魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”

第１１章 出向社員的ダンジョンマスター

第３９１話 あらぬ方向からのアプローチが全く予想外を生むことは多いです。

「…ありがとうございます。」
「ヒールライト。」
　ミレイの傷を…ヒールライトで直していく、軽症ならこのヒールライトで十分直る。
「が、勇者も月下も、何で守らねえんだよ。」
　いつもの冷静な黒川ではなく、砕けた感じの口調になっていた。
「いや、来た時にはもうこうだった。が村人もな。」
「総長、落ち着いてください。冷静に…冷静にです。」
　黒川が、主導して革命を起こしても宰相としてサブに甘んじた理由がこれだった。自分の正義感を振りかざし、喧嘩を吹っかけてしまう性格があった。一般市民としての考えがあるので、一時の我慢はまだできるがそれが原因で、魔王国の裏社会を牛耳る闇社会のボスとしての地位は失い、表で戦闘する羽目になった。そのことを猛省し黒川自身は表ではレジスタンスリーダーにトップを譲り、参謀の地位についていだ。自分がトップだと見さかいのない判断をしかねないからだ。
「すいません。」
「…すまねえ。俺が悪い。すまねえ。」
　そして、黒川はみんなの前で土下座した。
「いいだよ、あの空気じゃ、おらは物売る気にならねえべ、」
　その様子を見ていたミレイの頬に急に涙がこぼれていた。
「…あの、すいません。あなた、黒川虎二と言いませんか？｝
「え？」
　全員がミレイの顔を見る。
「…美玖という名前に聞き覚えは…ありませんか？」
「なんで…。」
「私…前世の記憶があるんです。それで昔の名前が、黒川美玖と申します。」
「…美玖！」
　黒川がギュっと美玖を抱きしめる。
「お父さん？」
　そのまま二人は抱き着いていた。
「どういう事だ？」
「良く分かんねえべ。」
「これ。」
　音無が配ったのは、アイテム艦艇用の”鑑定モノクル”だった。
「あ…。」
　そこにあったのは”黒川美玖”の文字だった。そして”異世界”の文字である。
「…これ………。」
「可能性あるわね。」
「どういう事だ？｝
「あんた達よ。」
　月下を睨み、奥原が答える。
「噂があるのよ。この異世界に来ているのは、ある”飛行機事故”の被害者だと。どうも全員ある飛行機に乗っていた記憶があるのよ。となると私は修学旅行だったから友達が、陽華はパパやママがいる可能性があるのよ。」
「でも…。」
「そう、生まれる時期はまばら。ただ、あなた達や、これを見ると、あながち嘘とも言い難いのよね。家族がいる可能性。」
　当然飛行機に乗っていたという条件でではあるが、肉親に会える可能性がある。が、当然すれ違う可能性もある。が…。
「どうして…。ここに？」
　とはいえ彼女はミレイという名前と家族もいた。今は半ば誘拐みたいな形でどさくさに紛れて引き連れてしまったが。これは今までの勇者たちの”召喚パターン”や”ダンマスパターン”とも違う。
「どうも、転生パターンがあるっぽいのよね。」
「え？」
「勇者もか？」
「分からない。ただ、この世界のどこかにはこうした”転生”とか別パターンもあるんじゃないかな。」
「…勇者に家族…。」
　月下たちも色々思考の海に入りつつあった。そう、これがこの先ある意味方針転換となる爆弾だったからだ。