上 下
329 / 1,270
第9章 よそのダンマス求めて300里

第328話 交渉は時として冷たく当たらないと儲けが出ません。

しおりを挟む
  何事もなく、次の日となり、そして、ゴザを引いた露天に人は集まる。脇にはちゃんとシードルの樽がある。便でない理由は単純で瓶が開発されていないからだ。勇者大陸ではポーションは加工された”木の水筒”に入っており、これは聖女水も、飲み物も一緒。区別用に木にマークや文字が付いている。場所によっては紙でマーキングされており、他の大陸では飲み物があるだけで、それも、木を加工した器が多い。鉄や銅はまだ出回り始めたばっかりでしかも鉄に不純物が多く鋼鉄は山岳同盟の抱える”特産品”だ。銀や金はそれなりに…あると思う。
「皆さん、欲しいのはあるだか?」
 この時代娯楽はなく、時折来る行商人はそれ自体が娯楽であり、村での大イベントの一つだ。
「このシードルというのは?」
「うちらの飲み物でいいなら開けるだ。これどうだべ?」
 そう言うと、馬車から。奥原と陽華の二人が、木の板に載せ、木の器に並々とシードルを注ぎ、持ってくる。
「いいのか?」
「一人一杯だべ。たくさん飲まれると、売るもんがなくなるだ。」
 ただ、警戒してか、数人だけが、飲み物を受け取る、体格を見ると、かなり恰幅のいい男性が多い。
「ん!これは!」
 その言葉に数人の…顔に全員が注目する。
「どうだ?」
「甘いな。しかもさっぱりする。かなり上質な酒だな。」
「んだよ、うまくて腰が蕩ける、甘い酒だ。女も飲めば股を開く旨さだべ。胴だ、飲んでみるか?」
「いくらだ?」
「一樽、金貨2枚だべ、この旨さ、領主に献上してもおかしくないべ。」
 その場で全員の手が止まる。横に置かれた樽の大きさはそこまで大きい物ではなく、40㎏とかの1/4バレルほどの大きさで、そこまで大きくない。
「どうにかならんか?」
 囲みの中から老人が一人。前に出る。
「んだば、これを漬けこんだ木の実も高いべ。」
「銀貨40.だな。出せるのは。」
「商売にもならんべ、怒られるべ、」
「60.」
「元は領主にも出せるものを…それにみんなの顔を見てみるべ。」
 実はこれも…見世物として人気なのだ。ニンフたちの報告によるとこういう”値引き合戦”も店舗ではときどき行われる交渉という”ショー”だ。少し高めに値段を張り、それを安くさせる事で、買った側も、売った側も器量を魅せる事ができる、売る側は値引いてやったって事で。買った側は、みんなの為に交渉したという名誉が残る。その為
この時の会話の。面白さや返し言葉を楽しむという文化があるんだそうだ。その為、ニンフやキューピットたちから聞き出し、練習した。このためにタミさんは三日の準備期間を練習に使った。
「65.わしも飲みたいが、それをいくつも飲めないじゃあ、価値もない。」
「んだば…。第一どれだけほしいだよ?」
 そして、公証人のおじいさんが周りを見渡すと、数人が手を上げる。
「8じゃ。」
 少し多めの数を見積もる。
「んだば…。合わせで10でどうだか?」
 周りの顔は難色を示している。
「一樽70の5枚と銀貨60.が、6で。」
「…現金あるべか?」
 金貨は中世ファンタジーでは一枚村の中にあれば御の字の物だ。金貨5枚と言えば大金で、情報が知られれば村が襲われかねない大金だった。
「…ぐ…。」
 苦い顔をして顔を下げる。ただ、そこまでして買う価値があると思っているのだろう…。
「鬼じゃないべ、買取もするべ。9でどうだべ?」
「8で手を打とう。」
 シードル8樽が金貨9枚。4割近い割引だが。これでも想定より少し高めに売れている。
「後誰かあるべか?ないなら、お題を貰うべ、」
 ただ、こういう商売で一番時間がかかるのがこうした”現物が絡む清算”だ。ここから9枚になるように金貨、銀貨等を村からかき集め、道具を持ち込む。こうして集めた道具を次の町までに目利きして値付けをして売りながら旅をするのが”行商人”なのだ。但しここではもう観客はいないので値引き交渉は行われない。なぜなら最後に翻して
売ってもらえない。これが一番困るからだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

あの味噌汁の温かさ、焼き魚の香り、醤油を使った味付け——異世界で故郷の味をもとめてつきすすむ!

ねむたん
ファンタジー
私は砂漠の町で家族と一緒に暮らしていた。そのうち前世のある記憶が蘇る。あの日本の味。温かい味噌汁、焼き魚、醤油で整えた料理——すべてが懐かしくて、恋しくてたまらなかった。 私はその気持ちを家族に打ち明けた。前世の記憶を持っていること、そして何より、あの日本の食文化が恋しいことを。家族は私の決意を理解し、旅立ちを応援してくれた。私は幼馴染のカリムと共に、異国の地で新しい食材や文化を探しに行くことに。

かつて最弱だった魔獣4匹は、最強の頂きまで上り詰めたので同窓会をするようです。

カモミール
ファンタジー
「最強になったらまた会おう」 かつて親友だったスライム、蜘蛛、鳥、ドラゴン、 4匹は最弱ランクのモンスターは、 強さを求めて別々に旅に出る。 そして13年後、 最強になり、魔獣四王と恐れられるようになった彼女ら は再び集う。 しかし、それは世界中の人々にとって脅威だった。 世間は4匹が好き勝手楽しむ度に 世界の危機と勘違いをしてしまうようで・・・? *不定期更新です。 *スピンオフ(完結済み) ヴァイロン家の少女が探す夢の続き~名家から追放された天才女騎士が最強の冒険者を目指すまでの物語~ 掲載中です。

処理中です...