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第四十九話 新たな目標
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「なるほど。コンマーレさんが大変な状況なのは良くわかった。仮にその先代族長が動き出すとして、具体的にどのくらいの規模で敵は襲ってくるのだろうか。協力できることがあれば、俺たちは何でもしよう。主に金銭面で」
これから戦争になるとすれば、俺たちに協力できることは多い。
何せ、もうこの土地で俺たち商店を知らない者はいないのだ。戦士を確保するのも、武器を調達するのも、もちろんお金を工面するのもやってみせよう。
意外に思うかもしれないが、年長のタイタンロブスターが動くというのはつまり、人類に戦争を仕掛けるという意味なのだ。これは、我が故郷の国でも耳にしたことがある。ごく小規模の部隊で、国の戦力を破壊して回るのだ。
多くの人が傷つき悲しむ。タイタンロブスターという種族は知能こそ持っているが、人間相手に情けをかけようなどとは思わない。それこそ、イノシシやシカを狩るのと同じ感覚で、人間を殺せるのだ。人間に友好的なタイタンロブスターなど、コンマーレさんくらいのものだろう。
そんな事態は絶対に起こさせない。俺が持ちうる最大限の力でもって、必ず防いで見せよう。俺も、この地に愛着がある。目的もある。そして守りたい人々がいる。戦士として戦うことは出来ないが、せめて彼らが最も戦いやすいよう支援しよう。
「悪い知らせの二つ目だな。……恐らくだが、老齢のタイタンロブスターが20頭ほどだろうと予測している。古くからこのアストライア大陸近海を守護し、先代族長ムドラストに協力してきた者達だ」
20!? それも、太古から生きているタイタンロブスターが!? ウチェリトさんは『老齢』と表現したが、とんでもない。タイタンロブスターが老いることは絶対にないのだ。むしろ年齢を重ねるごとに強く、大きくなる。
プロテリアから聞いた話だと、先代族長ムドラストは御年1900歳になる。そこまで成熟したタイタンロブスターは、皆無限にも等しい魔力を有し、世界に存在するほぼ全ての属性の魔法を操る。人間では及びもつかないほどの戦力だ。
「どうにか、穏便にことを済ませられないのでしょうか! コンマーレさんが恨みを買っているのはわかります。そして地上の人々も。しかし、そんな大戦力で掛かられては、このアストライア大陸にいる人間が壊滅してしまいます!」
アラレスタの意見はもっともだ。俺も抗戦を考えていたが、流石にこれは無理である。
こんなことを考えるのも良くないのだろうが、霊王ウチェリトと大精霊ロンジェグイダが動いたとしても、人類は滅びるだろう。
いや、それほどのタイタンロブスターが攻めてきたら、アストライア大陸中の精霊を結集して解決に望まなければならない。そんなことをすれば、人類どころかあらゆる生物が大量絶滅を迎えてしまう。
いや、それほどの戦力、大精霊ロンジェグイダが交流を持っていないはずがない。
彼は今までこの大陸を守護してきたのだ。そういった強力な勢力に対し、何らかの抑止力を持っているはず。
「穏便に済ませる方法はある。タイタンロブスターの若い衆は、さほど人間に恨みなどないのだ。子どもの精神的教育などほとんどしない連中。年齢の違いによって対立することは珍しくない。そこを突くんだ」
な、なるほど。確かに、タイタンロブスターは子育てをしない、という話をよく聞く。
いや、厳密に言うと、子育てはするのだ。しかし、肉体が一人前になったら、親は子を野に放つ。けれど、タイタンロブスターが知能を獲得するのは400歳くらいだ。そのズレによって、親の思想が子に受け継がれない。
もしタイタンロブスターの若者がこちら側についてくれれば、戦争を回避できるかもしれない。タイタンロブスターも他の生物と同じく、年長者は少ないものなのだ。
いくら無限の寿命を持つタイタンロブスターと言えど、不死身ではない。
特に、脱皮の際にはとてつもなく体力を使うという。これに失敗して死ぬ個体も多いそうだ。それに、成熟した個体は戦いに出る機会が多い。いつでも現役のタイタンロブスターは、同時に死ぬ危険性も高いのだ。
また、この地域に住むタイタンロブスターの族長は、知能を獲得した者=有権者の選挙によって任命される。数の多い若者の意見はより重要になってくるのだ。
いくら重要度が下がったとは言え、族長の権力は未だ大きい。
「しかし、いったいどうやってタイタンロブスターの若者を味方につければ良いものか。俺たちにはタイタンロブスターの知識なんてない。人間の金銭に、果たして彼らが食いついてくれるのだろうか」
「彼らは知恵を最も愛する種族だ。特に、エコテラがこの世界に持ち込んだような、まったく新しい考え方・価値観というものをこよなく愛する。しかし、それだけでは手札として弱いだろうな。実用性に欠ける。エコテラのそれは、より人間向きに特化した知識だ」
知恵、知恵か。ウチェリトさんの言う通り、エコテラがこの世界に持ち込んだものは、およそタイタンロブスターが活用できるようなものではない。彼等にも貨幣やマーケティングという概念は存在するが、人間ほど極端ではない。
彼らが欲しがるとしても、それは雑学程度のことで、戦争を回避する手段としては不十分である。
しかし、それではダメだ。戦争は絶対にやめさせなければならない。エコテラの知識の中に、何か彼らが欲しがるものもあるはず。何せ、彼女はここよりもずっと文明の進んだ地球を生きていたのだから。
「そんなに唸っても仕方がないだろう。彼らが欲しがるのは戦いの技術だ。平和な日本で生きてきた普通の少女に、そのような知識があると思うか? むしろその手のことに関しては、領主家の長男であるお前の方が詳しいはずだ」
……そう、だな。エコテラは、およそ戦争とは無縁と言える世界を生きてきた、普通の少女だ。そんな彼女に、俺は何を求めているのか。
であれば、俺の記憶から捻り出そう。彼らを食いつかせる技術を。
「……なぁエコノレ、お前は本物の貴族になるつもりはないか? いや、国政には関わらなくてもいい。我々森の精霊が認めた、この地の領主になる気はないか? そうすれば、この戦争を回避することができるかもしれない」
どういうことだ? 俺が領主になれば、戦争を回避できる?
いや、領主になるというのは、実は小さいころからの夢でもあった。幼少期は、自分が父の跡を継いで領主になるものと思っていた。なれるのならば、なりたい。
「詳しく、聞かせてもらっても?」
「……奴らが求めているのは、人類じゃない。我々精霊種だ。特に、ロンジェグイダを筆頭とした人型の精霊種である。奴らは我々と接触するため、地上から人類を排除し、代わりに自分たちが地上を席巻しようという考えなのだ」
「それはつまり、蜉蝣様の力が欲しいということですね。しかし、タイタンロブスターには蜉蝣様との繋がりはない。あの御方の力を頂くのは不可能です。それを向こうに理解してもらえば良いだけなのではないですか?」
アラレスタ、少し怒っているな。連中の考えがあまりにも理不尽に感じたのだろう。
俺だってそうだ。向こうの都合で、どうして俺たちが侵略されなければならない。抵抗も許されないほどの大戦力で。
「我々精霊種は、侵略されないのではない。生かされているんだ。今の戦力では、20頭もの歴戦タイタンロブスターを相手に出来ない。しかし、彼らにとって俺たちは必要な存在だ。蜉蝣様の技術を、我らを通して得るために」
この大陸を守護する精霊たちですら、タイタンロブスターの軍勢の前にはひれ伏すしかないのか。何という絶望感、無力感。この世の理不尽とは、今まさにこの状況のことをいうのだろう。
「そこでだ、エコノレ。お前がこの地域を治めろ。お前は既に、そこらの貴族よりも遥かに巨大な富を持つ豪族だ。領主になることも不可能ではない。そして、本格的に精霊種と友好関係を結べ。それが済んだら、今度はタイタンロブスターの若い衆を引き込むんだ。精霊種と友好関係を結ぶ以上、連中は人間も襲うことはできなくなる」
「! 連中には精霊種の技術が必要で、精霊種と共存関係を結ぶ人類を襲えば、精霊は彼らに技術を提供しなくなる。ここまでの非常事態なら、保守派の精霊も協力せずにはいられないでしょう。結果的に戦争を回避できる、ということですね!」
彼の言いたいことが良くわかった。そういうことであれば、俺に任せて欲しい。誰もが平和に生きられるよう、最高の都市を築いて見せる。
「……その任務、引き受けましょう。そして、人類を守って見せる」
「任せたぞ、エコノレ。そして、これからも彼をよろしく頼んだぞ、アラレスタ。……ニーズベステニーが動ければ、こんな回りくどいこともしなくて良いものを」
決意は固まった。これからは、商店だけでなくこの地を守るべく動こう。
あぁ、向こうの大陸に渡るのは、もう少し先になってしまうだろうが。久し振りに、彼女の顔を見たくなった。
これから戦争になるとすれば、俺たちに協力できることは多い。
何せ、もうこの土地で俺たち商店を知らない者はいないのだ。戦士を確保するのも、武器を調達するのも、もちろんお金を工面するのもやってみせよう。
意外に思うかもしれないが、年長のタイタンロブスターが動くというのはつまり、人類に戦争を仕掛けるという意味なのだ。これは、我が故郷の国でも耳にしたことがある。ごく小規模の部隊で、国の戦力を破壊して回るのだ。
多くの人が傷つき悲しむ。タイタンロブスターという種族は知能こそ持っているが、人間相手に情けをかけようなどとは思わない。それこそ、イノシシやシカを狩るのと同じ感覚で、人間を殺せるのだ。人間に友好的なタイタンロブスターなど、コンマーレさんくらいのものだろう。
そんな事態は絶対に起こさせない。俺が持ちうる最大限の力でもって、必ず防いで見せよう。俺も、この地に愛着がある。目的もある。そして守りたい人々がいる。戦士として戦うことは出来ないが、せめて彼らが最も戦いやすいよう支援しよう。
「悪い知らせの二つ目だな。……恐らくだが、老齢のタイタンロブスターが20頭ほどだろうと予測している。古くからこのアストライア大陸近海を守護し、先代族長ムドラストに協力してきた者達だ」
20!? それも、太古から生きているタイタンロブスターが!? ウチェリトさんは『老齢』と表現したが、とんでもない。タイタンロブスターが老いることは絶対にないのだ。むしろ年齢を重ねるごとに強く、大きくなる。
プロテリアから聞いた話だと、先代族長ムドラストは御年1900歳になる。そこまで成熟したタイタンロブスターは、皆無限にも等しい魔力を有し、世界に存在するほぼ全ての属性の魔法を操る。人間では及びもつかないほどの戦力だ。
「どうにか、穏便にことを済ませられないのでしょうか! コンマーレさんが恨みを買っているのはわかります。そして地上の人々も。しかし、そんな大戦力で掛かられては、このアストライア大陸にいる人間が壊滅してしまいます!」
アラレスタの意見はもっともだ。俺も抗戦を考えていたが、流石にこれは無理である。
こんなことを考えるのも良くないのだろうが、霊王ウチェリトと大精霊ロンジェグイダが動いたとしても、人類は滅びるだろう。
いや、それほどのタイタンロブスターが攻めてきたら、アストライア大陸中の精霊を結集して解決に望まなければならない。そんなことをすれば、人類どころかあらゆる生物が大量絶滅を迎えてしまう。
いや、それほどの戦力、大精霊ロンジェグイダが交流を持っていないはずがない。
彼は今までこの大陸を守護してきたのだ。そういった強力な勢力に対し、何らかの抑止力を持っているはず。
「穏便に済ませる方法はある。タイタンロブスターの若い衆は、さほど人間に恨みなどないのだ。子どもの精神的教育などほとんどしない連中。年齢の違いによって対立することは珍しくない。そこを突くんだ」
な、なるほど。確かに、タイタンロブスターは子育てをしない、という話をよく聞く。
いや、厳密に言うと、子育てはするのだ。しかし、肉体が一人前になったら、親は子を野に放つ。けれど、タイタンロブスターが知能を獲得するのは400歳くらいだ。そのズレによって、親の思想が子に受け継がれない。
もしタイタンロブスターの若者がこちら側についてくれれば、戦争を回避できるかもしれない。タイタンロブスターも他の生物と同じく、年長者は少ないものなのだ。
いくら無限の寿命を持つタイタンロブスターと言えど、不死身ではない。
特に、脱皮の際にはとてつもなく体力を使うという。これに失敗して死ぬ個体も多いそうだ。それに、成熟した個体は戦いに出る機会が多い。いつでも現役のタイタンロブスターは、同時に死ぬ危険性も高いのだ。
また、この地域に住むタイタンロブスターの族長は、知能を獲得した者=有権者の選挙によって任命される。数の多い若者の意見はより重要になってくるのだ。
いくら重要度が下がったとは言え、族長の権力は未だ大きい。
「しかし、いったいどうやってタイタンロブスターの若者を味方につければ良いものか。俺たちにはタイタンロブスターの知識なんてない。人間の金銭に、果たして彼らが食いついてくれるのだろうか」
「彼らは知恵を最も愛する種族だ。特に、エコテラがこの世界に持ち込んだような、まったく新しい考え方・価値観というものをこよなく愛する。しかし、それだけでは手札として弱いだろうな。実用性に欠ける。エコテラのそれは、より人間向きに特化した知識だ」
知恵、知恵か。ウチェリトさんの言う通り、エコテラがこの世界に持ち込んだものは、およそタイタンロブスターが活用できるようなものではない。彼等にも貨幣やマーケティングという概念は存在するが、人間ほど極端ではない。
彼らが欲しがるとしても、それは雑学程度のことで、戦争を回避する手段としては不十分である。
しかし、それではダメだ。戦争は絶対にやめさせなければならない。エコテラの知識の中に、何か彼らが欲しがるものもあるはず。何せ、彼女はここよりもずっと文明の進んだ地球を生きていたのだから。
「そんなに唸っても仕方がないだろう。彼らが欲しがるのは戦いの技術だ。平和な日本で生きてきた普通の少女に、そのような知識があると思うか? むしろその手のことに関しては、領主家の長男であるお前の方が詳しいはずだ」
……そう、だな。エコテラは、およそ戦争とは無縁と言える世界を生きてきた、普通の少女だ。そんな彼女に、俺は何を求めているのか。
であれば、俺の記憶から捻り出そう。彼らを食いつかせる技術を。
「……なぁエコノレ、お前は本物の貴族になるつもりはないか? いや、国政には関わらなくてもいい。我々森の精霊が認めた、この地の領主になる気はないか? そうすれば、この戦争を回避することができるかもしれない」
どういうことだ? 俺が領主になれば、戦争を回避できる?
いや、領主になるというのは、実は小さいころからの夢でもあった。幼少期は、自分が父の跡を継いで領主になるものと思っていた。なれるのならば、なりたい。
「詳しく、聞かせてもらっても?」
「……奴らが求めているのは、人類じゃない。我々精霊種だ。特に、ロンジェグイダを筆頭とした人型の精霊種である。奴らは我々と接触するため、地上から人類を排除し、代わりに自分たちが地上を席巻しようという考えなのだ」
「それはつまり、蜉蝣様の力が欲しいということですね。しかし、タイタンロブスターには蜉蝣様との繋がりはない。あの御方の力を頂くのは不可能です。それを向こうに理解してもらえば良いだけなのではないですか?」
アラレスタ、少し怒っているな。連中の考えがあまりにも理不尽に感じたのだろう。
俺だってそうだ。向こうの都合で、どうして俺たちが侵略されなければならない。抵抗も許されないほどの大戦力で。
「我々精霊種は、侵略されないのではない。生かされているんだ。今の戦力では、20頭もの歴戦タイタンロブスターを相手に出来ない。しかし、彼らにとって俺たちは必要な存在だ。蜉蝣様の技術を、我らを通して得るために」
この大陸を守護する精霊たちですら、タイタンロブスターの軍勢の前にはひれ伏すしかないのか。何という絶望感、無力感。この世の理不尽とは、今まさにこの状況のことをいうのだろう。
「そこでだ、エコノレ。お前がこの地域を治めろ。お前は既に、そこらの貴族よりも遥かに巨大な富を持つ豪族だ。領主になることも不可能ではない。そして、本格的に精霊種と友好関係を結べ。それが済んだら、今度はタイタンロブスターの若い衆を引き込むんだ。精霊種と友好関係を結ぶ以上、連中は人間も襲うことはできなくなる」
「! 連中には精霊種の技術が必要で、精霊種と共存関係を結ぶ人類を襲えば、精霊は彼らに技術を提供しなくなる。ここまでの非常事態なら、保守派の精霊も協力せずにはいられないでしょう。結果的に戦争を回避できる、ということですね!」
彼の言いたいことが良くわかった。そういうことであれば、俺に任せて欲しい。誰もが平和に生きられるよう、最高の都市を築いて見せる。
「……その任務、引き受けましょう。そして、人類を守って見せる」
「任せたぞ、エコノレ。そして、これからも彼をよろしく頼んだぞ、アラレスタ。……ニーズベステニーが動ければ、こんな回りくどいこともしなくて良いものを」
決意は固まった。これからは、商店だけでなくこの地を守るべく動こう。
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