※異世界経済王※ ~二重人格、彼と彼女の物語~

Egimon

文字の大きさ
上 下
32 / 56

第三十二話 商店予定地

しおりを挟む
 取り敢えずこれで、重要な人材の確保は終わった。
 経営戦略と接客の要、マシェラ。森林探索の案内と警護、カッツァトーレ。知名度と知識の提供および仕入れ担当、アラレスタ。経営戦略の中心プロテリア。
 他にも沢山の人の協力を取り付けた。ようやく、店を始める準備が整い始めたんだ。

「でも、マシェラさんが意外とあっさり承諾してくれたからなぁ。この後の時間が余っちゃった。どうしよっか。今日は別口の案件を入れないことのしてたし」

 あの後マシェラさんは、お兄さんにこのことを話すと言って帰った。販売はマシェラさんが担当しているけど、肉の仕入れに関してはお兄さんを相手にする。そのため、事前に話を通してくれるのだという。ありがたい限りだ。

 家族での彼女の評価は非常に高く、確実に頷かせてみせると彼女は言っていた。
 当然だろう。彼女の経営戦略がなければ、需要も低く扱いづらい大型の肉などは絶対に捌けない。いくら技術があろうとも、それを売るのは難しいのだ。

 彼女のお兄さんには、後日カッツァトーレを紹介しようと思う。
 元々森に罠を仕掛けて大型獣を捕獲していたそうだけど、カッツァトーレが一緒ならもっと森の奥深くまで入れるのだ。それに、森の獣には詳しい。より多くの商材を確保できると、期待している。

「あ、そうだ! エコテラさん、商店予定地を見に行くのはどうですか? 昨日エコノレさんが仕入れ先に話を付けて、もうみんな動き出してくれてるはずですよ!」

「あ~、そうしよっか! 今日はもう難しい話が出来る気力は残ってないし、それに私実際に予定地を見たわけじゃないしね。準備がどのくらい進んでるのか確認しに行かないと」

 アラレスタに導かれ、私たちは歩き出す。目指す先は、住宅地側の入口だ。マーケットで一番人通りの多い地域でもある。肉屋はその場所にほど近い。

 マシェラさんと話を付けられたこともあって、足取りはとても軽かった。少し歩くと、すぐに件の商店予定地が見えてくる。

「おぉ~、結構良い感じ! 様になってきたね」

 一つ木の門をくぐると、そこには大量の商品群。野菜に米など、様々な品が木箱に入れられ保管されている。商店を始めるころには、肉や魚などの食品もここに集められることになる。

 住宅地側の門から伸びる、大通りに直接面した最高の立地。これから大商店を築くのに最も適した場所だ。これも、エコノレ君の奮闘のおかげである。

 実はこのマーケット、誰かが特定の土地を所有している訳ではなく、露店を出したい人が勝手に場所をとって、勝手に商品を売るという、とても自由な形式をとっているのだ。

 だから、露店の場所は早い者勝ち。あとから来た新参は、住宅地から遠い隅っこで商店を開くしかないんだ。
 しかしそれは許すまいとエコノレ君、見事な交渉術でこれを解決してくれた。

 エコノレ君は、この場所にもとからいた露店の人を中心に、仕入れ先として契約していたんだ。仕入れの代金は露店の販売価格とそう変わらない。だから彼らは、この場所を手放したとしても何ら害にならないのだ。

 けれど一小売業者として、ずっと特定の仕入れ先から商品を仕入れるのは良くない。それでは、他の生産者が市場に参入できないからだ。
 エコノレ君も、それを知らないはずがない。逆にそれを分かっていた上で、彼らを嵌めたのだ。数か月もすれば仕入れ先は変更されるが、もう私たちはこの場所を手放さない。

「エコノレ君って、結構エグイことやるよね。まあ、お相手の態度が気に入らなかったってのも分かるけど。私は大歓迎だなぁ、そういうの」

 そう、この地域の人は、流石に立地条件による売り上げを理解している。だから中々手放さなかったのだ。こちらが理路整然と話をしているのに、向こうはただこっちを罵倒するだけ。そんな交渉が続いていた。

 エコノレ君はそれに苛立ちを覚えたのか、自分たちに商品を卸す場合と、露店で商品を売る場合の売り上げの変化について説明し始めた。そして逆に、こちらと取引をするリスクについては一つも説明しなかった。

 まあわざわざリスクを説明してやる義理もないし、そんな必要もない。私も当然の判断だと思う。
 そしてついにエコノレ君は、アラレスタとカッツァトーレの協力もあり、見事頑固な連中から契約を取り付けて見せたのだ。

 内容は単純な売買契約。それも、長期契約などは一切確約していない。
 実は、八百屋の婆さんや魚屋には、ある程度の期間を提示して契約していたんだ。そのあたりの説明も全部している。

 だけど件の頑固者に対しては、まったく何の説明もしていなかった。売り上げの推移を示す資料と、精霊の協力のたった二点でごり押ししたのだ。
 売買契約は、こちらから簡単に切ることが出来る。向こうがなんと言おうと、私が嫌だと言ったら仕入れ先を変更できるんだ。

 当然向こうがそんな事情を知っているはずもなく、今は大金が入ってくるとホクホク顔で仕事をしていた。本当におバカな限りだ。逆に、それを見越した上で交渉してきた肉屋が、どれだけの手腕を持っているのか良くわかる。

 思えばこの計画は、エコノレ君の交渉術と信頼の上に成り立っていた。
 確かに、説明を聞く限りとんでもない金が動きそうな気はする。だが確約はない。全く新しい業種なのだから。ゆえに、肉屋はコンマーレさんの存在を確かめたのだ。

 けれどそういったもの全てを、エコノレ君の人柄と話術だけで塗り替えた。交渉相手にそれを考えさせなかった。本当に恐ろしい男だ。彼の力なくして、この商店は成り立たない。

 見渡すほどの土地。建物だけでなく、馬車や荷車を置くスペースも確保してある。この全てを、エコノレ君の口という武器たった一つで勝ち取ったのだ。私が知識を提供していなくても、彼ならそう遠くないうちに大成していたのではないかと、いつも思う。

「本当に広いですね~。あ、あそこがお店の建設予定地ですよ! こんなに大きいお店を作るんですね! エコノレさんから聞いてましたけど、びっくりです」

 建物の建設予定地には、簡易的ながら木材を置いて、具体的な大きさや構造を分かりやすくしていた。
 確かに普段露店でしか買い物をしないのなら、とんでもなく大きいだろう。しかし日本のスーパーマーケットを考えると、少し小さいかもしれない。

 まあそれは、追々変更できる問題だ。ひとまずは青空の下、棚を並べるだけの商店を試運転しようという話になっている。

 何せ私たちには時間がない。あと数年で私もエコノレ君も死ぬのだ。スーパーマーケットのように、大きな構築物の建設を待っていられる余裕はない。
 それに、まだスーパーマーケットというものは、この国に定着していないんだ。実際に商店を始めたとき、スムーズにことを進めるにはこっちの方がいい。

 というわけで、建設予定地とは別にまた土地を確保していた。ここは後々駐車場になる予定だが、今はスーパーマーケットの試運転地として活用する。

 とにかく今は、店の中を回って商品を手に取り、レジでお会計をするということを覚えこませるんだ。レジが存在するというのも、露店よりスーパーが優れている点である。
 いちいち野菜だけお会計するよりも、まとめて全部払ってしまった方が効率がいい。それに従業員も少なくて済む。

 ここでスーパーマーケットという概念を町民に定着させつつ、となりで建物の建設を進めていく。こうして私たちの商店を作っていくのだ。

「あとは……ランジアちゃんに頼んでおいたアレが完成するのを待つだけかな。あ、プロテリアも、ちゃ~んと仕事進んでる?」

「もちろんですよ。僕はこれでも、昔は魔法学者でしたから。むしろ得意分野でしたよ。ランジアの方も手伝おうかと思ったんですけど、断られてしまいました」

 うんうん、二人ともしっかり仕事してくれてるみたいだ。店の試運転が出来る日も、そう遠くないかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...