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第3章 マルワール帝国のダンジョンマスター

第138話 男には為さねばならないことがある

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 決闘に出たモアレは皮の鎧一つ。そして武器は持っていない。相手を傷つけないためだ。当然グルドーは大理石の剣を持ち皮鎧を着てフル武装で目の前に立つ、
「貴様が軍団なぞ認められぬ。儂と一緒なぞな。」
 血走るグルドーにモアレの目線も冷たい。当然である、モアレは素手。その上魔法による攻撃は禁止。グルドーが剣を構えている。当然のごとく…真剣である。
「弓がダメで、剣もダメだっけ?」
「当たり前だ、王命により私を傷つけてならないなら、そのまま切られて死ね。」
「そっちも傷つけちゃいけないんじゃ?」
「私の方は事故だ。剣だからな。」
 この時に実は”摸擬戦専用武器”という概念はない。日本においても”袋竹刀”が出るまでは木刀等で傷をつけない鞘付きで殴ったりする方が普通で、訓練による死傷者も
絶えなかった。その為軍隊は平穏でいるだけで死傷者が出る事になっていた。この訓練という名の”殺人免罪符”こそ軍隊の増長の原因でもあった。
「初め!」
 王の掛け声とともにグルドーが飛び掛かる…。
「ウォール!」
 いきなり出現したのは土の壁だった。いきなり目の前に出現した壁に勢いよくぶち当たる。が、それで終わらなかった。そのまま土変化で土壁を作り、相手を密閉した。
「これでよろしいですか?」
「よろしい…すごいな…。」
 またも片膝を作モアレに貴族たちの顔も青い。グルドーはこう見えて帝国一の剣士でもあった。それが子供をあしらうように、武器さえ持たない環境で買ってしまったのだ。
「では正式にお前を第5軍団長と認める!」
 全員が拍手する。これにはもう否定はできなかった。
「さて、すまないがグルドーを解放してもらえるか?」
「分かりました。」
 グルドーが土の檻から出てくると、走って膝をついたモアレに飛び掛かる。
「死ねぇ!」
 が、モアレはそのまま今度は弦の鞭でグルドーの体をとらえる。憑依には憑依した者、された者が独自に動くことのできる”自律憑依”という機能がある。それを使い、
タミさんのほうが拘束したのだ。
「グルドー!」
 流石の王も怒鳴りつける。
「王よ!このような得体の知れない者を軍団長にしてはなりませぬ!」
「私の決定に逆らうか!」
「王よ!忠告をお聞きください。できればそこで即刻殺すべきです!」
「我らに忠誠を示すのにか!」
「我ら第一軍団がいれば、すべて用足ります!そのような第5軍団などという得体の知れない軍団はいらないのです!」
「配下もいないのにか!」
 流石にこれには会場の空気の温度も下がっていった。全員分かってはいたのだ。大方第一軍団長は自分の地位に不安があったのだ、だからと言って就任式に来た兵士にしかも数か月前からの決定を覆して処刑しろというのは、道理が通らないのだ。
「我らを思えば、いや、国を支えた者を思えばこそ!そのものの血で我らを祝福し…。」
 が、王からすれば、感覚が違う。井原は鳥海と一緒の強大な魔法使いである。それに頼み込んで国に協力してもらうために城も作り直してもらい、しかも料理も国中を周り用意してもらい、大成功に近い成功を提供してもらった大取引先である。その部下の一部を取り込むこと、しかも戦闘力の高い即戦力を配置してもらえるのだ。それを切り落とすなんて、帝国の滅亡と同異議である。しかもこの新年の集まりの為に数か月を擁しいかに相手の功績を認めさせ、取り込むか会議してきたのだ。当然第一軍団長とも数十回の会議を行っている。
「グルドー。」
 落ち着いた王の声が会場中に響く。
「余は会議でもちゃんとこのものを迎える話をしたよな?」
「我々は反対しました。そんな若輩者はいらないと。」
「その上で迎えると言ったよな?」
「いいえ、王よ!試練に合格すればこそです、剣の戦いにおいて…。」
「その剣で、素手である物に負けてか?」
「あんなものは戦いに入りません、むしろ面妖な技を使ったのです、これは王の神聖な意思を汚す、重大な違反。」
 もはやそれは言い訳としか聞こえなかった。
「もう一度言う、王の決定に逆らうのか?王命に逆らうのか?グルドーよ?」
「王!」
 王が剣を抜く。
「もう一度聞く。私はお前をこのままだと処断しなくてはならない。王の権威が汚されるからだ。分かるな?」
「王よ!」
「…兵士たちよ、グルドーを連れていけ。」
 兵士たちがグルドーを囲うと蔓の鞭を解除した。
「まだだ!」
 その兵士たちが今度はモアレたちを襲おうとしたが、今度もまた…全員が弦の鞭にとらわれる。
「王よ、愚かな王よ、こんな女を従えるなぞ、情婦を抱えると一緒。我が忠志よ王を皆殺しに…。」
 警備の兵士多たちが切りかかろうとするが…。今度は風の壁が兵士たちを遮る。大方鳥海と、その部下たちだろう。
「…言ったよな?王命に逆らうなら処断しなければならない。しかもお前は命を狙った。」
「王よ、我ら貴族を愛するなら当然重視して…あの者を…。」
 王が手を上げる、
「王をないがしろにするなら!無班として貴族であれ処断する。が、新年の儀である、追って処分は正式に伝える、大臣、牢に入れておけ!」
「は!」 
 その場にいた第3軍団の兵士たちが第一軍団の兵士たちを拘束して連れて行ってしまった。あまりにインパクトの強いデモンストレーションになってしまった。
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