に紹介される。
如何やら愛着のある牛のミルクであるらしく、とてもおいしいとこの近辺で有名のようだ。
「ありがとうございます。ミラーさん。__それと一つお願いしてもいいですか?」
「何ですか?」
ミラーさんは、彼の父である店主と何気も無い会話をしていた。
異国風の男性に呼ばれた店主は、男性の葡萄酒を注ぐと紙片に手を触れようとする。
紛れるように、異質な臭いが微かに香った。
魔術が刻まれた紙片に、僅かながら魔力が匂う。
『紙片を発見。確保』
『突入』
小さな影たちが、光の下へと表れたのは一瞬の出来事だっただろう。
その狩人たちは、我々のような人間の姿をしていた。
小さな火薬の爆ぜる音と共に、人型が吹き飛ばされる。
その人を有した化け物が、血潮の代わりに水滴と残骸を吐いて倒れた。
次々と雪崩れて付近を囲い、小さな人々が大きな人々を潰し廻る。テーブルに並べられた宴会の跡を踏みにじる様に、何処から現れたのか分からない膝サイズの彼らは、明確な殺意と規律を以て対象を無力化していった。
その身体能力は、その身に合わぬジャンプ力を見せ。彼らの戦術は、敵の死角からの攻撃を常に怠らない。何処から向けられているかも分からない暗闇からの殺意から逃れる事も無く、敵は次々に倒れていく。
小銃の明かりが。ランタン以上に眩い光が蛍の様に点滅していた。
人と同様の速さで回る彼らは、人間以上に素早く適切に事態を収拾している。
足を挫かれ、明確な意思によって植物たちは頭を潰され。事態が飲み込めない男性は、紙片を握り驚愕の声を上げる。
数分と掛からぬ速さで無力化し、通信が入る。
「対象5体を無力化。1名の確保、状況を終了。残骸の撤去作業と住民の保護に回る」
「紙片はその男が持っています」
小さな狩人たちはその足を止める事は無く、その足を以て奥へと進む。
その流れは二分し、此方へと足を止めた影たち。
「RM6、7。対象の護衛を頼む。RM8。その男を、拘束しておけ。…殺すなよ」
「了解。対象の護衛を行う」
「了解。対象を拘束します」
多数の規律溢れる足音が遠ざかり、十数人の小人たちが此方へと敬礼を向けた。
唖然としている給仕の少女に、彼らの一人が手を差し伸べる。
「立てますか、お嬢さん」
「__貴……方は?って、皆さんは_」
その言葉に反応を示すことなく、一般的な通信機を使用し状況の説明を終えた。
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「ミラーさんですね?我々は、”調律協定”です」
調律協定は、”渡来人”により作られた魔術書を補完、管理する機関である。
その主な活動は、ありとあらゆる魔術書を採取し、保管し。自由と平等の元知識を広めることにある。
不穏なこの国の様な、異常を絶つのが私たちの仕事である。
だが、事態がいつから始まったのかは実際のところ定かではない。
爆発の様に広がった被害が、確実に例の事件が境なのは確かである。
ある日、我々が管理する世界図書館の本が盗まれた。
「一名の保護を確認。仮本部へ案内します。カフカ職員、お疲れ様です」
「やはり、修道院も怪しいと思われます。紙片の回収完了。その他の居酒屋の状況は逐一確認してください」
「了解しました。我が隊は、護衛任務を続けます」
敬礼と共に、対象を導きながら彼らは去った。
後に残された彼女に同情しながら、私はホットミルクに口を付けた。
確かな甘みと深みを実感し、静かな時間に耳を傾ける。
刈り取られた植物たちの残骸は、消える事も無くその場に残っている。
どうやらこの町を中心として、こうした化け物を量産しているようだ。その根元の一つはこの居酒屋であるが、それ以外でも活動を広めているらしい。
修道院。孤児院。
そう言った施設で、この種は蒔かれている。
切り取られた紙片と共に。
そして、確かな疑問が一つだけ。
奥の銃声が止み、駆け出した亭主は如何やら諦めたようだ。
足を打たれて動けなくなってしまった彼に、容赦ない尋問が下るだろう。
__数分後の無線からは、彼の悲鳴が聞こえる事を私は知っている。
「__おいしい」
私は、ぽつりと感想を吐いた。
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