上 下
9 / 18
1章 大夜会狂想曲

8話 勝気なお嬢様

しおりを挟む
「ねえ、レヴィ…」
 入り組む迎賓館の裏廊下
 レヴィとザガロはその道を疾走しながら会話した
「これ、絶対迷子でしょ」
「うるさい!それくらい知ってる!」
  そう言うとレヴィはその足を止めずにザガロに一喝した。
  だが悔しいことに彼の指摘はあっている
 どういう訳かこの館の廊下は本当に入り組んでおりどこから外に出られるか疾走するたびに分からなくなってきている。
  しかも定期的に警備兵は襲いかかってくるし、それを対処してさらに逃げようとしたらまた方向感覚が麻痺していく。
  これじゃあ永遠に埒が明かない状況だ。
「ねえ、もうこの壁をぶち破っちゃえば?」
 ザガロは一言そう提案した。
 それを聞いてレヴィはふと足を止めた
「そうだな…たまにはお前もいい意見を言うな」
「たまにはっていつも通り辛辣だね」
 その言葉にザガロは苦笑いを浮かべた
「まあぶち壊すって事は君の得意分野だから、ぶちかましちゃって」
 その一言にレヴィは壁に向かってすっと手をかざしその掌に魔力を込め始めた――そんな時だった
 レヴィはその場に別の魔力反応を強く感じとった
 そしてそれとほぼ同時に彼は壁を壊すための攻撃魔法から魔術回避のための防御魔法に変更しそのまま自らの身体に魔障壁シールドを張った
 次の瞬間赤々とした紅蓮の炎が彼に襲いかかった
 新手か――
 レヴィはその火の魔法が飛んできたそちらを睨みつけた
 またどうせ新手の警備兵だろう。最初はそう思っていた
 だが彼らの目の前に現れたのは男臭い警備兵とは180度別の存在
 美しい黄色いドレスに身を包み、栗色の髪を優雅に結った、明らかに育ちのいい可憐なお嬢様が目の前で仁王立ちしていた。
「ちょっと、あなたたち……」
  彼女は怒気を込めて彼らを睨んだ
 不思議なことに見た目は高貴な生まれなのはひと目でわかるのだが、他の貴族とは違いその態度は驚くほど好戦的に見えた
「あなたたちが例の賊ね!」
  そう言うと彼女は掌に炎の魔力を込めた。
 そして目にも止まらぬ速さに火球をうち放った。
  レヴィはそれを冷静に防御魔法で対抗した。
  だが目の前のお嬢様は遠慮なしに更に多数の火球を放とうとしていた
「めんどくせえな……」
  レヴィはその様子に思わず舌打ちした。
 どう見てもまずい状況なのは変わりようがない。
 彼女を排除するしかこの状況は打破できないのかもしれない
「どうする?レヴィ」
  そう涼しそうな顔で言ったのはザガロだった。
「あの子殺さないと多分僕たちには勝ち目ないと思うけど…」
「それくらい分かってる」
  レヴィはイラついた様子でザガロを苦々しく見た
 だが彼の言うとおりなのかもしれない。
 あのお嬢様を排除しない限りこちらにとってはジリ貧だ。
「ほらほらー何もしてこないのなら終わらせちゃうわよ!」
 そう言うと勝気なお嬢様はさらに大きな火球の魔法を詠唱した。
 まずい――レヴィはそれを見て瞬時に同じように魔法を詠唱しだした。
 そして魔法は二人ほぼ同時に完成した。
豪炎球エクスプロージョン!」
豪炎球エクスプロージョン!」
  その瞬間赤い炎と黒い炎は目の前でぶつかりあった。
 否、それは相殺という状況とは到底言わなかった
  赤い炎と黒い炎は触れたその場でパチンと激しい閃光を上げ、大きな衝撃波を出したあと忽然と消えた
 彼女はその閃光と衝撃波で一瞬怯む
 その時だった。彼女の首からあるものがはらりと落ちた。
 カツンと音を出して廊下に落ち、そしてレヴィの足元に転げ落ちた
 それはペンダントトップであった。
 スピネルの宝玉に銀で宝飾された蜥蜴のような生き物が絡みついたデザインだった。
 レヴィは彼女の首からこぼれおちたペンダントトップに目が釘付けになっていた。
 彼にはそのペンダントトップに見覚えがあった
 だがそれはありえない話だ。なぜならそれは――
「ソフィア!下がって!」
 その瞬間、その場に別の軍靴の音が甲高く響いた
 彼女は白いマントを翻しながら跳躍しそしてその刃をレヴィにむかって翻した
 魔剣――魔法の刃を精製し扱う魔道具タリスマン
 彼女のそれは普通魔血の男子でも扱うのは難しいと言われる巨大な炎の刃だった。
 レヴィはその大きな刃をずっと後退しながら回避するとそのまま彼女睨みつけた
「リーザ!来たの?」
 ソフィアと呼ばれたお嬢様は安堵の表情を浮かべた
 リーザと呼ばれた白い騎士は両手剣型の魔剣を軽々と翻すとレヴィとザガロを睨みつけた
「お嬢様を傷つけるやつは絶対に許さない!」
 そう言ったリーザは有無を言わさずレヴィに踊りかかろうと地を蹴った――その時だった。
死屍ノ手デットマンハンド
  その瞬間廊下に無数の死霊の手が廊下一面に植物のように生えた
 そしてそれはリーザやソフィアの足首を強く掴み引っ張った。
「くそ…」
  リーザは悔しそうな顔をしてそれを睨んだ
  そこには右手を廊下に突き立てたザガロがニヤリと笑みを浮かべていた
 レヴィはチャンスはここしかないと確信した
 次の瞬間、その掌に魔力を込めた
 黒い炎は彼の手にまとわりつくように鈍く輝いた
爆炎イプシロン!」
 次の瞬間黒い炎は闇の閃光を放ち爆発四散した。
 だがその魔法は彼女たちを襲うことは無かった
  土煙と黒い炎の残り火が残る中、リーザは足元を抑えていた死霊がようやく地面に消えていくのを確信した
 そして、賊を逃がしてしまったという強い後悔が彼女の中を支配した。
「逃がしたか……」
 リーザは苦虫を噛み潰したように一言そういった
 土煙は次第に収まりその壁には大きな穴がぽっかり空いていた。
 そんなリーザを横目に、ソフィアはゆっくりと先程首から外れてしまったペンダントトップをゆっくりと拾った
 彼女は強い違和感を覚えていた
 何かと反応し合うように触れた瞬間消えてなくなった魔法、そして自分の――否、サランド公爵家の紋章を象ったペンダントトップを見て激しい動揺を見せた彼。
 何が何だか頭の中では全然整理がついてないけど、ソフィアにはあの暗殺者が何者か気になって仕方がなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈 
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

PEACE KEEPER

狐目ねつき
ファンタジー
「これは、運命に抗い世界を救った一人の少年の、一生を描いた物語である」 剣と魔術が栄える大陸、ワンダルシア。 増えすぎた魔神や魔物の脅威に対し人類は、都市の周りを巨大な壁で囲み生活を続けていた。 主人公の少年アウルは国王に代々仕える名門『ピースキーパー家』の生まれ。 彼は才能があるにも関わらず、毎日をだらだらと過ごし平々凡々な日常を送っていた。 軍へ仕えている親と兄弟は家には全く帰らずアウルは一人で暮らしていたのだが、そんなある日のこと。 2年ぶりに自宅へと兄が帰ってきたのだ。 そしてこの兄の帰宅こそが、少年の運命を激変させる――。 “全員が主人公といっても過言ではない” “単純なサクセスストーリーではおさまらない” “敵のおぞましさが伝わってくる” など、各方面から様々な有り難い寸評を頂いた、“群像劇風ダークファンタジー”となっております。 是非一度読んでみてください。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一
ファンタジー
タイトル変更しました→旧タイトル 「デッドエンドキングダム ~十五歳の魔剣使いは辺境から異世界統一を目指します~」 前世の記憶を持って生まれたオスカーは国王の落とし子だった。父の死によって十五歳で北の辺境王国の統治者になったオスカーは、炎を操る魔剣、現代日本の記憶、そしてなぜか生まれながらに持っていた【千里眼】の能力を駆使し、魔物の森や有翼人の国などを攻略していく。国内では水車を利用した温泉システム、再現可能な前世の料理、温室による農業、畜産業の発展、透視能力で地下鉱脈を探したりして文明改革を進めていく。 軍を使って周辺国を併合して、大臣たちと国内を豊かにし、夜はメイド達とムフフな毎日。 しかし、大陸中央では至る所で戦争が起こり、戦火は北までゆっくりと、確実に伸びてきていた。加えて感染するとグールになってしまう魔物も至る所で発生し……!? 雷を操るツンデレ娘魔人、氷を操るクール系女魔人、古代文明の殺戮機械人(女)など、可愛いけど危険な仲間と共に、戦乱の世を駆け抜ける! 登場人物が多いので結構サクサク進みます。気軽に読んで頂ければ幸いです。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

処理中です...