黒炎のレヴィ~武器として生きる少年は愛を知る

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1章 大夜会狂想曲

7話 烈火の剣聖

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 その日の夜会は妻に絶対に参加するようとにかく強く言われていた。
「いいですの?サランド公である貴方が顔を見せないと相手方にも迷惑かが駆りますし、私も…否、ソフィアの将来にも大きく左右しかねませんのよ。だから絶対に今日の夜会には顔を出して!これは約束ですからね!ケン!」
 それはいつものシエラの小言だと彼はいつもの様に聞き流していた。
 まあ、仕事が終わったあとに少しだけ顔を出す程度で許されるだろう。いつもの事だから
  魔法帝国有数の名門一族であるサランド公爵ケンヴィード・ゼファー・ティアマートはその日も少し夜が更け始めた頃にようやく例の夜会が行われている迎賓館に足を踏み入れた。
 どうせいつもの様にむせ返る様な煌びやかな社交界が繰り広げられているのだろう。
 そう思うとケンヴィードは少し気が重くなりそうになった。
 だが、今日はどこか様子が違っていた。
 妻シエラの言う特別な夜会なのは変わらないのだが、とにかくその場にいる魔血貴族たちの態度がいつもとは全然違う
 彼らは恐怖と焦りでとにかく浮き足立っていたのだ
「一体何があったんだ?――」
  ケンヴィードが訝しげに大広間を眺めているとその傍らに一人の白い女騎士がすっと影のように寄り添った。
「ケンヴィード様…」
  彼女、ケンヴィードの近衛兵であるリーザ・オノリコは声を潜めて彼に一言報告した
「どうやらこの会場に賊が入ったようです。現にレイヴロン子爵様が殺られてしまったようです」
 リーザのその一言にケンヴィードは表情一つ変えずにひとつ返した
「そうか…」
 そう言うとケンヴィードは表情ひとつかえず冷静に言った
 だがその態度に近衛兵リーザはすこし何か言いたげな顔で視線を逸らした
「相手側は一体何を考えているのでしょう」
 その言葉には少しだけ彼女の怒りが覗いていた
 その答えにケンヴィードは淡々と答えた
「決まってる。相手はこの夜会をぶっ潰したかっただけだ」
「でも、なんで…」
「まあ、あいつならやりかねないな」
 その一言を聞いてリーザの顔が一気に曇る。
 彼はこの騒動の黒幕を一瞬で理解し、そして一瞬で嫌悪した
「まあ此方としても犠牲者を出してしまったわけだし黙って見てるわけも行かないな――」
「ちょっと、ケン!」
  その瞬間、彼の前に華やかな黒いドレスを着た淑女が怒り心頭でやってきた
 ケンヴィードの妻シエラだった。
「今何時だと思ってらっしゃるの?もう始まって3時間は経ってますのよ!遅いわよ!遅すぎですわ!」
 シエラの怒りは止まらない
 周囲など気にしてないかのように一気にまくしたててきた
「今日のこの夜会がどういう立ち位置にあるかあなたは全然理解してない!言いましたよねソフィアの将来がかかってるって。今日ソフィアは婚約を発表するはずでしたのよ!なのに貴方は――!」
「シエラ。わかったから――すこし落ち着け」
  ケンヴィードの宥める声もシエラにはないも伝わらなかった。
 シエラは持っていた檜扇をパチンパチンと鳴らしながらさらにケンヴィードを追い詰めた
「それに貴方くらいの帝国の英雄がこの場にいれば賊なんて一網打尽でしたでしょうね。レイヴロン子爵も死ななくてもよかったかもしれませんね。とにかくあなたが大遅刻したせいですべて台無しよ!」
 いつまでも続く妻の悪態にケンヴィードは呆れたように小さくため息をついた
 もうこうなれば何を言っても無駄である
 彼女の怒りが通り過ぎるまでずっと言わせておくのが一番の対処法だった。
 そんな時、予想外の声が彼らの前に割って入った。
「あのぅ…」
 気弱でかき消されそうなその声に怒り心頭の シエラは口撃を一瞬停めた
 そこには不安げにこちらを見つめているシルフィア伯爵家の次男坊ジェイナス・エアグレイスが立っていた
「シエラ姉さん。ソフィアを見なかったかなあ?」
「え…」
  その一言にシエラはハッとした様子で言った
「見なかったって……あなたが傍にいたんじゃないの?」
「そんな…だってソフィア、外の空気を吸いに行くって部屋を出てって――」
  その言葉を聞いて一同の血の気が一気に引いていく。
 まさかだが、あの血の気の多い勝気な娘だ。最悪のシナリオさえも過ぎったのだ
「ちょっとケン!」
 その瞬間シエラはケンヴィードの裾を掴むと威圧するような目で言った
「ソフィアを絶対に探してきて!賊は絶対あの子を狙うわ!あなたの天下無双の剣で一刀両断しちゃって頂戴ま!今すぐ!わかった!?」
 そう言うとシエラは檜扇で彼の背中を強く叩いた
 ケンヴィードはすこし苦笑いを浮かべたが直ぐにその表情を険しいものにする
 そして傍らに控えるリーザに目で合図し、彼女は白いマントを翻しながらそのまま踵を返した。
「めんどくさいことになったものだな」
  ケンヴィードは一言そう呟くとその真紅の瞳を険しく光らせた
「――この仮はいつか返させてもらうぞ、イスラーグ」
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