魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”

どたぬき

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第11章 出向社員的ダンジョンマスター

第424話 砂海渡り 結局頼れるものは頼るしかない。

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 次の日になると、会議は紛糾した。
「そっちの事情で急げるか!」
 開口一番黒川が怒鳴り返す、流石に二日は無理と判断しての8家であったが、それでもこの砂漠、結構大きいので普通の徒歩で1月、キャラバン隊で3週間だった。
「待て、魔人。確かに我々も急ぐべきだと思う。その予選会に間に合わなければ参加もできないんだぞ?」
「いや…確かに…。」
「その通りです、兄上。ただ、我々はもう亜人から敵対で目をつけられている身。その辺も考えませんと。」
「分かっている、ナギサ。だからこそ、作戦の時間も欲しい。となると急いでここを渡り、潜り込む必要がある。なら急ぐべきだ。」
 月下は乗り気だが、黒川は乗る気ではない。その理由が、貸しの数だ。このままタミさんの背中に載せてもらう話を、しかも今回は無理を言って来てもらっている。なので本来義理はない。そうなると後日の返済が怖い。こういう時の只ほど怖いものはない。
「確かに、ちょっと待つ駄、連絡してみるっぺ。」
 一応タミさんのダークボックスは所属のダンジョンとも連携可能で、そこに声を伝える事でサンテと連絡が可能だ。
「でも急げるなら。」
「月下の、払えるか?こいつを顎で使う金を。」
「あ…。」
 全員が失念していた。タミさんは千鳥万花の配下であり、利害関係的には何の関係もない女性である。最悪このグループを離れ逃げ去ってもいい。ただ、温情でのみここにとどまっているのだ。
「その件も含めての話だべ。…ちょうど来たっぺ。」
「それで?」
「ファクターコイン、一種類につき一人。それで受けるそうだべ。又今までの分も一回の依頼料に月1種類のコイン。だべ。月下が1枚。魔人が4枚目だべ。あとはここから運ぶにはそれだけ欲しいっぺ。ただし、おらに影を張り付けた移動はノーカンだべ。」
 その言葉に、魔人同盟が活気づく。魔人側はほとんどが闇魔法を買い付け、今回のメンバー全員が闇魔法のレベル4を持っていた。ダークボックスの為だ。それが功を奏した形となったが、月下側の顔色は悪い。聞く側もわかっている、足元を見た商売だと。
「んだばどうするっぺ。」
「私たちは影に貼り付け、そっちの移動に任せる。4枚は到着時の成功報酬で払う。いいな。」
 黒川側は、今回の件でこの程度の損害で済むのならと頷いた。本来は一人2000万DP前後の非常に高価な取引なのだが、このファクターコインの怖さは価値を理解できないという事にある。召喚コストを一回だけ10分の1にする。これだけなのだが、普通の召喚では数万が上限で数千万にたどり着くことが無い。また、大量のファクターコインをあつめ相性のいいコインを持たないと、”進化”にたどり着かない。その為、普通の運営法をしていて、ゴブリンやオーガ、魔人などを主体としている限り、こういうレアモンスターにたどり付きにくい設計になっていた。そして魔人同盟はその穴にどっぷりはまっており、コインの価値を数万から数十万だと過小評価してしまったのだ。
「毎度ありがとうございますだべ。」
 この承諾に…。月下もあせる。このまま放置されては困る。が闇魔法は手持ちに無い。それが痛手なのだ。
「すまない、さすがに…。」
「分かった、月光。俺たち4人は引き下がる。それに傭兵で稼がないといけないだろ。後…。」
「すまないな。」
「どういう事だべ?」
「ああ、私と妹のナギサ、2名だけ連れて行ってくれ。」
 この話の速さに…さすがに奥原も…タミさんも驚いた。あまりに早い戦略的決断だった。
「私のもつ”武”のファクターと、もう一つは”暗”でいいな。」
 損切の速さはそのまま相手の頭の良さを示す。
「確かに、二言はないだべ。んば、ちょっと通路の準備してから行くっぺ。あと、奥原たちは…。」
「私と、陽華。が何とかするわ。それに飯垣も。」
「最近取得したからな。闇魔法、それを張り付けさせてもらう。」
「んだで、お二人連れて行ってくるだよ、ただし数日かかるだ。それは分かって欲しいだ。」
「了解した。」
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