魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”

第１７章 ドランの領地視察旅

第６７９話 待ち人が来たのじゃ

　そして商人さんには、後で各地の開拓民の村々の地図と打ち合わせに使える支店の”村”の位置を聞き出すことになった。金で払えと言われても、今の価値でゴーレム車”２台”の値段は、計り知れない。そこでいくつか便宜と、提案の実行で払う事で決着した。但し即金で用意できるはずもなく、その為にその代わりの提案を一つ、後ですることになった。金でない理由は…ドラン自体が金に困っていない事と向こうが払う金額で最初提示された金額はこの店の一年分の利益に匹敵する内容だったからだ。向こうからすれば、ギルドと言われる南部の力の一端を持ち当然今後重要となる重要人物を抱え込みたい考えがあったのだろうがそれでもこれがなくなれば当然この店は経ちいかないだろう、何よりこの世界にはその無くなった金額を補填できる”銀行”や”抵当”という概念があるとは思えない。そのため商売は備えでいっぱいである、そうなると、その金額を奪えばどうなるか…理解できるのである、
「でもどうするかのぉ。」
　布団に転がり、天井を睨む。２週間ほどゴーレム車の納入などの手続きでとどまらないといけないためなのと、ドランからして便宜の内容を考えないといけない。あの村の為になるのはやってやりたいが、この世界は盗賊とかがいる、目立った開拓村は当然盗賊に狙われやすい、警備は入れてあるが襲われない方が大事だ。そうなると、人の流入が増えそうなお願や便宜はだめだ。そしてもう一つはこの町の大商人に便宜を図ってもらうというのも問題だ。というより、してもらう事もない。パンの技術さえない麦粥の町。塩は高くてまずい、材木程度なら、ダンジョンでは気温一定なので、建築の必要もない。言うなら、欲しいものがないのだ。
「悩むのぉ、あんな貴族に食い込むのはごめんじゃ、むしろ儂が胃痛で死んでしまう。」
「こんこん。」
「なんじゃ？」
　木の戸を叩く音と共に何故か声まで聞こえてくる。さっきの商人か？
「今開けるのじゃ。」
　ドアを開けた瞬間何者かがふと…。
「ぐぇ！」
　懐に入り込み腕額に食い込み、そのまま胴体が浮き上げる、そしてそのまま布団まで突っ込まれる、
「何者！」
「…マシュター。」
　鳴き声のままのどに当たった腕と首元からの声で振り返ってみると、そこにはイエローの姿があった。
「おかえりなさいませ。」
　遠くからは落ち着いた声。ブラックだろう。ドランの配下”ドラゴンレンジャー”の５人だ。レッド、ブルー、イエロー。ピンク、ブラックの５人がいる、うち目立たないことが売りの地味な男性がブラック。そしてボケ担当の…。
「少し喉が！」
　どうも飛びついてきたのはイエローのようだ。声を聞くとギャン泣きに聞こえる、…そこまでか。
「…マスター。できれば、イエローはずっと強がっています。そのままでいてやってください。」
　さて、ここからが忙しくなりそうなのだが。

　一応すぐに周囲に静音の魔法を周囲に張った。俗にいう音声の”逆位相“発生させ音声を消す魔法であり、ひそひそ話には有効な魔法だ。井原が言うにはこれを強化すると、風魔法は全部防げるそうだが。問題は範囲で、最大でも球型の最大２mの範囲で、この範囲は変更できない。その為自分一人が限界という魔法だが…こういう泣いているときはこれでいいのだろう、そしてこれにはもう一個の欠点がある、それが”周囲の音を自分含め遮断する。”ことと”移動出来ない上に地面以外の障害物が消音フィールドが触れてはいけない。”ことである、一番目は当然逆位相の音声波で音を消す関係上、こっちの音も逆位相で消すらしい。当然、消音内部から外への音声も不可能だ。そして２番目は、この魔法の防御態勢による欠点の最大だ。フィールド内に俗にいう”微振動”を発生させる。その観点で、移動すると、その微振動が周囲の物体（地面含む）にこすれ耳障りが雑音が周囲に響き渡るのだ。その為、最初の範囲を移動すると逆に雑音だらけになる、なので移動できない。
「…ま、マスター。」
「いいのじゃ、儂も迷惑かけたからの。」
「うぁぁぁぁー！」
「イエロー。ちょっと待つのじゃ、鼻水はないのじゃ、なするでない。」
　顔を抱きついたそのままでそのぬるぬるとした感触に、しばらく耐えるしかなった。