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3章 依頼者《クライアント》
2話 魔法騎士団
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「ちっ……あの女余計なことしやがって」
その男――否、けばけばしい化粧をその端正な顔に施した――女装した軍人は訓練場のその様子を見て苦々しく吐き捨てた。
「せっかく、あたしのイスラーグの『絶対零度《アブソリュート・ゼロ》』が久々に拝めると思ったのに····台無しじゃない」
そういうとその男、いや女ーー魔法騎士団分団長『茨のアキラ』と呼ばれる地の拳闘魔法士アキラ・ブリトニー・ティリスリーは明らかに不満げに息を吐いた
「大体イスラーグはあの女に甘すぎるわよ。大体あたし達の邪魔をするのはあの女。もっと遠ざけてもいいものを……ああ!イライラする」
「仕方ないじゃん。団長とセシリアは元恋人だったんだから」
彼の隣で小さくそう言ったのは一際小柄なピンク髪のポニーテールの少女だった。
「あーあ、団長並みに魔法の才能があって魔力に満ち溢れてる殿方ほんと居ないよねー。私早く結婚しないとお母様にプレッシャーかけられまくりで嫌なんだけど」
彼女――魔法騎士団所属の時魔道士ルナ・シーグローヴは憂鬱な表情で訓練場を眺めた
「イスラーグはだめよ。あたしのもんなんだから」
そんな彼女に釘を刺すようにアキラは彼女を睨みつけた
「まさか、団長と結婚する気ないわよ。あの人、怖いもん」
そう言うとルナはクルっとバルコニーから背を向けた。
「私たち一族は魔法の才能豊かな殿方と結婚して女児を成さないと時の血が断絶する危機に瀕しているけど、流石に団長をモノにする勇気はないわ。ほんとセシリアさんはあんな人とよく恋人になれたもんよ。尊敬しちゃう」
ルナは希少属性《レアブラッド》である時の血――聞いた話によると時の血は女性にしか受け継がれず、血を絶やさないために適齢期の女子は花婿探しに余念がないらしい
おそらく、彼女が魔法騎士団に入ったのもそんな事情があってのことであろう
「あたしも女の子だったらイスラーグと付き合えたのかなあ·····」
アキラはその体格に似合わない乙女心丸出しで一言そう呟く。
それを聞いたルナは思わず吹き出し笑いをして一言言った。
「ティリスリー大尉。あなたは普通に男として生活したたらおそらく女子にはモテる人生だと――」
その一言にアキラはイラつきを顕にしながらルナを睨んだ。
「はあ?ふざけたこと言うんじゃなわよ。騎士団に婚活で入った女のくせに」
「婚活目当てって失礼ね!あなたに化粧は似合わないってありがたく忠告してあげているのに」
「あたしは好きでやってんのよ!あんたみたいな小娘に言われる筋合いはないわ」
「男のあんたがケバいお化粧したって団長は振り向かないわよー」
ルナの売り言葉にアキラは乗せられる様に怒りの色をどんどん強く出していく。
そして、アキラはその手をすっと彼女にかざすとその指先から薔薇の花が一輪咲いた
「あんた、これ以上言うとどうなるか分かってるの?」
ドスの効いた男の声でアキラはルナに一言そう言った。
だがルナは我関せずと言った様子で彼から背を向けその場を後にする
「やってみるならやってみなさいよ。無駄だから」
そう言った次の瞬間、アキラは指先に生えた薔薇を翻した。
次の瞬間、彼の足元から2本の太い茨が生えそして彼女の背中へと襲いかかった。
だがその攻撃は彼女には届くことは無かった
茨は彼女の背中を刺す寸で、ピタリと動きを止めていた。
「だから無駄って言ってるでしょ」
ルナは一言そう言うとちらっとアキラの方を振り返った
彼もまた時が止まったようにその場で制止したままだった
ルナはひょいっと場所を移動するとその指をパチンと鳴らした。
次の瞬間、アキラの茨は彼女がいた先程の場所に突き刺さった
「ほんと、厄介ね…時の血ってやつは……」
アキラは怒りと悔しさを顕にしながら一言言った。
時の血の魔血――攻撃魔法は一切使わない縛りのかわりに数々の補助魔法や付与魔法に特化した希少属性魔血。
その存在は魔法騎士団の中でもかなり稀有な存在だった。
「アキラ、私に魔法は絶対に当らないよ。それだけは念においてね」
挑発的な後輩の言い草にアキラはさらにイライラを募らせた
「ほんと、あんたムカつく――」
「だれがムカつくんだ?」
部屋の中に冷たく響きわたるその声
その声を聞いた瞬間、アキラのイライラは一気に吹き飛び目を輝かやかせた
「ああん!イスラーグいつ来たのー?」
アキラはその瞬間ほいほいとイスラーグの傍に寄った
イスラーグはそれを鬱陶しそうに避けるとそのまま執務椅子に座った
「ほんと最近の若い兵は使えない。君たちみたいな血気盛んさが羨ましいレベルだ」
アキラはイスラーグが一際イライラしていると感じた
あの訓練場のシゴキ具合だとその気持ちはかなり容易に感じ取れた。
「仕方ないわよねえ。ここ最近戦っていう戦がないからね。平和の御代も話によっちゃ考えものよね」
その一言を聞いたイスラーグにはある事がふと脳裏に過った。
まだ若い将校で過ぎなかった頃、立ち会った和平協定の席――それを主導したあの憎い男の背中を見ることしか出来なかった苦い思い出。
「僕は平和が憎い」
イスラーグは絞り出すようにその怨嗟を吐く
その迫力にいつも自分を慕うアキラでさえ何も言うことができなかった。
「何で、歴代の騎士団長の中で最も魔力が高い僕がこんな平和な御代の魔法騎士団を率いなければならない。そんなの魔法帝国にとって不幸でしかない」
イスラーグはただただ悔しかった。
戦争という活躍の場を奪われ平和な時代に魔法騎士団の団長になった自分。
あと10年生まれるのが早かったら間違いなく自分が帝国の英雄だったはず。
あの男――烈火の剣聖と呼ばれるあの男よりも自分が帝国の英雄になっていたはずなのに。
「ルナ」
イスラーグは一言彼女を呼んだ。
「アキラと話があるから出て行ってくれないか?」
その一言を聞いてルナは素直にその命令を飲みそのまま足早に部屋から出ていった。
彼女が出ていったのを見た途端、イスラーグは一言言った。
「昨日の暗殺任務の報告が聞きたい」
その一言にアキラは困ったように唸った
「そういえばアイツら昨日報告に来なかったわよね。まあ、夜会はぶっ潰せたし問題は無い――」
「今日の夜、僕の屋敷に彼らを向かさせてくれ」
そう言うとイスラーグは深いため息をついて執務机に手を組んだ
「彼らに紹介したい人間がいるからね」
その男――否、けばけばしい化粧をその端正な顔に施した――女装した軍人は訓練場のその様子を見て苦々しく吐き捨てた。
「せっかく、あたしのイスラーグの『絶対零度《アブソリュート・ゼロ》』が久々に拝めると思ったのに····台無しじゃない」
そういうとその男、いや女ーー魔法騎士団分団長『茨のアキラ』と呼ばれる地の拳闘魔法士アキラ・ブリトニー・ティリスリーは明らかに不満げに息を吐いた
「大体イスラーグはあの女に甘すぎるわよ。大体あたし達の邪魔をするのはあの女。もっと遠ざけてもいいものを……ああ!イライラする」
「仕方ないじゃん。団長とセシリアは元恋人だったんだから」
彼の隣で小さくそう言ったのは一際小柄なピンク髪のポニーテールの少女だった。
「あーあ、団長並みに魔法の才能があって魔力に満ち溢れてる殿方ほんと居ないよねー。私早く結婚しないとお母様にプレッシャーかけられまくりで嫌なんだけど」
彼女――魔法騎士団所属の時魔道士ルナ・シーグローヴは憂鬱な表情で訓練場を眺めた
「イスラーグはだめよ。あたしのもんなんだから」
そんな彼女に釘を刺すようにアキラは彼女を睨みつけた
「まさか、団長と結婚する気ないわよ。あの人、怖いもん」
そう言うとルナはクルっとバルコニーから背を向けた。
「私たち一族は魔法の才能豊かな殿方と結婚して女児を成さないと時の血が断絶する危機に瀕しているけど、流石に団長をモノにする勇気はないわ。ほんとセシリアさんはあんな人とよく恋人になれたもんよ。尊敬しちゃう」
ルナは希少属性《レアブラッド》である時の血――聞いた話によると時の血は女性にしか受け継がれず、血を絶やさないために適齢期の女子は花婿探しに余念がないらしい
おそらく、彼女が魔法騎士団に入ったのもそんな事情があってのことであろう
「あたしも女の子だったらイスラーグと付き合えたのかなあ·····」
アキラはその体格に似合わない乙女心丸出しで一言そう呟く。
それを聞いたルナは思わず吹き出し笑いをして一言言った。
「ティリスリー大尉。あなたは普通に男として生活したたらおそらく女子にはモテる人生だと――」
その一言にアキラはイラつきを顕にしながらルナを睨んだ。
「はあ?ふざけたこと言うんじゃなわよ。騎士団に婚活で入った女のくせに」
「婚活目当てって失礼ね!あなたに化粧は似合わないってありがたく忠告してあげているのに」
「あたしは好きでやってんのよ!あんたみたいな小娘に言われる筋合いはないわ」
「男のあんたがケバいお化粧したって団長は振り向かないわよー」
ルナの売り言葉にアキラは乗せられる様に怒りの色をどんどん強く出していく。
そして、アキラはその手をすっと彼女にかざすとその指先から薔薇の花が一輪咲いた
「あんた、これ以上言うとどうなるか分かってるの?」
ドスの効いた男の声でアキラはルナに一言そう言った。
だがルナは我関せずと言った様子で彼から背を向けその場を後にする
「やってみるならやってみなさいよ。無駄だから」
そう言った次の瞬間、アキラは指先に生えた薔薇を翻した。
次の瞬間、彼の足元から2本の太い茨が生えそして彼女の背中へと襲いかかった。
だがその攻撃は彼女には届くことは無かった
茨は彼女の背中を刺す寸で、ピタリと動きを止めていた。
「だから無駄って言ってるでしょ」
ルナは一言そう言うとちらっとアキラの方を振り返った
彼もまた時が止まったようにその場で制止したままだった
ルナはひょいっと場所を移動するとその指をパチンと鳴らした。
次の瞬間、アキラの茨は彼女がいた先程の場所に突き刺さった
「ほんと、厄介ね…時の血ってやつは……」
アキラは怒りと悔しさを顕にしながら一言言った。
時の血の魔血――攻撃魔法は一切使わない縛りのかわりに数々の補助魔法や付与魔法に特化した希少属性魔血。
その存在は魔法騎士団の中でもかなり稀有な存在だった。
「アキラ、私に魔法は絶対に当らないよ。それだけは念においてね」
挑発的な後輩の言い草にアキラはさらにイライラを募らせた
「ほんと、あんたムカつく――」
「だれがムカつくんだ?」
部屋の中に冷たく響きわたるその声
その声を聞いた瞬間、アキラのイライラは一気に吹き飛び目を輝かやかせた
「ああん!イスラーグいつ来たのー?」
アキラはその瞬間ほいほいとイスラーグの傍に寄った
イスラーグはそれを鬱陶しそうに避けるとそのまま執務椅子に座った
「ほんと最近の若い兵は使えない。君たちみたいな血気盛んさが羨ましいレベルだ」
アキラはイスラーグが一際イライラしていると感じた
あの訓練場のシゴキ具合だとその気持ちはかなり容易に感じ取れた。
「仕方ないわよねえ。ここ最近戦っていう戦がないからね。平和の御代も話によっちゃ考えものよね」
その一言を聞いたイスラーグにはある事がふと脳裏に過った。
まだ若い将校で過ぎなかった頃、立ち会った和平協定の席――それを主導したあの憎い男の背中を見ることしか出来なかった苦い思い出。
「僕は平和が憎い」
イスラーグは絞り出すようにその怨嗟を吐く
その迫力にいつも自分を慕うアキラでさえ何も言うことができなかった。
「何で、歴代の騎士団長の中で最も魔力が高い僕がこんな平和な御代の魔法騎士団を率いなければならない。そんなの魔法帝国にとって不幸でしかない」
イスラーグはただただ悔しかった。
戦争という活躍の場を奪われ平和な時代に魔法騎士団の団長になった自分。
あと10年生まれるのが早かったら間違いなく自分が帝国の英雄だったはず。
あの男――烈火の剣聖と呼ばれるあの男よりも自分が帝国の英雄になっていたはずなのに。
「ルナ」
イスラーグは一言彼女を呼んだ。
「アキラと話があるから出て行ってくれないか?」
その一言を聞いてルナは素直にその命令を飲みそのまま足早に部屋から出ていった。
彼女が出ていったのを見た途端、イスラーグは一言言った。
「昨日の暗殺任務の報告が聞きたい」
その一言にアキラは困ったように唸った
「そういえばアイツら昨日報告に来なかったわよね。まあ、夜会はぶっ潰せたし問題は無い――」
「今日の夜、僕の屋敷に彼らを向かさせてくれ」
そう言うとイスラーグは深いため息をついて執務机に手を組んだ
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