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第22章 勇者大下の冒険

第1018話 魔法があるなら魔法的交渉術もあっていい

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「井原すまないのじゃ。」
「いやいい。」
 交渉終了後、二人は田園地帯に戻りお茶を飲んでいた。
「あれでは人望はないな。…そして作戦は成功だ。」
「うむ、儂の慧眼でさえ騙されたからのぉ。流石幻のファクターじゃ。」
 本来…リューネとドランと話し合いをするときは口答えなんてできない。そして、無意識でも従う方向に思考が誘導されるのもわかっていた。が”反逆されかねない”命令にだけは
逆らえる…とはいっても実は…リューネとドランはこっちでは初対面だ。だから考えた作戦は”私が変化結晶を使って変身の一部をドランと入れ替えドランがイエローに変化する。”である。実際ドランはそのプレッシャーに一言も話せなかった。命令権ゆえだ。これが命令権と相対する事かと思った。
「とはいえ、リューネの上…。命令に妄信的に迄従順だな。」
「それは思ったのじゃ。あの性格でそれとは思わんかったのじゃ。」
 ドランにさせたのは観察と…反抗だ。口に出さなくていい。実際ドランと言われた名前はあるが、向きは違っていたので…命令権の影響は薄かった。薄いだけで…聞いたはなしだ。
「あれが命令権・・・儂が膝をついたら…もう二度と立ち上がれないのじゃ。」
「実際威圧もある…魔王としての能力もあるっぽい…その上で…ステータス差もある。考えるより…命令権が絶対だったことに驚いたな。」
 これにより王種の戦略的価値が理解できる。この数の保有は絶対だろう。
「という事は…続行でいいな。」
「頼むのじゃ。儂は歓迎用ダンジョンと…リンベルトとやらを出迎えるのに全力を尽くさせてもらうのじゃ。」
「後、リンベルトの詳細が、届いた。こんな感じだ。」

 リンベルトはホワルカナン宰相派の領域…西部の寒村に住む男爵の一族だ。ホワルカナンでの男爵は宰相派のトップである西の公爵の任命だ。まあ、実は男爵とかこの辺が地味にわかりづらいのだが、男爵は村長に与えられ、子爵は町長に与えられる。侯爵は中央が任命し”都市”及び一地方を統括する。そしてその上の公爵は4人・・・東西南北の4名のみだ。その方角を担当する。そして南は”親衛隊隊長”である。後は東の軍務卿と西の財務卿となっている。なお今の宰相は徳永の専横によりこれらの枠外の柳田が成っている。ただし…南の部族出身という建前で最前線を担っているからこその優遇策だと言っている。又南は王都周辺なので、その辺がパンダのメイン領域だ。がそれ以外は実はあまり仲がよろしくない。南の”亜人と手を組んででも南伐推進”派と東の”人族のみでの統一”、西は…そのすきに離脱を狙うが…失敗した形だ。というのも宰相的に言って、知略は…柳田に劣るというのが現在の…軍関係者の意見だ。柳田とその一派が来て以来統率が取れ、魔法という謎技術も手に入り…連戦連勝だ。防衛だけとはいえ…いずれ兵力がたまれば南伐できる。その時に戦う兵力も温存できる、東とか西の連中への風当たりは強い。
 まあこれだけ聞くと東も西も大したトップではない。が問題はリンベルトはその中で、西側として宰相派の責任を男爵クラスの”反逆”だとして、王妃派に寝返ったのだ。その反逆者の中にリンベルトの家族のいる村も含まれていた・・・単純に言って自分の保身に部下を使った形だ。その代わりの和平・・を提示した。柳田は思ったに違いない。処断すべきだと。でも処断すれば西側が従うのかというと難しい。それが…この国の一つの欠点である”広大過ぎる黒土”だ。ホワルカナンの大陸と大森林の接する横幅は…測定したこともないが…フォレスタ大陸の黄金街道の全長より長く、国土だけなら、ザガートン、リラシルト、草原同盟の9国を統べて足した領土より国土が広い。多くが山林であるが、穀倉地帯も広く北部単体でもリラシルトの領土の2,5倍であり、これが住むことが可能な領域の差だと、10倍以上…フォレスタ北部の方が広い。
 そんな巨大国家だ。現代で言う…中国とロシアを足して少しちょっと小さくした位の領土というと分かりやすいだろうか。それ位広い。当然東部も西部もだ。となると兵やその他の損失以外に統治機構が空位になる時間的リスクまである。切れば当然…独立に近い事が西部の西端周辺で起こると考えられる。しかもその辺にはスキュラが領域を持っている。…名実ともにスキュラに西部を取られるくらいならまだパンダ同好会で調節が効く減宰相はトップの方が好都合なのだ。なので切れない。その上宰相派を潰すことは出来ない。がだから取って連中の逃げの一手である男爵たちを切った場合…東の連中が”人族の命を軽視した”と言って反逆の芽にしかねない。あほらしいかもしれないが。微妙なバランスの上に…勇者の生まれた村は立っていた。柳田としてもその為に”不問にする”という事にするつもりだったが、ここで出てきたのが”勇者”というギルド側に譲歩を迫れる駒だ。煮ても塩漬けにしてもダメな案件がここで生き返る。この件を盾にリンベルトの行動を制限して、自分の手ごまにするようだ。どうも、借金を設定させそれに返済をさせるつもりだ。…せこい。だがこれは結構経済的”常套句”の一つで借金を捏造させてでも作り、払わせることで、こっちに損失亡く相手をゲットするという手である。
「ふむ・・・・これは…柳田はよっぽど…低く見積もってるのかのぉ?」
「いや、見つかっていないと思っているのだ。大方な。一応鳥海からは、こういう時は”借金の借り換え”で買収可能だと判断を貰っている。が…分かるな。」
「大方向こうがそれを望んでいないのじゃ。妨害してくるはずじゃ。」
「それともう一つ、問題がある、」
「なんなのじゃ?」
「リンベルトには従者がいないんだ。正確には一人しかいない。」
「え?」
「どうもお付きのメイドさんだけだ。それ以外は従者がいない。だからあと5枠余ってる。大方ギルドの監視員枠以外…全くのフリーだ。」
 勇者については…地味に強さの桁もあり、
「それはどうなのじゃ?」
「戦闘スタイルは勇者が後列、そしてメイドさんが前列だ。それ位だな。」
「ふむ、、、典型的貴族の戦い方かのぉ?」
「そうと考えてもいいが、その考え方は無いとみてる、」
「とすると…ねじ込む隙間はあるのかのぉ。」
「あるというのが私の意見だ。ただ勇者にはダンマス的利点もある。魔力とかが大規模な分。大下の時もそうだが…収益多いんだ。だから…。」
「誘導か…信頼を得るまでにかかりそうなのじゃ。」
「それにだ、大方…切り札がある程度効くことが分かるだけでも…連中はゴリ押してくるはずだ。」
「…あまり好かんのぉ。ただ…。」
「そうだ、だからこそ、取れる、と判断している。」
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